第11話「なんか門番と揉めました」


 ダンジョン『地獄の釜』の郊外。

 荒れ地の連続する不毛の大地だ。


 振り返れば、その不毛の大地に開いたダンジョンに、へばり付く・・・・・ようにして町が発展している。

 どこからどう見てもダンジョンに依存した街の形態だった。


 あの街はダンジョンに完全に依存している。

 ダンジョンから出る産物に、ダンジョンから引いた水───町はダンジョンありきで成り立っているのだ。その分、ダンジョンに対する警戒は強い。


 なぜなら、強いモンスターが不定期に沸き出すこともあり、その対策のため町の戦力は内側を向く・・・・・・・という一見して異様な光景だ。


 普通なら外敵を警戒するものだろう。


 だが、この街は特別だ。


 荒れ地をエッチラオッチラと越えてくる軍隊はまず居らず…武装集団がいたとしても少数で荒れ地を越える程度。

 しかも、そのほとんどが冒険者で、街にとってのお得意さん。

 当然、それらには警戒が薄い……


 街道は整備されているが、そこを外れればあるのは不毛の大地のみ。街からでれば死しかない。


 なるほど、いびつな街になるわけだ。


 しかし、そんな街でも厄介な問題をいくつか抱えている。

 現状ダンジョンの入り口はガチガチに戦力を集中して固めているが、時折そのダンジョンからモンスターが這い出ることがある。

 それも、脇道からだ。


 なぜそんな事態が起こるのか───

 理由は、とあるモンスターに由来する。


 この地域でよく見られる『ラージアント』という荒野に生息するモンスター蟻が、営巣活動のために穴を掘るのだが、稀にダンジョンに貫通することがある。


 そうなれば大変だ。


 ただの無人空間ならいいのだが、ダンジョンにそんな空間などほとんどなく、

 大抵はモンスターに溢れている。


 そして、そのモンスターがラージアントを駆逐しつつ、わき道からダンジョンの外へ出てくることがあるという。

 (もっとも、近年ではその例はほとんどないが…)


 ダンジョンの発見と利用時から、トライ&エラーを繰り返しつつ街は発展してきた。

 過去には脇から現れたモンスターの大軍に壊滅的被害を受けたこともあるという。


 結局、対策は脇道を早期発見に努めること。

 ダンジョンへの貫通前に潰すことで解決するのが一番! という結論の元。このラージアントの駆除の依頼は定期的に出される。


 ※ ※


「お兄ちゃん?」

 どんよりとした顔でビィトは歩いている。


 その理由は明白。

 ギルドでエミリィ名義で依頼クエストを受けられたのはいいものの、

 街を出るときに一悶着。


 仮免許でしかないビィトを怪しむと同時に、外は危険だから仮免許ごときをペアでだせるか! と事務的なんだか、熱血なんだかよく分からない対応をされて困ってしまった。


 延々と別のパーティ組むように説得されたりしたが、それができれば苦労はない。


 結局、顔見知りの門番が来て、元Sランクだと証言してくれたおかげで事なきを得た。


 とはいえ…「元」と聞いた時の門番たちのビミョーな顔と言ったら…………───う、泣いていい?


「泣きそう…」

「だ、大丈夫?」


 オロオロとして、ビィトを慰めようと小さい背丈でピョンピョン飛び跳ねながら頭を撫でようとしくてくる。

 

 うん…可愛いのでちょっと元気出た。


「世間の冷たい風に当てられてね…」

 ヨヨヨ…とビィトがうじうじ…

「わ、私はお兄ちゃんの味方だよ!」

 うん、財布を掏ったけどね。───それは置いといて、ありがとう。


「ありがとうエミリィ。…さっと終わらせて帰ろうか」

「うん!」


 ラージアント自体はそれほど強いモンスターではない。

 冒険者見習いでも狩れるくらいだ。


 ま、…一体ならば、ね。


 名前から分かる通り、蟻と言う特性を持っているラージアントは当然、……蟻の様に群れる。というか蟻なので当たり前だが。


 大抵は、巣穴からゾロゾロと群れて行動しているものだ。

 例外としては斥候役の蟻もいるので、

 そう言った連中に当たれば、苦も無く狩ることができるのだが、大群に遭遇するとこれは最高に危険だ。


 次々に群がる蟻。

 しかもラージアントは1mを越えるクラスの蟻なので、その顎は非常に強力。まともに食らえば、腕など簡単に千切られてしまう。

 ただ、体の節々が細いので簡単に切断できるという雑魚特性もある。一流の剣士───たとえばジェイクなら一人でも群れを殲滅することができるだろう。


 魔法使いも広域殲滅魔法ジェノサイドマジックを使えば一網打尽だ。

 それ故に、群れや巣穴の討伐も、ちゃんとした準備やそれなりの腕があれば可能ということでCランクの依頼クエストというわけ。


 ベンの小遣い稼ぎにはちょうどいいらしい。


 なるほど、ベンにはちょうどいい・・・・・・・・・・

 依頼クエストを達成しても、お金が懐に入るのはベンのみ。ビィトやエミリィには銅貨一枚たりとも入らない。


 ただし、ドロップ品は別だ。これは拾った者に優先されるし、なによりベンの監視がないので好きにしていいもの。


 問題はラージアントのドロップに期待できないことか……


「あ! お兄ちゃん、見て!!」

 エミリィが声を張り上げる。

 何事かと思ってみれば遠くの方に黒い点が見える。……針の穴よりも小さいけども───


「よ、よく見つけたね!?」

「えへへ、凄い? 凄い!?」

 嬉しそうにはにかむエミリィ。滅多に褒められることがないのか、酷く喜んでいるようだ。


「偉い偉い! これで時間もかからず駆除できそうだね」


 実際、ラージアントの駆除は巣穴さえ見つければそこそこの腕のある冒険者なら困難ではない。


 一番面倒なのは見つけることだろう。


「探知は得意なんです!」

 えっへん、と小さな胸を張る。

 洗いたての服はスケスケで非常に危うい。


「あーうん、驚いたよ」

 チッパイに…ではなく、探知能力に。

 ……目のやり場に困りつつ、顔を背けつつもしっかりと褒める。

 ナデナデと頭を撫でると顔を赤くしてうつむくエミリィ。


 その様子に、

 …小さい頃のリスティを思い出してちょっとおセンチになるビィトだったが、エミリィには笑顔を向ける。


 財布をられたこともあって全く確執がないわけじゃないけど、その辺を飲んでも今の状況は思ったより悪くなかった。

 

 きつく当たる「豹の槍パンターランツァ」の面々に比べれば、エミリィと二人のパーティの何と心安らぐことか……


「よし! 行こうか!」

 ひとしきり撫でるとビィトはラージアントの見えた場所へ駆け足で向かう。


「うん!」


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