第5話

僕に一つの疑問が生まれた。藤川さんの好きな子ってのは僕かもしれない。そんなこと考えたこともなかったし、そんなはずないと今でも思っている。でも生まれてしまった疑問は確かめないと気が済まない。僕は確かめるために藤川さんに毎日のように話しかけてみた。


「藤川さんって休みの日は何してるの」

「藤川さんって吹奏楽部だったよね?楽器って何してるの」

「藤川さん、この間のあのテレビ見た?」

僕はとにかく藤川さんに話しかけにいった。周りから見たら僕が藤川さんを狙っているように見えるだろう。そんなことは気にもならなかった、それよりも藤川さんの好きな奴が誰なのかを確かめたくて仕方なかった。この数日間ですごく藤川さんと仲良くなれた気がする。でも今までもよく藤川さんとは話していたし、好きな奴の情報を得ることは出来なかった。これってただ僕が藤川さんを狙っているってことだけになるんじゃ……またドン引きされるのだけはごめんだ。トラウマを思い出して怖くなった。しかし、思っていたこととは逆に藤川さんは今までよりもよく話してくれるようになった。


そんな日が何日も続いたある日、朝、学校に行くと僕はいつも通りに過ごしていたが、藤川さんの様子が少しおかしいように感じた。ただ聞くこともできないので気にせずにいることにした。お昼も過ぎて、授業の中では比較的楽しい理科の時間。太陽に関する話だった。先生が太陽の構造について話をしていた時、いくつもに折り畳まれた一枚の小さい紙が隣から飛んできた。ん?なんだこれは。僕は隣の藤川さんの方を見たが藤川さんは前を向いたまま先生の話を聞いていた。なんだろ。僕はその紙を開いてみた。えっ……紙に書いていた内容に驚くことしかできなかった。


好きです。


紙には弱々しく小さな字で、でも確かにそう書いてあった。もう一度藤川さんの方を見た。藤川さんは前を向いたまま僕のことをシカトする。いやいやいや、えええぇぇぇどゆこと??藤川さんが僕に向かって飛ばしたんだよね?これはからかわれているのか?ドッキリかなにかか?周りが面白がって、藤川さんに書かせた?もう一度藤川さんの方を見た。藤川さんがチラッとこっちを見て、顔を赤くしている。こんなに人って赤くなるんだ……嘘じゃないんだ。うーん、少し置こう。僕はノートを書き出した。ただ、太陽の話なんか全く入ってこない。それどころではない、今勉強よりも大事なことに直面している。考えた。あの時メールで聞いた時も、学校で好きなやつについて話していた時もあれは僕のことだったのかと思うと、恥ずかしくなった。

告白したら?なんて軽く言ったぞ、おい。あの時の俺、何言ってんだ。


返事を考えないといけない。藤川さんのことを好きだと思ったことはなかった。友達だと思う。僕は悩んだが、“ありがとう、嬉しいよ。でも僕は藤川さんのこと友達だと思っているよ”飛んできた紙にそう書いて藤川さんの机の上に置いた。





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