第15話「なんか殲滅しました」
「ゲップ」「ケプ……」
散々食い散らかした二人は満足気に腹をさする。
まさに
食用植物の貯蔵庫なんてものは幸運に過ぎない。
もともと植物に乏しい荒野だ。あれだけを集めるのも蟻からすれば一苦労だったのだろう。
他の貯蔵庫は、主に残骸だらけ。しかも中は荒野に生息する虫や動物だ。
虫は比較的マシだが、動物は腐敗が始まっており、部屋の中は匂いが酷くキツイ。
しかし、虫がマシとは言え……ちょっと引く位に巨大な毛むくじゃらの蜘蛛だとかも安置されているのでドン引きだ。
でも、素材として売れるには違いないので、殲滅後に再調査するほうがいいだろう。
だが、今は寄り道よりも女王蟻の殲滅を目指した方が賢明だ。
蟻を倒した数が10匹を越える頃には、甘いフェロモンの匂いがきつくなってきた。
この頃には蟻の動きも低調になり、奥に立て籠もっている様子が分かる。
巣の拡張工事と女王蟻の居室の建築は同時並行的に進められているのだろう。
奥へ近づくにつれて蟻が削った地面の跡が荒々しくかつ真新しい。
テカテカと光る壁面が蟻の存在を色濃く感じさせる───
「いた!」
灯火の明かりがフヨフヨと漂い、比較的広い部屋に流れていくと───
その明かりに照らされたのは、大型のラージアントが10匹と、さらに巨大なラージアントだった。
巨大なラージアントは腹部が異様に大きく、周囲には卵が散乱していた。…女王蟻で間違いないだろう。
《ギュュュュィィィィ!!!》
女王蟻が高周波を立てて威嚇している。
大型ラージアントは、そのガーディアンと言ったところか───
「お兄ちゃん、気を付けて!」
エミリィはビィトを援護しようと通路から部屋に踏み込もうとするが、
「そこにいて。すぐ終わるよ」
「え?」
大量の敵と、巨大な蟻には流石にビィトも苦戦すると思われたのだろうか、
「俺は添え物で…足手まといで、器用貧乏かもしれないけど───」
そうだ…
これでも「
「元Sランクだ!」
いくら器用貧乏と馬鹿にされても、Sランクの
Cランクの女王蟻くらい殲滅してやる!
左手に氷塊を、右手に風刃を───
《ギィィィィィィェ!》
ギチギチギチ! と大型の…ガーディアンが10匹一斉に襲ってくる。
「お兄ちゃん!」
…………
思わず目をつむったエミリィの耳は、異音を捕えて離さない。
立て続けに魔法の炸裂する音が響いたかと思う、女王アリの高周波が唐突に止む。
その後には鼻を衝くキツイ臭い…───ギ酸の香りが通路まで漂ってきた。
「終わったよ」
ポンと頭に手を置かれて恐る恐る目を開くと、
ビィトの無傷な姿と、部屋の中に広がるアリたちの惨殺死体が溢れていた。
「す、すごい…」
「どうってことないよ」
寂しそうにフッと笑うビィト。エミリィにはその笑顔の意味が分からなかったが、ビィトは何かずっと気にしていることがあるのだろう。
それにしても、魔術師が近接職顔負けの近距離戦を演じたことが驚きだ。
エミリィもCランクとはいえ、一斉にラージアントのガーディアンに襲われればただでは済まないだろう。
しかも、ただの一斉攻撃ではない。10匹が同時の飽和攻撃だ。
普通なら手数が足りなくなり、防御しなければ押し負ける。
だが、ビィトは無傷で切り抜けてしまった。
ビィトの魔法の威力は氷塊で見ていたが、両手を使っても2匹まで、一体どうやって全部を殲滅したのか……
エミリィの疑問顔にビィトは気付いたのか、
「言っただろ? 連射には自信があるって」
……
「ホントに?」
連射………?
最低でも11発以上の魔法の行使。
女王蟻を含めてそれをを短時間でぶっ放す…って───聞いたこともない。
下級魔法とは言え、魔法の行使には集中力が必要だというのが常識だ。
だからこそ、前衛職に守られて戦うのが魔術師の戦い方。間違っても前衛に立って戦えるようなものではない。
「さ、
「う、うん…」
信じられない思いだが、実際ビィトは一人で殲滅してしまった。
エミリィは首を傾げながらも、ビィトについていき女王蟻達のドロップ品の回収と、
安全になったのを見越して、素材の回収に当たり始めた。
女王蟻からは信じされないくらいの、巨大なフェロモンの瓶がドロップしたし、
ガーディアン達からも大きな「ギ酸袋」が取れた。
これらは錬金術素材として売れる。
……値段は
さらには、素材を剥ぎ取ればそれも売り物になる。
蟻の固い顎や、毒腺、腹の肉、小さな卵はそのまま持ち帰っても売れる。
それらの女王蟻部屋の素材をあらかた回収し終えたとき、ビィトはエミリィに声を掛けようとしたのだが、
バッ! と、唐突に床に耳をつけるエミリィ。
「どうしたの?」
急に奇行をとったエミリィに驚く。
「しっ(静かに)!!」
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