第14話「なんか甘い物みつけました」

 蟻の巣に突入した二人。


 ───ヒュパッ!


 ビィトが左手に宿した魔力を圧縮し、氷のような塊を整形し打ち出した。

 氷塊という下級魔法で物理的に氷の塊で撃ち抜く効果と、触れたものを凍らせる効果がある。


 とは言え、よほど小型で雑魚でもなければ凍り付くことはまずない。

 しかし、ビィトの打った先のラージアントは例外なく凍り付いている。


 もう、カッチンコッチンだ……

 カティンコティンです、はい。


「よっと!」

 突入前に灯した「灯火」のフワフワと浮いた明かりに照らされるラージアントの氷刻。それを蹴り飛ばすと、


 パリィィィン……


 と澄んだ音を立てて砕け散る。

 ポコンとドロップアイテムである「ギ酸袋」が現れた。何故か小袋入りだったりする……(世界の不思議…)


 地上部と違って拾う余裕があるので、エミリィはホクホク顔で拾っていた。

 ビィトとしては、蟻そのものも部位を引っぺがせば素材として売れるのでできれば原型を残したまま倒したいのだが、如何せん巣穴は狭すぎる上、弱点の火球は閉鎖空間では危険だ。


 他にも攻撃魔法はいくらでもあるのだが、現状氷塊で砕きながら進んだ方が効率はいい。


「あれ?」

 突如すっとんきょうな声をあげたエミリィ。

 なんだろうと、振り返るビィトに、

「───……! お兄ちゃん、ここ!」

 殆ど一直線の巣穴だが、横穴もある。

 大抵はゴミ捨て場のような構造で、餌の残骸なんかがあるだけだが───


「んん?」

「みて、みて!」

 エミリィが目を輝かせているが、蟻の巣穴に良いものなんか…


「貯蔵庫か!?」


 その横穴は餌を貯め込む場所らしく、

 他の気味の悪い昆虫を詰め込んだ生き餌のそれとは違い、比較的長く保存できる荒野の植物を集めたところらしかった。


 中に踏み込むと甘い香り……

 そこは、花の蜜やら柑橘系の臭いが漂っていた。


 テテテテ……


 エミリィは迷いなく踏み込むと、その一つを無造作に手に取り、パクー。


「おいひぃ!」


 エミリィさんたら、それはもう躊躇なく大きな花の花弁に溜まった蜜を啜ってる。(ワイルドです)


 蟻が集めたものだから、毒のあるものではないとは言え、随分とサバイバルちっくなことで……


 しかし、ここでビィトも腹の虫が鳴る。


 そう言えば昨日から何も食べていない。

 今朝のパンも結局食べずじまいだった。


 ここはありがたくいただいた方がいいだろう。エミリィを毒見役にしてしまったようでバツが悪いものの、本人は全く躊躇ちゅうちょしていない。


 漂う甘い香りに───

 ゴクリ……


 思わず喉を鳴らすビィト。


 一方で、バクバクと遠慮も躊躇もせずにエミリィは蜜やら多肉植物サボテンなんかを頬張っている。

 棘だらけのそれも、ナイフでこそぎ落とせば野菜のような苦みと甘味が詰まっているようだ。


 恐る恐るビィトも、サボテンに手を伸ばし捌いてみると───


「ん…! うまいっ」

 おっかなビックリ口にしてみると───確かにうまい!

 量は然程さほどないものの、二人の腹を満たすには十分だ。


 ニヒッ、とビィトの様子を見て可愛らしく笑うエミリィ。

 口の周りが蜜でベトベトだ。───う~ん、たくましい…


 花蜜、

 多肉植物サボテン

 イボヤシの実、

 アボカードフルーツ、

 ドライメロン、


 二人はラージアントの巣の中だというのに、むさぼるように食べ始めた。


 最初は躊躇していたビィトも、一口食べれば食欲が爆発したかのようにガツガツと食べる。

 気にしないようにしていたが相当空腹だったのだ。


 「豹の槍パンターランツァ」でも長期遠征中で食糧難になったこともあるので、決して初めてではない。ないが、今回の追放からの奴隷に至るまでのこの惨めさとヒモジさはかなり堪えた。


 うぐっ───グス……


 人知れず涙が溢れていたが、エミリィには気付かれなかったようで安心。


「ぅまい……」

 ワイルドにドライメロンにかぶり付き、涙の痕を誤魔化す。





 そうして、蟻の貯蔵庫を食い荒らした二人は、持ち帰れそうなものは懐に入れてようやく探索を再開した。

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