大丈夫ですか
小川貴央
第1話 大丈夫ですか
「大丈夫?みんなが居るからね、元気出して!」
こんな言葉しか掛けて上げられなかった数年前の寒い冬の日、
施設の玄関にタクシーから独り、お婆さんが降りて入って来た。
ニコニコ会釈しながら事務室に電話を借りにきた。
「もしもし、ケイ子さん、わたし今無事に着いたところだから、
みんな元気でね、わたしも大丈夫だか・・うっ・・グス、グスン、
あぁ、ごめんなさい・・ね・・グス、グスン・・・じゃあね」
お婆さんの泣き声で総てが見通せたような気がした。
それを聞いてた周りのケアマネやヘルパーの職員たちが顔を見合わせ
「あ~、アタシこういうのダメだわ」「ね~、苦手、苦手、プフフフ」
黙って聞いてて無性に腹が立った、どうして笑えるんだろうって?
見ず知らずの他人なのに、余りにお婆さんが可哀想で涙が出たのは、
俺一人だった。他の職員たちは「ク・ク・ク・ク」と苦笑いの最中。
思わず駆け寄り「大丈夫ですか?みんなが居るからね、元気出して!」
そんな言葉しか掛けて上げられなかった。
お婆さんの家庭の事情は知らないけど、普通に歩けるし電話も喋れる、
寝たきりでも無いのに・・・?
何でお婆さんの家族は施設に入所させたのだろう?と憤慨した。
否たぶん、察するにお婆さんの方から家族の幸せを願って迷惑かけない
ようにと自分から入所を選んだのだろうと思った。
でも何故、電話に出た嫁さんは送ってくれないのだろうと・・・
冷たい空気を感じた。
今はちょっと手が掛かると淡々と契約書を交わして施設入所を考える
そんな世の中に対して誰かが言わないのかな?言ってくれないのかな?
「もう一回考えて!本当に今が限界なの?もう少し頑張れないの?」
誰だって歳老いるほど、家族と一緒に余生を送りたいはずなのに・・・
(介護の地獄を味わい経験している者として)
大丈夫ですか 小川貴央 @nmikky
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