第十一章 廃村


幾度となく現れるモンスターと戦い、その度にオカンの作ってくれる料理は格別で、宿で程々に休憩しながらも、目的地めがけて歩みを止めなかった。


しかし俺達はやばい所に足を踏み入れたらしい。


アスカ「く、臭い……とても毒臭いです」

師長「多分匂いを嗅ぐだけでダメージは受けないだろうけど、強烈だね」

姫「地面もまるで荒れ地ですわ……ここは一体どこですの?」

勇者「うーん、さっき看板には、"南に村あり"って書いてあったんだけどなぁ……」

オカン「これ、し、死んでる、ほ、骨や、人間の……」


勇者「え!?」


見るとそこには、人間らしき骨が落ちていた。


師長「こ、これは、、頭……頭蓋骨?」

姫「ヒイイイイイイイイィィィィィ!!!!!!」


姫の甲高い叫び声が荒れ地に響く。


オカン「こっちには、なんかの木の板やな……腐敗してるわ……こっわ」


オカンの怖がり方が微妙だが、夕暮れのこの時間に毒の匂いと屍はなかなか酷いものだった。


勇者「あ、家だ!」


一目散に駆け寄り、見てみたが。

なにかありましたのーー?という姫の声に、俺は返事をすることができなかった。


師長「廃村か……」


やっと近くまで来たみんなが察した。


姫「何だか気味悪いですわね……」


いつも強気な姫も、眉をひそめて怯えた表情をしていた。


アスカ「姫、大丈夫ですよ」


アスカが機転を利かして姫の隣を歩いた。

姫はなぜかこちらを睨み付けていたけど……。


オカン「さすがにウチでも、ここはこわいなあ、、だーれも住んでへんやん」

姫「お腹も空いたし、早くこんなところ出ましょう」

勇者「そ、そうだな……」

姫「早く!」

勇者「わ、わかってるよ。ったく……」


どうしたんだよ、急に……

みんなが皆、気が気でなかった。

しかしそこに、奴は現れた。


師長「エッグデビルだ」



姫「もう、邪魔、しないでええええええええええええええええええええええええ!!!!!」


-バッッコーーーーーン!!!

姫がエッグデビルに会心の一撃!エッグデビルを倒した!


……え、うそん。


呆気なく死んだエッグデビルを横に、泣きながらしゃがみ込む姫の姿があった。


姫「もう、なんなんですのここは!早く、はやく出ましょう……」

師長「大丈夫だよ、みんなついてる」

オカン「そやで、心配せんでも、すぐ出れるわ。このエゴデルかなんか知らんけど、これで美味しいもん作ったるから、な?」

姫は小さく頷いた。


勇者「甘えんな!!!」

姫「!?」

勇者「こんな廃村くらいで、ピーピー喚きやがって、迷惑だ!元はと言えば、お前から行きたいと言い出したんだ。嫌なら城へ帰れ!」


自分の怒号が廃村に響く。少し、言い過ぎたかなと思った。でもこれは姫のためだ。俺達はこれからこれよりももっと怖くて恐ろしいところにいく。こんな廃村ごときに弱音なんて吐いていられない。

でも姫の顔を見て、やっぱり言い過ぎたかと思った。


アスカ「だ、大丈夫ですよ、もうー勇者さん、言い過ぎですよー。こんなところ、私だって怖いです」


……やっぱり言い過ぎたか。


勇者「……ごめん」


しゃがみこんだ姫の元へ駆け寄り、手を差し伸べた。


勇者「ほら、立て」

姫「……いやっ!」


姫は俺の手を弾き返した。その手は酷く震えていた。

仲間を怯えさせてどうするんだ……。

俺は姫に背を向けてしゃがみ込んで「乗れ」と言った。

少し間が空いて、姫の体重がかかってきた。

「愛やな」

オカンが俺達に聞こえないようにボソッと呟いていたのを、俺は後から聞いたのだった。


オカン「エビデビゆーたやつ、焼いたら美味そうやったけどなー」

師長「おばあちゃん、エビデビじゃなくて、エッグデビルですよ」

オカン「え?エッグデール?」

師長「エッグデビル」

オカン「あ、ほんまか、知らなんだ」


後ろですごいツッコミどころ満載な会話が聞こえるけど、もう疲れた。

背中から姫の体温が伝わってくる。

それだけでいい。あったかい。


オカン「あ、毒臭さ消えたで!」

アスカ「ほんとだ。廃村抜けたみたいですね」

師長「あはぁぁあこわかった」

勇者「おい、降りろ、廃村抜けたぞ」


姫からの返事がない。


アスカ「姫、勇者の背中で寝ちゃってます……」

勇者「なんだそのニヤつき顔は」

アスカ「えへへ、、いえ、何も」

師長「近くに村や町はなさそうだ」

勇者「あそこの洞穴で夜を明かそう」

オカン「パンナちゃん食べるか?」

勇者「え、パンナちゃんって、たしか巨大なイモムシだよな?……いつの話だよ!絶対腐ってるよ!」

オカン「いや、それがな、パンナちゃん何切れか持ってきて、燻製にしたんや」


オカン、何者だ。


勇者「最高だ!」

洞穴で姫を寝かし、後の4人で燻製を分け合い、美味い美味いといいながら、夜を明かした。

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