第十五章 井戸の住人

お腹を膨らませて、一行はほこらを目指した。


「なんだか、空気が重いですわ……」


姫の言葉を飲み込むように、ポツリポツリと雨が降ってきた。


勇者「嘘だろ……」


旅を始めてから、今までずっと晴れていたのに…。

その雨は、これから起こる試練を暗示させているようで……。重く、ずっしりとした雨だった。


アスカ「んー、冷たい……寒いです」

師長「確かにちょっと冷えてきたね」


空気も冷え込み足場も悪い。更に視界も不明瞭といった過酷な状況の中で、魔物に出くわすなどあっては溜まったもんではない。はやくほこらへ。と思っていると。


オカン「あれ、井戸ちゃう?」

勇者「オカン、今は井戸なんかじゃなくて「まって」」

師長「あの井戸、めっちゃでかい」


とりあえず駆け寄ってみると、人一人入れそうな程の井戸があった。


アスカ「しかも、ハシゴが掛けてありますね……」


見ると丈夫そうな柱が掛けてあった。ずっと奥まで続いているようだ。


勇者「まさか……みんな、本気か?!」

師長「うーん、でも雨も止みそうにないし、下に行けば、まず魔物には出くわさないと思うよ」

アスカ「私も、そう思います」

姫「そうと決まれば、行くしかありませんわね」


……まじか、、行くのか、、このジメジメした井戸の中に、入るのか……。


空気も重いし、気も重い。


ライトで照らしながら、慎重に降りていった。


「底まできたみたいだ、ライトがあるぞ!」

俺の声が井戸中に響いた。

「結構短かったですね」


底まで来たが、まだ平行に道?が繋がっていた。そこを、今にも切れそうなライトが照らしていた。

コツコツ、という足音と、隙間から滴り落ちるる水の音が反響していた。


勇者「ん?何かが……いる」

姫「え!?ここにきて魔物!?」

勇者「…………スライム?」


突き当たりまで来た時、サッカーボールほどの大きさのスライムがいた。


師長「ここで出くわすなんて」

姫「美味しくもないし、ぶった斬ってやりますわ」


姫は剣を抜き取ったが。


スライム「え、待って待ってぇ~、殺すの?殺さないでぇ〜!!」


!!!???


「しゃべった!」


鼻につくような声で、確かにスライムはそう言った。


スライム「うんボク喋るし、歌えるよ!だから殺さないでぇ!?」


若干涙目?のスライムを、目が点になりながらも、


「つ、通じますの?」

「うん通じる~えへへ」


何故か照れた。


「キミたち雨宿りしに来たの~?ボクが歌ってあげるね!」


そういうと、鼻につくような声で歌い始めた。


勇者「いや、ちょ、ちょっとまって、君は、人間じゃなくて、本当にただのスライムなのか?」

スライム「え!……そうだけど……なんかね、ある日を境に、人間の言葉が分かるようになったんだ!えへへ」


また照れた。なぜか照れた。


スライム「ここら辺は、よく雨が降るよ。ボスデスの仕業だと思うけどね……」

アスカ「ボスデス?」

スライム「あ!喋っちゃった!……えっとね、ナンデモナイヨ!!あはは!」


うーん、ちょっとおっちょこちょいなのかな、この子。


「ボスデスって、一体なんですの?喋ってくれないと、真っ二つにして素焼きにして食べますわよ?」


姫がそう言いながら剣を抜くような仕草を見せる。


スライム「ヒェエエエエエエエエエエ!それだけはやめてぇぇ!!……わかったよ、話すから!」


そうしてスライムは淡々と話し始めた。

スライム「ボスデスっていうのはね、ボク達の王様の事なんだよ〜。ボスデスが全て権力を握ってるんだ。でもね、ボスデスって奴酷いんだ。ボクみたいな下級魔物は殆ど奴隷扱いで、必要が無くなったら切っちゃうんだ」

勇者「ボスデスっていうのは、モンキャのボスの事だったのか」

スライム「そうだよ。今凄く勢力をあげてて、関係の無い村や街まで破壊し始めたんだ。あ、ボクは関わってないよ!?ボクは切られたんだ……ボクはずっとここで独りなんだ」


悲しそうに俯く。


スライム「だから人間の言葉が分かるようになったのかもしれない!たまにここにも人間がやって来るんだけど、その人達の話はとても面白くてさ!それでね、ボクは歌も習得したんだ!えへへ。一曲聴いてくれる?」


(中略)


スライム「いっぱい歌っちゃった!えへへ。やっぱり人間とお話するのは楽しいな。ボクはずっと独りだったから、人間が来てくれるのが本当に嬉しい!」


(中略)


スライム「あの時はまだ何も分かってなくてね、殺されかけそうになったんだぁ~。でもあれもいい思い出かな、なんちゃって、えへへ。」


スライムは絶えず語り、歌い、みんなが寝てしまっていることにも気づいていないようだった。


スライム「それでね…………」

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