統計信教:正気の章

尾巻屋

私は指を何本出しているかね、

 冬と熱の取りっこをする、横断歩道で過ごすほんの僅かな間。

 夏はあんなに茂っていた葉を、すっかり落としてしまった街路樹に可哀想だなと皮肉を言ってやる。

 するとそいつは枝の先を見せてきて、小指の先くらいしかない蕾で、確定された明るい未来で、先行き不安な僕の将来を否定する。

 どうだい、君よかはましだろう。

 得意げな奴を見ていると腹立たしくなってしまって、つい、つま先で蹴り飛ばした。周囲に動揺の波紋が浮かんで信号待ちが終わる。

 雪のない季節は生まれて初めてだ。

 

 拝啓未来の僕へ、僕はちゃんと死んでいますか。

 無様を晒して、嘲笑の的になってはいませんでしょうか。

 

 乾ききった風が外套をいてきて、冷たい空気が流れ込む。

 思い出すのは故郷の景色。

 惨めな思い出をも覆い隠してしまう積雪を、自分は踏みしめる。その時は想像もしなかった、踏み躙られる方になるなんて。

 やけに良く響く雑踏が、鼓膜を突き破る。

 

 拝啓未来の僕へ、僕はちゃんと死ねていますか。

 諦めきれない思いの数々を燻らせて、ひつぎを前に駄々をこねてはいませんでしょうか。


 笑いがこみ上げてくる。

 そうやってまた自分の命を人質にとって、まだ為すべきことはあるなんて言い張るのだろう。

 何もできないくせに、してやる勇気もないくせに、とっくの昔に縊れて事切れた夢の後を追うのが怖いだけなのだろう。


 ダイヤの遅れ、飛び込みは赤羽、中野駅東西線は本日も予定通りの運行となります。

 群れたアリの巣はあまねく混雑の見込み。

 

 舌打ちと無関心の耽美に酔い痴れろ、かき混ぜろ。


 

 拝啓未来の僕へ、僕はいつ死ねるのでしょうか。

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統計信教:正気の章 尾巻屋 @ruthless_novel

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