第19話

「は?」

思わず藤川を押しのける。

「へへ。」

藤川もやってしまったと思ったのか、顔が赤くなっている。気まずい空気が流れた。

「……勉強しようか。」

「うん……。」

僕らはまた勉強に戻った。しかし、勉強が手につくはずもなく、気まずい空気のまま勉強会は終わりを迎えた。


帰りも中学校まで送っていく。会話は無く、自転車をこぐ音だけが響いた。

「また会える?」

校門前で藤川が聞いてくる。僕は考えた。すこし間があいたのを感じたのか、またね。とだけ言って帰ってしまった。何も言うことは出来ず、黙って見送った。1人の帰り道。藤川とのいろいろな思い出が頭の中を駆け巡った。また自転車をこぐ音だけが響いた。


次の日、一睡もできなかったが学校へ向かう。駅に着くといつも通り優美が待っていた。罪悪感からなのか、何も知らずいつも通りの笑顔で迎えてくれる優美を直視できなかった。

「恵一、おはよう。」

「おお、おはよ。」

「ん?どした?元気なくない、何かあった?」

優美はすぐに気づいたが、別の女を家に呼んでキスされたとは、言えるわけない。優美は学校に着くまで気にしていた。それが余計に申し訳ないと思わせた。

授業はいつも通り終わり、放課後勉強をして、優美が部活が終わるのを待った。

勉強が一息つき、携帯を見るとメールが来ていた。


藤川:昨日はいきなりごめんなさい。また会いたいです。今度は家にもきて。

僕:昨日は勉強教えてくれてありがとう。びっくりしたけど、大丈夫、また今度行かしてもらうよ。


また行かしてもらうよって、なにを言っているんだ。と自分でも思ったが送ってしまったものを取り消しはできない。

「なるようになるか……。そろそろ時間か。」

優美を迎えに体育館へ向かった。

「遅かったね、勉強はちゃんとできた?」

体育館の前ですでに優美は待っていた。

「あれ?早いね」

「今日は早く終わるって朝話したじゃん、もう」

「そ、そうだったね、帰ろうか。」

僕は優美の話を聞き流してしまっていたらしい。

「受験が終わったら遊びに行きたいね。」

「そうだね、どこ行こうか?」

「とりあえず、カラオケとか?思いっきり歌いたい気分。あとは旅行も行きたいな。」


「……よし、行こう!」

「え?」

そう言って優美の手を握って走り出した。

「え、ちょ……行こうってどこへ?」

「今言ったところ。まずはカラオケだ。」

優美は受験が終わったらでいいと止めたが僕は気にせず歩いた。歩いて10分、受験勉強を始める前によく行っていたカラオケ店に着いた。立ち止まったところで手を繋いでいたことに気づいた。

「あ、ごめん。そういえば手を繋ぐのは初めてだったね。」

優美も意識しだしてか、顔が赤くなっていた。

2人でそのままカラオケ店へ入っていった。

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