第11話 “雷神”、“風神”
タムとチャウが目を覚ましたのは、見覚えのあるステージの台の上だった。
「…さん、この二人、どうしましょうか。」
ズーハンがもう一人のC国人とみられる男に指示を仰いでいた。
C国人の男はチョウだった。
「こいつらの鞄に入っていた学生証の住所、西園寺って屋敷ですぜ。」
「西園寺って、あの西園寺圭太か?」
チョウはズーハンに確認した。
「間違いはないかと。
あれだけ大きな屋敷ですし。」
「随分と人をこけにしてくれたな。」
チョウの顔は怒りでみるみる赤くなっていく。
「自分は興味ないなんて面しやがって、陰でガキを買って、育成ごっこかぁ。
しかも、人の足もとみて値切りやがって。
ともかく、このままじゃすませねえ。
おい、そのガキ犯っちまいな。」
「え?
犯っちまいなって?」
ズーハンがチョウに確認する。
「おめえたちの、そのちっちゃいチンポをガキどもにぶち込んで写真を撮ったれ。
そして指の2,3本でもつけて、西園寺に送り付けろ。
舐めやがって。
震え上がったところで、ナシつけてやろうじゃないか。」
チョウはそういうと次の段取りを考えているためか、ステージのある部屋から出て行った。
「くひひひ。
俺、ガキを犯るの、好きなんだよな。
ギャーギャー泣きわめくし、よく締まるし。」
ズーハンは涎を流しそうなだらしない顔をした。
「俺もいいか?」
横からキムが口を挟んだ。
「お前、大人専門じゃないのかよ。
お前のデカチンを突っ込んだら、一発で終わっちまうぜ。」
ズーハンがそう言うと、キムは凄みをきかせてもう一度聞いた。
「俺もいいか?」
「わかったよ、仕方ねえな。
じゃあ、そっちのガキをやるよ。」
ズーハンはキムの凄みに負け、チャウの方を指さした。
「わかった。」
キムはそう答えると、ニヤニヤしながらチャウを見下ろした。
ズーハンは気を取り戻したタムの腕を掴んで抱きしめると、タムの右の頬を舌で大きく舐めた。
「うーん、いい味だ。
良い物食わせてもらっているんだろう?
この前と違って肉付きも良くなったし、いい匂いもするし、そそるなぁ。」
そう言うと、タムの胸に手を伸ばし、着ている服を力任せに引き裂き、少し膨らむ始めたタムの胸に舌を這わせた。
「×$△!」
タムは声にならない悲鳴を上げた。
横ではやはりキムがチャウの洋服を引き裂き、泣きわめくチャウのへその辺りから胸の辺りに舌を這わせていた。
「さてと。」
ズーハンはそう言うと、タムをうつ伏せにして左手でタムの頭を床に激しく押さえつけた。
タムは、顔から床に激突し、鼻血を出し、意識が朦朧となっていた。
ズーハンは、右手でタムの可愛いお尻を持ち上げさせると、今度は右手で自分のズボンのチャックを下ろし始めた。
ガチャガチャ。
「ぎゃう。」
横で地面に何かがぶつかる音と、チャウの悲鳴が聞こえた。
キムも同じようにチャウの後頭部を掴むとチャウの顔を地面に激突させ、意識を朦朧とさせると、チャムの顔を床に押し付けうつ伏せにしたたまま、興奮してか、自分のズボンのベルトを外すのに苦労していた。
その時、屋敷を揺らすような“バリバリバリ”という爆音が聞えてきた。
「ん?
