第九章 巨大樹の住人
勇者「もう腹一杯だ」
師長「ほんと、もう何も入らないよ」
姫「デザートならいけまふわ」
いや、言い方的にもうキツそうだぞ、姫よ。
とか言いながらも歩いていると、
アスカ「ん、ここから草が生えていませんね」
確かにアスカの言う通り、今まで洞窟以外のところは草木が生い茂っていたのに、ここは一帯に緑がなかった。まるで砂漠。しかし大きな木はその砂漠の先に見える。
草木も無ければ潤いも無いのだが、砂漠のように暑いという訳ではなく、体感温度は今までと変わらなかった。
姫「この砂漠、一体何処まで続くのかしら」
勇者「師長はマッフルに会ったことがあるのか?」
師長「一回だけある。でもあまり覚えてないよ。小さい時に、1度だけ。」
勇者「そうか……」
オカン「あ、あれちゃうの」
オカンが見ているほうに視線をやると、大きな木に近づいていた。
勇者「おおお!あれだあれだ!」
???「あのー」
!?
???「マフマフの大樹に、なにか?」
下を見ると、人間の半分ほどの大きさに、透き通った白い肌、緑色の羽衣を身にまとっていたが、見事にシックスパックと三角筋が突き破っていた。
アスカ「え、ほんとにムキムキ……」
勇者「もしかしてお前、マッフルか?」
???「え、あ、はい……あの、なんの用で「ホントか!!やっと会えた!」」
マッフルの声を勇者が遮る。
姫「顔は可愛いのに、ムキムキ……」
姫は何かを思い出し、一人気分が下がった。
アスカ「にしても凄い鍛え上げてるんですね!ジムでも通ってるんですか?」
ジムなんてないだろ!
マッフル「あ、まあ、毎日6時間ほど」
あるんかぁぁぁぁぁあ!!
アスカ「ええ、それはすごい!尊敬します!」
マッフル「え、あ、ありがとう……?」
にしてもこんなにムキムキにも関わらず、性格は気弱そうだ。てかジムに6時間って……。妖精とは。
マッフルと少し(一方的に)会話をして、マフマフ大樹まで案内してもらった。
オカン「ほんまでかい木やな〜」
近くで見ると本当にでかい。
マッフル「この木のてっぺんに、金平糖があるんです。取ってきてくれたら、今ならこの薬草スムージーを無料で。」
マッフルはどこからともなく緑色のスムージーを取り出した。
マッフル「実はこのスムージー、普通の薬草と違って、体力を全回復させます。さらに攻撃力アップ、一時的に敵からのダメージを軽減させる優れものです。こんなものは他としてない、ここだけで手に入るんです。お得ですよ。」
なんの通販番組を見せられているんだろう。
でも話を聞いている限りすごい。金平糖を取りに行くだけでそんなに……
てか自分でいけよ。その鍛え上げられた体なら余裕だろ。という言葉は胸に閉じ込めておいて……
姫「これは行くしかありませんわ!ビバ、金平糖!ビバ!スムージー!!」
さっきまでテンション下がってなかったっけ?
美味しそうなものを見ればすぐにハイになる姫を見習いたい……ことなど無く、金平糖を取りに行くだけならと承諾した。
***
暗い。てっきり外から登るのかと思っていたが、なんと木の根っこの所に入口があり、《ここから登ってね!》という看板があった。
中はじっとりと湿っていて、たまに水が滴り落ちてきてなんとも居心地が悪かった。モグラが掘ったような道をひたすら登っていく。まるで滑りの悪い滑り台を逆から登っていくような感覚だ。
姫「あたしが這いつくばって歩いているなんて……でもこれもスムージーのため……スムージーのため……」
姫が後ろでブツブツ言っている。さらにその後ろで
「しゃっと歩かんかい。あんたも男やろ!」
師長「す、すみません…」
師長がオカンに叱られている。実にカオスだ。
勇者「あ、外だ」
みきの部分を突破したようで、見上げると葉っぱの隙間から青空が覗かせていた。
「おおおお!」
居心地の悪い空間から解放され、連なった葉の上を歩く。
姫「まるでアスレチックね」
ツルが伸びて葉に絡まりついて絶妙な足場を創り出している。本当にアスレチックのようだ。落ちない保証はないけど。
師長「あ、あれじゃない、!?」
師長の視線の先に赤や黄色に輝くものを見つけた。
姫「きっとそうだわ!金平糖よ!」
姫がいち早く掴もうとしたとき。
-バチッ!
「痛い!」
「どうした!?」
「す、凄い電流が走って……」
姫はゴッホの"叫び"のあの絵のような顔をしたまま硬直していた。
勇者「安易に触ると危険なわけか……」
どうやって運び込もうか考えていると
師長「あ、私解けるかも」
勇者「え」
というと、金平糖の前で呪文を唱えはじめた。
すると
-バチバチバチッ!!
なんと師長に物凄い電流が走った。
勇者「え!?」
そうしている間に師長は丸焦げになり、十字架マークの棺姿になった。
勇者「え、え、師長!!!!!?」
アスカ「た、多分、金平糖から電流を自分の方へ持ってきたんですよ……電流を取り込むつもりが、電流に取り込まれちゃいましたけど」
え、まじか。金平糖に触れてみると、痛くも痒くもなかった。師長。お前良い奴なんだな。
そして師長を死亡させたまま木を降りていき、やっとのことで出る事ができた。
マッフル「わあ、ありがとうございます!」
外に出るとマッフルが待っていた。
マッフル「では、金平糖とスムージーを交換致しましす」
金平糖を差し出すと、どこからともなくスムージーが人数分出てきた。
勇者「じゃあ、ありがたく」
姫「あ、甘い!美味しいですわ!」
さっき唐揚げを食べたところだが、甘くスッキリしたスムージーはスーッと体の中に入っていった。
勇者「ありがとう、美味しかったよ」
マッフル「良かったです……でも一人失われてしまわれたのですね……」
マッフルは十字架マークの棺姿になった師長に目をやる。
マッフル「これをどうぞ」
と、瓶に入った透明な水を差し出された。
勇者「……これは?」
マッフル「このマフマフ大樹の光合成から得られた"すごい水"です。ミネラル豊富で、死んだ人を生き返らせる事ができます!」
勇者「えええ!?ほんとに?」
マッフル「はい、その棺に瓶の中の水を全て掛けてみてください」
言われるがまま、瓶を開け、空になるまで棺にかけた。
すると棺がピカッと光ってパカッと開いた。
「いやあ、私としたことが、ははは」
と言いながら棺から出てきた。棺から出る時には何かコメントするのがお決まりなのかと思いながら、"すごい水"のすごさを思い知った。
マッフル「良かった……!それではまたいつかお会いしましょう」
勇者「あ、待ってくれ、マッフルはモンスターキャッスルについて何か知らないか?」
マッフル「え……」
一気に怪訝そうな顔になった。
マッフル「あそこはひどい場所です。あそこに行った勇者を見た事ありますが、誰も生きて帰ってきてません。さらに言えば、魔物達はそこに足を踏み入れた人間をも魔物に変えてしまうのです。本当にこわい。」
姫「あ、あたし用事を思い出して」
勇者「抜け駆けはやめなさい」
姫「あたしは姫よ!」
勇者「お前が行きたいって言い出したんだろ!」
姫はべソを書き出した。そして一言。
「お腹空きましたわ」
お前の胃袋どうなってんだよ。
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