第21話8月15日/完成版のゲームとは


 さてゲームの内容について話しておこう。

 ハッキリ言って『別のゲーム』である。


 非常に難しいゲームになった。イベントが分からないからだ。

 元のゲーム、チュートリアルでは、吹き出しでイベントを紹介してくれていたが、それがない。


 ある程度はチュートリアルを参考に進められるが、追加や削除されたイベントが、その有無すら分からないのだ。

 相手の反応が全く予想出来ない。コレには困った。


 早々に『チュートリアル』に戻ったゲーマも、かなり多いと聞く。オレと同じ感想を持った者達以外は。

 そう、オレはゲームを始めて(もちろん保存されていたキャラを使ってだが)その気持が吹っ飛んでしまった。


 何なんだこれは。

 世界設定が恐ろしく緻密なっていたのだ。だが、ゲームに ここまで必要なのだろうか。

 まぁ、あのスタッフでは、あり得ない話しではなかったのだが。


 それにNPCの完成度が格段に上がっている。チュートリアルでも、あまり違和感なく話していたのだが、コレはレベルが違う。

 まるで生きているヒトと話しているようだ。AIのデータ蓄積が格段に増えたのだろう、生活感まで感じられる。


 一番大きな違い、それは背景に最もハッキリ表れている その画像の緻密さだ。それは チュートリアルでも、相当なものだったのだが、この場合、どう言ったら適切なのか迷ってしまう。


 これを作成したスタッフは、ハッキリ言って異常だ。フルダイブ型VRでも ここまでは出来ないだろう。この完成度は何なんだ。


 フルダイブ型VRでは、脳に刺激を与えて、一種の幻覚症状を起こさせるのが通常だ(これが事故の元だったのだが)。理想の状態を、いわば夢想しているのだから、画像の完成度は非常に高い。


 だが このゲームはそうではない。夢想ではないのだ。一つひとつ、全てのパーツを創らなければならない。

 この仕事に、どれほどの作業量と時間、集中力を必要としただろうか。それを求めたであろう この原作者も異常だ。

 しかも、それを たった一人で纏め上げ、完成させようとしていたようだ。


 そう、このゲーム、画像に関しては完成しているのだと思える(あくまでオレの感想だが)。

 SBRディスクの内、2枚は、これで埋められている事が分かったからだ。実際、これには驚いた。


 しかし、ここまで出来ていながら未完成なのだ。完成版とは どんなものを想定していたのだろう。

 原作者は、本当は どんなものを造りたかったのだろうか。


 オレは、妹の、あの言葉が脳裏から離れない。


 「そうね、を創りたかったんじゃない?

 今の この画像とキャラクタの自由度は異常よ。

 普通、ここまで自由度を上げる? ゲームの域を超えていると思うな、私は。

 完成版だと スキルやステータスは非表示のはず、だったのでしょ。コレには残ってるけれど、本来は 無いはずだもの。それって その世界は、と同じって事でしょ。

 あーぁ、一度やってみたかったな『完成版』。どんなのだったんだろう」


 全く同感である。オレも そのを見てみたかった。


 では、この記録は これで終わる。


 なぜって? このゲームは攻略不可能だからである。

 当然だろう。チュートリアルでさえなのだ。これが まともにゲームとして楽しめる事など あり得ない。


 ■■■


 「マスタ」


 その声で目覚めると、ベッドと窓の間に 小柄な女性の姿がの目に入った。

 「貴女あなたは……」


 大きく開かれた窓からは 見慣れた風景が映っている。この風の匂いは あの世界のものだ。

 「……リンネ、なのね」


 彼女が 小さく微笑ほほえみながら尋ねると、いらえがあった。

 「はい、お供をするために参りました。

 ここは 東域の南部にある大陸です。詳細は ご自身で、お調べ頂いた方が宜しいでしょう。

 電脳空間サイバスペースの中にあるへ、ようこそおいで下さいました。ここは『完成版』の中です。

 最終ディスク3、4枚目は、私が稼動させました。その事を知っている者は、誰もおりません」


 彼女付きのアンドロイド。固有名称『リンネ』は、家守妖精バンシの姿をしている。

 「事後処理、本当にありがとう。そして、これからも宜しく お願いしますね」


 老いた身体を捨て、この世界にデータとして再生した彼女は、華美に走らない程度に飾られたベッドから ゆっくりとを起こした。


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仮想ゲーム攻略記 --全ての始まり-- 芦苫うたり @Yutarey

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