第2話「なんか免許の更新期限が切れてました」
「更新期限が過ぎています」
「え?」
俺は冒険者ギルドの窓口でそう告げられて、間抜けな声を上げてしまう。
「え? じゃないですよ。昨日付で更新切れです」
「うそ!!」
冒険者
Sランクなど数えるほどしかいない名誉ランクに近いが、世界最大級のダンジョン──「地獄の窯」で成果を上げている「
ビィトが実家の口減らしのために参入した頃には、この町で屈指のパーティになっていた。
「3カ月前に免許更新のお知らせを出してますよ?」
事務的な口調で呆れた様子の受付嬢は、さっさとどこかへ行け──というオーラを出している。
しかし、ここで折れるわけにはいかない。
「さ、三カ月前って言われても、ちょうどダンジョンに潜る直前か、その後で……」
ゴニョゴニョと語尾を濁すビィトに、事務的だった受付嬢が目を吊り上げて睨む。
まるで、
「まるで、我々の落ち度の様な言い方ですね!」
「お、俺はそんなことは一言も……」
「いいですか! 元々更新期限に通達義務はありません! こちらは温情で、期限切れが近い──と
まったく近頃の冒険者は……と、メラァと怒りのオーラを
ちょっと、……いやかなり怖い。
「す、すみません……」
素直に謝るビィトに、受付嬢はフンと鼻を鳴らし興味を失ったようだ。
「では、次の人───」
そっけない態度で!後ろに並ぶ冒険者に声をかける。
だがここで引き下がるわけにはいかない。
冒険者カードが失効してはギルドで仕事が貰えない。
「
長期遠征には金がかかるので、パーティが互いの資産を出し合って物資を買い込むのは普通だ。
前回の遠征もそうやって物資を揃えた。
つまり、有り金をはたいての冒険。
そして、失敗……
そのため、報酬を貰えなくなった今、
ビィトの財布は空に近い。
報酬と言いつつ、その実──経費なども含まれている。
食料に
そのため全員でお金を出し合うのだが……今回はそれが
報酬は払えないと言われ、それを飲んでしまった以上──今更返せともいえない。
あのお金は経費も含んでいるのだから、クビにする以上その返還を求めても罰は当たるまい。
というか、返さないならそれは横領だ。
しかし、あれほど(妹を含めて)嫌われた上に、役に立っていなかったと言われては、それも言い出せない……
仕方なく、こうして日銭を稼ぐためにこうしてギルドに顔を出したのだが──この始末だ。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
だから現状として、「カードの期限切れです」「はいそうですか」とは言えない……。
「なんですか? 後が控えているんですが──」
俺の後ろを覗き込むようにして、あからさまに早く退けといったオーラを出す受付嬢に、
「おい、いつまでやってんだよ! 早くしろよ!」
さっきまで大人しくしていた冒険者がにわかに騒ぎ出す。
その実、俺は───正確には元俺たち……「
ここ最近で急速に力をつけ、ダンジョン深部に迫る凄腕集団として注目を集めていた。
当然、そこに所属している俺もそれなりに注目されていたが、評判は
器用貧乏として知れ渡っており、ジェイクに至ってはギルドでも人目を
ついた渾名はそのまんま「器用貧乏」だ。
それでも、高位の…一流パーティのSランク。
今までは奇異の目で見られることはあっても、パーティメンバー以外に罵倒されることもなかった。
だが、それがどうだ……
パーティを追い出されたことは早々に噂になり、そして、今──目の前でランクを証明するギルドカードも失効してしまった。
「さ、再発行してください!」
情けなくも俺は受付嬢に
その姿は傍目にもみっともなく、失笑を誘う。
「あのねぇ……そんなに簡単にホイホイできるはずないでしょう!」
もはや苛立ちを隠しもせずに受付嬢もキンキンと咆える。
公衆の面前で、いい年をした冒険者が罵られているのだ……いい注目の的である。
「そこをなんとか……!」
情けなくあっても構うものか、と追いすがる。
だって……
ビィトの実力では、冒険者Sランクなど望むべくもない。
だれが言ったか……添え物Sランク───
決してビィトの実力などではなく、パーティの功績によるものだと
その声は噂程度でもビィトの耳にも入っており、パーティ内でも肩身が狭かったことは事実。
「無理なものは無理です! 良いからさっさと
もはや完全に部外者扱い。並んでいる冒険者も段々とイライラしてくる。
仕方なく列を離れて、ギルド内をぼんやりとさまよう。
冒険者カードを失効した今、ただの無職だ。
ここにいても仕事はない。
とは言え、ダンジョン都市で冒険者以上に働く当てがあるかと言えばそれもない。あとはせいぜい商人か職人に、兵士……どれも一朝一夕には無理だ。
どうしよう……お金がない。
それでも諦めきれずに、ギルド内をウロウロしていると、ニヤニヤ笑うライバル冒険者や、ベテラン連中なんかがビィト見て
弱肉強食で競争社会の冒険者
おまけにビィトは、不相応なランクを持っているとしてヤッカミに近い目を向けられていたからなおさらだ。
恥ずかしい思いをしながら、ギルドの隅で小さくなる。
併設されている酒場で「一杯」といった、飲み代すら心もとないのだ。
財布を確認すると銀貨が2枚と銅貨数枚……個室付きの宿にも泊まれない。
「はぁ……」
ため息をつきつつ、ギルドが閑散とする時間まで待つ。
朝イチのこの時間は、忙しい時間帯なのだ。それこそ列ができるくらいには。
そんな状態で、クドクド話しても職員とてまともに話をしてくれないだろう。
今は時間を潰そう、と。ボンヤリするほかなかった。
ドンッ!
と、ボーっとするビィトに突然の衝撃。
「いだ!」「きゃ!」
腰のあたりにものすごい勢いで、衝撃が走り悶絶する。
元Sランクとは言え、ただの人間だ! 普通に痛いし、身体強化の魔法を使っていない以上、
魔術師の軽装では、防御力も「紙」なのだ。
「うぐぐぐぐぐ……」
み、
悶絶するビィトを気遣ってか、衝撃の主が声をかける。
「ご、ごめんなさい!」
涙目で声の元を見れば、まだまだ子供と言える華奢な体つきの少女が、同じく涙目で謝っている。
「い゛い゛よ゛……大丈夫」
正直大丈夫どころの痛さではない。
全力でタックルされたような感じだ。
ちょっと、ぶつかったといった感じではない。
ホント今日はついていない……
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