軍用ヘリでも低空で飛んでいるのか?」
ズーハンは、そう言うとまるで空を眺めるように天井を眺めた。
圭太の会社では、そろそろ退社時間が近くなり、外を眺めていた圭太は何か急に嫌な予感に襲われた。
「まさかな…。」
独り言を言いながら、圭太は退社の準備を始めていた。
「ボス、まだ時間前ですよ。」
クエンが笑いながら言った。
「ああ、でも、何か気分が悪いんだよね。」
圭太は眉間に皺を寄せて答えた。
そこに息を切らせた弥七と銀子が飛び込んできた。
「若、タムとチャウが連れ去られた!」
傍にいたクエンが驚いて目を見開き、両手で口を押えていたが弥七はお構いなしに続けた。
「ギエさんから帰りのスクールバスが来ないから学校に問い合わせたらスクールバスが故障していて、二人は歩いて帰るって言って学校を出たんだって。
心配でギエさんが見に行ったら、車に乗せられ連れていかれる二人を見たそうだ。
遠目だったんではっきりとは見えなかったらしいけど、間違いないって。」
「ちい。」
圭太はそう言うと素早く背広を羽織った。
「ボス、警察に連絡を。」
クエンが青い顔をして叫ぶ。
「警察を待っている時間はない。」
圭太はクエンにぴしゃりと言うと、弥七の方を向く。
「弥七さん、二人が連れていかれた先はわかるか?」
「ああ、例の、チョウの店だ。
念のため、見張らせていたんだが、小さな女の子を二人乗せたそれらしい車が店の中に入って行ったって連絡があった。
早く助けに行かないと奴ら何をタムとチャウにするかわかったもんじゃない。」
「わかった。
銀子さん!」
銀子は頷き、オロオロしているクエンの肩に手を置いた。
「クエン、私たちに任せて。」
銀子はクエンにそういうと圭太の方を振り向く。
「圭太、すぐに車を回すから。」
銀子はそう叫ぶと、走って部屋の外に飛び出した。
その後を、圭太と弥七が追う。
「二人を助けてくださいね。」
クエンは部屋から出て行く3人の後姿に向かって祈るように言った。
エレベータに飛び乗り、すぐに玄関口を出ると銀子が圭太と弥七の方を振り向く。
「ここに居て。
すぐに車を…。」
“車を回す”と言いかけて銀子の目は圭太と弥七を飛び越え、後の車止めに停まっている2台の大きなバイクにくぎ付けになった。
銀子の目が釘付けになっている方を振り向くと、圭太の目にも大きな黒塗りのバイクが目に飛び込み、そしてどこからか圭太に向かって何かが飛んで来た。
それを右手で掴んで、飛んで来たものを確認すると雷神、雷を背負った戦いの神が掘られているキーフォルダーに、バイクのキーらしいものが付いていた。
もう一つ、今度は銀子の方にも何かが飛んできて、銀子はそれを両手でつかんだ。
飛んで来たものはやはりバイクのキーとキーフォルダーでキーフォルダーには風神、風を操る袋を持った戦いの神が掘られていた。
「雷神…。」
圭太はそう呟くと2台並んでいる黒くずんぐりしたバイクを見た。
「風神…。」
銀子も同様にそう呟くと、黒いスリムなフォルムのバイクを見た。
「銀子!」
そう言うと圭太は大きい迫力のある雷神に走り寄ると、そのまま、飛び乗り、キーを差し込みスターターを回した。
“ドドーゥン”
さっきまで誰かが運転していたせいか雷神のエンジンは温まっていて、エンジンが一発で気持ちいい音とともに始動した。
銀子もすぐに状況が飲み込めたにか、もう一台の圭太の雷神よりスリムだが十分に大きな風神にまたがり、受け取ったキーを差し込みスターターを回す。
“ドルルゥン”
銀子の風神も一発でエンジンが気持ちよさそうな音を上げた。
「弥七さん、後ろ。」
「はいよ!!」
弥七も状況を理解したのか銀子の後ろに飛び乗る。
「頼むぜ、雷神!」
圭太は、そう言って銀子たちの方を見ずに思いっきりアクセルを開けた。
その瞬間、ダイナマイトが爆発したような物凄い音とともに圭太の乗ったバイクはあっと言う間にその場から掻き消えたように走り出していた。
「風神、お願い!
弥七さん、首、持ってかられないでね。」
「誰に物言ってんじゃ!」
銀子も負けじとアクセルを思いっきり開けると、雷神にはかなわないがそれでも、ダイナマイトが爆発したような音ともに、あっという間に圭太を追って走り始めた。
道路は夕方の帰宅ラッシュが始まりかけ、小さなスクーターやバイクが道路をふさぎ始めていた。
その合間をかいくぐるように圭太の雷神は100キロ近くのスピードで疾走する。
その後を遅れまいと銀子の風神が続く。
「お銀、若に遅れるなよ。」
弥七が運転する銀子に向かってどなる。
「誰が、圭太にドラテク(ドライビング・テクニック)を叩きこんだと思うのよ。
私とこの“風神”が置いて行かれることなんて絶対にありえないんだから!」
銀子はそう言いながら必死で圭太の雷神について行く。
雷神風神に抜かれたスクーターやバイクは、何に抜かれたのか全く分からないほど、二台のバイクは夕暮れを疾走していった。
圭太が10歳の時、母、
光衛は「国境のない医師団」とは違った団体に所属し、依頼を受けたら世界中どこにでも、例え紛争国でも出向き、相手がどんな人間、政治家、ギャングだろうが問わず医療行為を行う医師だった。
医師としても腕も確かで、度胸もあるが、危険な国、危険な相手が多く、命を狙われることもあったので、常に専属のボディガードが付いていた。
その国では戦火で傷を負って秘密裏に病院に運び込まれた反政府の要人を治療することで訪れていた。
「光衛さま、どうやらここに居ては、もう危ないようです。」
「え?
