消滅寸前の世界より。新米公務員が見た現代社会の真実

限界集落の立ち退きに従事する地方公務員を主人公にした視点が、まず独創的です。

生活に不便な限界集落にあえて暮らす"平成生まれ"の高齢者たちは、頑固だったり、偏屈だったり、変わり者ばかり。そんな気難しい人たちの理不尽な要求に役所が振り回されるのはいつの時代も変わらない。

部署に配属されたばかりの新人の井沢は、物心ついた頃からAIに接して成長したAI世代の若者で、理解不能な思考や執着を持った老人たちの対応に四苦八苦する姿が可笑しい。

もちろん、読者の私たちから見れば、高齢者たちの考えのほうが当たり前の常識だ。しかし、未来の若者には古い常識は通用しない。昔の人々は、なんと非効率、非論理、非寛容な人間かと井沢が呆れてしまうのもわかります。

現代社会の矛盾を突いた掛け合い、社会風刺の利いた世界観にニヤリとさせられる。

時代の変化に抗う限界集落の人々の姿から、いまの社会から失われつつあるものに気づきます。

人間とはなにか、社会とはなにか、限界集落から世界の本当の姿を映し出す、社会派な作品です。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)

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