第14話

次の日の朝。集合時間より2時間前に起きて、アップで外を走りに行く。まずは歩き、頭と体を起こす。少し走ると今日は調子が良さそうだと感じた。家に戻ると朝食が用意されていた。普段はあまり食べないが、試合前は別だ。ご飯に味噌汁、焼き魚まである。しっかり朝食をとって学校へ向かった。


今日の練習試合は学校の体育館で行われる。いつもと同じ場所なのでありがたい。学校へ着くとネットを張ったり、パイプ椅子を並べたり準備をする。

「おはようごさいます!」

準備をしていると後輩たちが挨拶しながら入ってきた。一年生も混じっている。

「遅い!……早く準備しろ。」

孝太はそれだけ言うと準備に戻った。さっきまでは、まだ来てないのかとキレていたくせに。とフッと笑いながら心の中でツッコむ。

「恵一、なんだよ?」

「いやぁ、あいつらのモチベーション下げないようにしっかりキャプテンしてるなぁと思って、1年のときは1番来るの遅かった孝太が。」

「うるせぇ。」

そんな話をしながら準備を終えて、練習に入る。


しばらく基本的な練習をしていると、石神高校の部員たちが体育館に入ってきた。

「おはようございまーす!」

僕らも挨拶をじ、練習に戻った。顧問の先生同士、挨拶を交わしている。

「来ていただきありがとうございます。よろしくお願いします。」

「こちらこそ、連絡をいただきありがとうございます。」

「孝太、集合しようか。」

顧問が孝太に呼びかける。

「はい。集合ー!」

キャプテンの掛け声に全員が集まり、石神高校と向かい合って並んだ。

「さて、石神高校さん今日はよくきてくれましたね。短い時間ですが、よろしくお願いしますね。早速試合に入りましょう。」

「よろしくお願いします!」

お互い礼をし、アップに入った。しばらくしてアップも終わり、試合が始まった。


孝太も僕もレギュラーだ。まずは、こちらのサーブから。相手がレシーブをミスしこちらに点数が入る。

「しゃー!ナイスサーブ!」

ベンチで応援してくれている後輩たちが声を出す。試合が始まったのを隣のコートで練習していた大山さんと山田さん、林さんも見ていた。今回、女子は隣のコートで練習している。続けてこちらのサーブ、今度は返されてしまうが、うまく繋ぎ孝太が決める。

「ナイス。」

僕は孝太に声をかける。そこから試合は進み、2点差で負けている。初めは調子良く試合を進めていたが、徐々に石神高校も本来の強さを表していった。石神高校のサーブ、ものすごい高さからものすごいスピードで僕の方へ飛んでくる。僕は触るだけで精一杯だった。ボールは女子のいる隣のコートへ転がっていく。僕が急いで追いかけると林さんが拾ってくれた。林さんが僕に向かってボールを投げてくれる。ボールを受け取り、コートへ戻ると、隣のコートでざわざわ女子たちが盛り上がっていた。


僕は試合に集中していたし、自分のことを好きでいてくれる後輩がいることはすっかり忘れていたが、誰が見てもすぐに分かった。

「後輩って林さんのことだったのか……」

ボソッと呟く。

相手にボールを渡し、2回目のサーブ。またしてもものすごいスピードだ。なんとか返し、ラリーが続く。相手のスパイクを地面まで残り数センチのところでなんとか拾う。その後も何回かラリーは続き、最後は僕がスパイクを決めて得点する。レシーブミスを帳消しにしたと、ホッと胸を撫で下ろす。結局2点差が縮まらず、負けてしまった。チラッと林さんの方を見ると目があったがすぐに目を逸らされてしまった。

「あっした!」

お互いに礼をし、ベンチへ戻る。


その後はメンバー総入れ替えで後輩たちベンチ組も試合をし、練習試合が終わった。時計を確認すると、時間はちょうど12時。

「今日はありがとうございました。また大会で会いましょう。」

「ありがとうございました!」

試合前の向かい合った体制で、顧問が挨拶をする。練習試合が終わった帰りの電車。大山さんと孝太といつも通り3人で帰っている。

「あの話、後輩って林さんのことだったんだな。」

いきなりぶっ込んでみる。

「えっ?」

大山さんと孝太が同時に声をあげる。

「いや、今日の練習試合、ボールが飛んだ時、騒いでたじゃん。今までなんで気づかなかったのか。」

「あれ、マジだったのか……お前ぇ!!このリア充め!」

孝太は胸ぐらに掴みかかってくる。

「……そうだよ、林さん毎日、橘くんの話してる。」

大山さんがなぜか申し訳なさそうに話に入ってくる。

「そんな申し訳なさそうな顔せんでも……」

僕も少し気まずくなる。最寄り駅につき、2人と別れる。あの後も気まずい空気が流れ、なにを話したかはよく覚えていない。


家に着く少し前、携帯がなっていることに気づいた。メールが来ている。誰からか確認すると、そこには『藤川 恵里奈』と書かれていた。藤川とは、中学を卒業して以来全く連絡を取っていなかった。何事かと急いで内容を確認してみる。


藤川:妊娠した。高校辞める。



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