格さん、どういうこと?」
「治療の方は?」
「ええ、もう完了よ。
1週間ほど入院したら移せるわ。」
「それは良かった。
では、任務完了ですね。」
「なに、急いでいるのよ。」
光衛は怪訝そうな顔で、“格さん”と呼んだ男性を見た。
“格さん”はがっちりした体格の持ち主で、強面だった。
「実は、反政府軍のロケット砲撃が今晩予定されてまして。」
「ターゲットは、ここ?」
「はい、ご察しの通り。」
「あ~あ、折角助けたのに、あの人いいように使われちゃう訳ね。
おそらく、政府軍のロケットでも拾ったんでしょうね。
それで、この病院ごと吹き飛ばして、破片が政府軍のだからって。」
「よくお分かりで。」
「で、病院には?」
「は、大きな声でいって反政府軍に聞こえると攻撃時期が早まる恐れがあるので、今、助さんが関係者に内密に説明しているところです。」
「ふーん。」
少しして“助さん”と言われた男が光衛の前にやって来た。
「光衛さま、格さんからお聞きのことと思いますが。」
「ええ、全部聞いているわ。
助さんの首尾はどう?」
「それが、残念ながら取り合ってもらえず…。」
“助さん”と呼ばれた男はどちらかと言うと優男だったが格闘技以外に交渉術にも長けていた。
「はぁ、助さんでもだめだったの。」
「はい。
ここには変政府軍の要人が入院しているし、よもや病院の旗を掲げているところに砲撃などはあり得ない。
怪我人や病人は重症者ばかりで、動かすことは出来ないと。」
「…仕方ないわね。
そう言えばうちの息子は?」
「圭太様ですか?
圭太様でしたらこの病院に入院されている方の子供さんたちと仲良くなって、今も一緒に。」
「またかぁ。」
光衛は右手でおでこを押さえた。
「あの子は誰に似たんだか。
どこでも、誰とでもすぐに友達になって。
別れるたびに寂しい思いをするのにね。
今回も…。」
圭太は光衛とともに、この病院に来てから10日ほど滞在していた。
その内に、病院に入院している父親の傍にいる兄妹と親しくなっていた。
兄は10歳で圭太と同じ、妹の方は8歳だった。
その兄弟の母親は内戦で不幸にも流れ弾に当たり死亡、父親は近くに落ちたロケット砲で怪我をし入院していたが、ほぼ回復の見込みのないほどの怪我だった。
そんな絶望的な境遇の中でも兄弟の目は、絶望にあきらめることはなく、また、人を憎むことなく、とにかく前を向いて必死に生きようという強い光を湛えていた。
その瞳に圭太は魅かれ、一緒に居る時間が多くなっていた。
兄の方は、早く父親を連れてここから出て、働き、出来れば学校に通い、父親と妹の面倒を見たいと夢を語っていた。
妹の方も、そんな兄を支えていくんだという強い思いを語っていた。
「圭太様、夕方にここを立ちます。
ご用意を。」
助さんが圭太を手招きし、耳元で囁く。
「え?
