翌週
「おはよう」
「おはよう。結局、両方とも使うようになったんだね」
「そうなんだよ」
「ホントに、昨日はびっくりしたよ。散々ないないって言ってた前の手袋を、いきなり両手揃ってはめてきたんだから」
「実は、僕も未だによくわかっていないんだ。僕の持ち主は、母親に部屋で見つけたって言ってたけど、そうじゃないよね?」
「もちろん。詳しいことは全部、昨日彼から聞いたよ」
「え? 教えてよー。結局今になっても直接は話せないから、何も分かんないんだ」
「あー、あれねー、実は君の持ち主が、地面に落ちている鳥の雛を見つけて、巣が近くに見つからなかったから、彼を使ってくるんでいたらしいんだ」
「そうだったのかー……! ……それで、結局その雛は、どうなったの?」
「なんとか、死は免れたみたいだよ。手袋で寒さを耐えしのいでいたら、すぐに親鳥が雛を見つけて、手袋ごと巣に持ち帰ったんだって。その後、手袋は巣に入らなくて、用が済んだら捨てられちゃったみたいだけど」
「でも、本当によかったね! それで、そのあと手袋はどうなったんだい?」
「大したことはないよ。落ちてるのを見つけた人が公園の柵にかけたんだ」
「本当、ひやひやするなぁ。持ち主がちょうど1週間くらいで回収しに行ったからよかったけど、もし前の手袋を探す気がなかったら、普通にやばかったよ」
「きっと、土日で回収しに行く予定だったんじゃないかな。金曜日のあの日、偶然手袋がかかっているのを見つけたんだってさ」
「あれ、確かに昨日の放課後はずっとポケットにいたけど、何も気づかなかったよ」
「じゃあ、相当鈍感だったんじゃないかな」
「やめてよー、恥ずかしいじゃん」
「アハハ」
……ひとしきり話をした後に、僕は一つだけ質問をした。
「……じゃあ、ちなみになんだけど、雛が助かったかどうか、結局持ち主は知らずじまいってこと?」
「……まぁ、そうなるね。僕らは持ち主に何も伝えられないし……」
……あぁ、もどかしい。
「……あーあ、やっぱり手袋も、楽じゃないよ」
ある手袋の、一週間 まつも @matsumo1576
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