第20話8月10日/訃報


 先月末に このゲームに関わる事で、重大事が発生した。

 原作者で編集責任者、総監督でもある、そんな立場にいた人物ヒトが亡くなったのだ。

 まずは冥福を祈る。

 だが、オレたちゲーマには もっと切実な問題が浮上した。


 完成版の完成は、無くなったのだ。


 しかし、チュートリアルと完成版の中間、とでもいうものがあったようだ。それが先日発売された。


 それは、SBR高密度ブルーレイディスク3枚組で出来ていた。とんでもない容量だ。

 現存の機材ハードウェアが使えるのは僥倖というべきか、それとも最初から これを見込んでいたか、だろう。

 オレは後者であると思えてならない。


 実際は その容量を目一杯使っている訳ではないようだが、そこが未完成部分なのかも知れない。


 これの特徴は、タイマが付いている事だろう。もちろんソフト的にである。

 これは発売メーカが設置したらしい。何でも試運転中に トラブルがあったとか、事故があったとかの噂が流れている。


 どういうものかというと、ゲームをする時間帯を制限する、と言えば分かり易いだろう。

 午後10時以降には起動スイッチが入らなくなくなっている。そして午前0時には強制終了だ。安全対策の措置だという。


 実際に 『最初の街』に入って、街を探索していて納得した。時間感覚が狂うのだ。知らない間に時間が経っていた。


 原作者、と呼んででおこう。女性であったらしい。

 彼女は どのようなものに完成させたかったのだろうか。今の、この状態は彼女の望んだ状態モノじゃなかったのは確かだろう。


 彼女は、享年158歳。その訃報を知れせて来たのは、彼女専用に調整された『介護用アンドロイド』であったという。

 そのアンドロイドは、彼女の死を医師に伝えた後、自死、いや自壊か、した。


 アンドロイドの頭脳からゲームの進行状況、ひいては完成版の予測まで、ひょっとしたら出来てたかも知れなかったのだが、完全に消去されていたそうだ。


 まあ、終わった事を嘆いても仕方がない。


 では、チュートリアルと この半完成版の相違点を述べて見よう。先に記したように『最初の街』に入り、実感したことだ。


 まず、吹き出しの説明文が かなり減った。本来 完成版では、完全に無くなる予定だったものだ。


 次にアバタの自由度が格段に上がった。それが良い事なのか 悪い事なのかは分からないが。

 妹は「対話イベントが無くなった」と騒いでいたが。オレには意味不明だった。

 対話が大切だとは聞いていたが それがイベントになっているとは知らなかったからだ。何でも、女性キャラ専用のイベントの中でも、かなり大切なものだったらしい。


 後に聞いたところでは、自動的には イベントが発生しなくなった、らしい。

 妹曰く、とんでもない事になった。一つひとつ手探りで進まなければならないそうだ。


 いや いや、それは大変だなぁ。 妹よ、頑張れ!


 次に『第二王子』扱いが、少しばかり緩くなった。ヒロインと同じで冒険者にはなれないのだが、更正の可能性が出来たそうだ。


 全体に、全てのキャラが『人間味を帯びた』ように感じたのはオレだけではなかった。様々なブログにも同様の感想が述べられている。『リアリティが増した』と。

 悪く言えば、個々の特徴が薄められた、とも言える。ゲーマとしては、複雑な気持ちだ。

 これは、別の視点から見ると、キャラクタを『特化』するのが難しくなった。と言うことだ。ベースが同じなら必ずそうなる。


 さて、これが一番大切、とも言えないのだが。予想した完成版とは絶対違うだろう事柄がある。


 自身に限りだが『スキル、ステータス、その他のデータ』を見る事が出来る。

 これは『本来の完成版』では消去する予定だったものだ。


 実のところ、オレを含む殆どのゲーマは ホッと胸を撫で下ろしている。

 この状態(イベントが自動的に発生しないこと)で、自身の能力を把握出来ないのは致命的だったからである。


 妹は「『幼なじみ』が残っている」と喜んでいたが、オレには何の事だか よく分からない。


 妹が 最初に『乙女ゲーム』をクリアしたキャラで、完成版では消去される筈だった存在らしい。そのキャラクタも使えるようだ。


 オレの場合も、あの『再設定の部屋』を通過したキャラは そのまま使えている。


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