随分、急ですね。」
「はい。」
その返事で圭太はわかった気がした。
「ここですか?」
「はい。」
「今夜?」
「はい。」
「僕、彼らに言ってくる。」
「圭太様。」
助さんは立ち上がろうとした圭太の腕を掴んで首を横にふった。
「なぜ…。」
しかし、圭太はその後の言葉を飲み込むしかなかった。
子供の圭太がいくら何を言っても、何もならないのを良く判っていた。
圭太は、光衛たちの目をこっそり盗んで、仲の良い兄妹に今晩攻撃があると話して聞かせた。
しかし、兄妹は要人が入院しているのを知っていたのと、病院は絶対に攻撃の対象にはならないと教え込まれていたので、圭太の言うことを笑って聞き流していた。
それに、本当だと信じても、父親を置いてはいけなかった。
そして、別れの挨拶をした時、妹の方が圭太に抱きついて来た。
「いろいろありがとう。
短い時間だったけど、私、圭太のことが大好きよ。
大きくなって、再会することがあったら、お嫁さんにしてね。」
妹の方はそれだけ言うと恥ずかしそうに兄の方に戻り、圭太の方に手を振っていた。
圭太達の車は、夕方よりも少し早い時間に病院を後にした。
「この先は?」
「はい、弥七とお銀が宿を見つけてありますので、まずはそこまで行きます。」
と、その時、圭太達の車の上を白い煙の糸を引いたロケットが3基、真っ直ぐ病院の方角に向かって行くのが見えた。
「え?」
「やはり、誰かが我々の会話を聞いて時間を早めましたね。」
格さんがそう言い終わるや否や病院の方角で激しい爆発音が聞こえていた。
圭太は、じっと病院の方角から煙が上がっているのを唇から血が出るほど強く噛んで、見つめていた。
「誰も傷つけない。
誰も死なせない。
明日を見つめる眼をした子供たちは、誰にも傷つけさせない。
そう、あの日、俺はそう誓ったんだ!!」
疾走する雷電を操りながら、圭太は叫んでいた。
しかし、その叫びは雷電の爆音で後ろの銀子や弥七には聞えていなかった。
景色は3か月前に訪れたチョウの店に続く道路に近づいて来た。
「お銀、1回停まって作戦を立てよう。
若に合図して。」
「あいよ」
銀子は弥七に返事をすると、こまめにライトを点けたり消したりした。
これは、モールス信号の一種で、圭太と弥七、銀子しかわからない信号だった。
「おかしいわ。
“停まって”のサインを送っているのに、圭太、停まるそぶりがない。」
「見えてないのか?」
「いえ、信号に対する応答はテールランプであったんだけど、それだけで返信がないの。」
信号は受け手が見たということを教える応答信号と、その信号に対する返信信号の二つがあり、今の圭太からは信号は見たが返信が無かった。
その内、チョウの店と目と鼻の先まで近づいて来た。
「やべえ、あの路地を曲がったらすぐ店だぜ。
そのまま突っ込むんじゃないだろうな。
門番の奴ら、自動小銃を持っているのは若も知っているはずだし。」
その時、前を走る圭太の右手が横に広がり、規則的に指の本数で数字を作り始めた。
これも、圭太、弥七、銀子のみが判別できる合図で、モールス信号よりはシンプルだった。
「なに?
ここで止まって待機しろって?
(圭太が)突っ込んだら、追って来いって?
何を馬鹿なことを…。」
弥七がそう言おうとした時、銀子の風神は急ブレーキをかけ、横にドリフトするようにして停まった。
「お銀、正気か!
若を一人で行かせるのか!!」
弥七は銀子に怒鳴りつけた。
銀子は圭太の雷神の方を顎でしゃくる。
圭太の雷神は路地で曲がらず、横の建物のパーキング入口に入って行った。
横の建物は、気が付かなかったがパーキングビルだった。
「合図があったら行くからね。
しっかり摑まってて。」
銀子は珍しく緊張した声でいった。
「ああ、わかった。」
弥七も銀子の声を聞いて気を引き締めなおした。
圭太は雷神でパーキングの入口の棒をへし折り、そのままの勢いで中に突入し、物凄いスピードで、2階、3階と上がって行く。
圭太が通った跡は、タイヤが地面にこすれる時に上がった煙が充満していた。
そして3階に上がったところで、チョウの店の方向に向かってまるで射出口のように幅30センチ板がビルの外に向かってスロープのように置かれていた。
圭太はそれを見ると、躊躇することなく、アクセルを再び全開にし、軽くマフラーの下を踵で蹴った。
その瞬間マフラーが人為的にずれ、まるでヘリコプターのホバリングの音より甲高い音のように“バリバリバリ”と大音響で鳴り響いた。
そして、アクセルを緩めることなく、そのまま、スロープ代わりの板を渡りそのまま雷神とともに、爆音をなびかせながら宙に飛び出した。
「来た!!」
“バリバリバリ”という雷神の爆音を聞いて銀子はすぐさま風神のアクセルを全開にし、チョウの店に通じる直ぐな路地に突っ込んだ。
「あっ!」
路地に入った瞬間、銀子と弥七は宙に舞う雷神の姿を見て度肝を潰した。
「飛んでいるよ…。」
「畜生、圭太め。
なんてかっこいい真似をして!
