第11話
授業中はクラスも違うし、話はできなかった。これは仕方ない。部活が始まれば何かあるだろう。そう期待して僕は体育館へ向かった。体育館へ入るとすぐに大山さんが目に入る。準備している姿でさえ、この人が彼女なんだ、こんなに可愛かったか?と彼氏フィルターがバリバリかかった。
改めて練習を見ると本当に頑張っていると思う。僕も準備を終えて練習に入る。チラチラ大山さんを見ても、大山さんはいつも通りで俺のことを気にしている様子はなかった。少し寂しいとも思いつつ、それでも練習は一生懸命にした。
「あっした!!」
そして、彼氏彼女になった日の初めての部活が終わった。特に何もない。こんなものかと少し落胆する。大山さんもいつも通りすぎて話しかけようにも話しかけられなかった。本当に付き合ったのだろうかと疑うほどに何も無かった。そりゃいきなりベタベタ話しかけられるわけは無いのだけれども、こんなにも何もないものだろうか、付き合ったことがないからわからない。
「おーい、恵一!帰ろーぜ。」
孝太が呼んでいる。あまり今日のことは考えないように一緒にいつも通り帰った。いつもはいるはずの大山さんの姿はなかった。いつもの風景と違って見えた朝も今は違う意味で別の景色に見えた。大山さんはいつもの電車よりも1本早いので帰ってしまったらしい。家に着くと、メールが来た。
大山:おつかれさま^ ^今日は全然話せなかったね……
大山さんも寂しいと思ってくれている。そう思えてそれだけでテンションが上がってしまう。なんて単純なんだろう。自分のことが少し嫌になる。
僕:そうだね。お互い部活も頑張らなきゃだもんね。明日は少しでも時間があるといいな(^ ^)
と返信して寝てしまった。
次の日、今日こそは彼氏になったのだから、何か彼氏彼女のイベントを起こしたい。そう願って学校へ向かった。でも、終わってみると付き合う前となにも変わらない、むしろここまで話すことすらできないのは今までなかった。次の日もその次の日も学校ではすれ違いで電車もかぶる事がなくなった。家に帰るとメールはするし、彼女もここまで話せないことを寂しそうにしてくれている。それでも学校へ行くと話す機会がほとんどない。話せてもすぐに終わってしまう。
付き合い始めてから、1週間が経った。学校が休みの土曜日。部屋にこもってスマホとにらめっこ。大山さんのことを考えていた。この1週間経っても、それでも変わらないこの状況にイライラが募っていった。彼女は何かと理由をつけて2人で会うことを拒んでいた。その日は忙しい、予定がある、こんなことばっかりだ。どうなっているんだと悩んでいると携帯が鳴った。
大山:なかなか時間作れなくてごめんね。もう別れたい。
内容を見て、なにが起こっているのか一瞬わからなかった。
「え……」
思わず声が漏れた。とにかく理由を聞こうと返信を送った。2分後、すぐにまたメールが来た。
大山:ごめんね。橘くんが悪いわけじゃないよ。でも、付き合ってない時の方が楽しかったよ。また明日、元通りでいれたら嬉しいな。
この後、メールを送っても返信が返ってくることはなかった。こうして、僕の初彼女はたった1週間、なにも起こらないまま終わりを告げた。
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