弥七さん、こっちも行くからね。」
銀子は舌なめずりをしながら乗っている風神のマフラーの下を踵で軽く蹴った。
すると、圭太の雷神とは真逆に排気音が静かになった。
音は完全に無音にまで消音されることはなかったが、雷神の爆音に音がかき消され風神の疾走音はほとんど聞こえないに等しかった。
「チビちゃんたち、待っててね。
直ぐに助けてあげるからね。」
銀子が店の方に向かって叫ぶと、後ろの弥七がいつの間に手にしたのか、両手に特殊警棒を持ち、その持っている特殊警棒を振って最大限に伸ばし身構えていた。
パーキングビルの3階から飛び出した圭太の目標は、チョウの店の玄関から中に入った広間の吹き抜けの屋根だった。
そこだけ採光を取り入れるためか硬質ガラスになっていることを、3か月前に来た時に見て圭太は覚えていたのだった。
そこに車重300キロもあろうかという雷神で突っ込めば、いくら硬質ガラスでも突破り屋敷の中に入るのは容易なことだった。
飛び出したスピードとスロープの角度は寸分違わずにその硬質ガラスの屋根の中心を目指していた、
圭太は空中で雷神のバランスを取りながら、しかもアクセルを全開にしたまま、硬質ガラスの中央に舞い降りる。
硬質ガラスは中に鉄線が入っていたので、ガラスは飛び散ったが鉄線だけが剥き出しになった。
その上で、尚もアクセルを全開にした雷神の後輪が音を立てて煙を上げながら空転、バーンアウトさせると、その衝撃と風神の重さで窓枠ごと屋敷内に落ちていった。
圭太が雷神とともに飛び込んだロビーでは銃を持った男が二人、あ然とした顔で圭太の方を見ていた。
圭太はそのまま雷神の後輪をホイールスピンさせ前輪を中心に大きく360度の円を描き、その二人を跳ね飛ばす。
跳ね飛ばされた男たちは、壁に激突すると鈍い音がしその場で動かなくなっていた。
圭太は素早く周りを見わたし、地下に通じる階段を見つけると、雷神のスタンドを立て飛び降り、胸のホルスターから右手で特殊警棒を抜くと、そのまま振って伸ばしながら、地下に通じる階段を駆け下りていった。
「な、なんだ?」
店の門では自動小銃を持った男が二人、空を飛んで入る圭太と雷神を呆然と見上げていた。
その横を一陣の風が吹き抜けると同時に、目の前に警棒が見えたと思った瞬間「ぐぇ」と男たちは弾き飛ばされたように倒れ動かなくなっていた。
「一丁上り。」
銀子の後ろで両脚に力を入れ風神を挟み込んでいた弥七は軽口と叩いた。
弥七はその姿勢のまま、両手に持っている特殊警棒で二人の門番を叩き飛ばしていたのだった。
店の方では物凄い破壊音とともに屋根から煙が上がっていた。
「圭太が入ったわ!
このまま突入するから摑まって。」
「おう。」
銀子に言われ弥七は特殊警棒を口にくわえ、両腕で銀子にしがみつく。
二人は身をかがめて、そのまま風神ごと玄関のドアを突き破り店の中に突入する。
店の中では、雷神が怪しい光を発して立っていて、その横の地面には二人の男が身体から煙を出し、横たわっていた。
「馬鹿め、雷神に触ったな。」
雷神と風神は盗難防止用にスイッチを入れると高圧電流が本体の金属部分に流れ、それを直接触った人間を感電させる機能を持っていた。
銀子たちは風神を雷神の横に停め、スタンドを立てると素早く風神から降り、周りを見わたした。
「若は地下だ。」
弥七は素早く地下への階段を見つけた。
すると1階の奥から異変に気が付いた男たちの怒号と足音が聞えてきた。
「4,5人ね。
弥七さんは圭太を追って。」
銀子は弥七にそう言うと風神のところに戻り、エンジンの横から特殊合金で出来たトンフ
ァを取り出し両手で持つと足音が近づいてくるロビーへの入り口付近の暗がりに溶け込むように見えなくなった。
弥七は頷くと、地下の階段を駆下りて行った。
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