香水

ちゅけ

第1話

時計屋で働いていた頃、よく匂いに悩まされた。


その男性は息子の成人祝に時計を贈りたいとのことで来店された。


数点、気になるものをお選び頂き、手にとって見てもらい、商品の特徴をお話しする。そこで気が付いた。


(この人、左右で香水が違う…?)


最近はそんなつけかたが流行りなのかと感心し、その旨をお伝えすると


「いえ、僕は香水は好かんです」


という返答だった。つまりは本人は気付いていないと。


無事にお買い上げ頂き、笑顔で見送る。


「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


目をぎゅっと閉じ、パッと見開いてお客様に焦点を合わせる。


右肩と左肩、女の人が彼の首にがっちり噛みついていた。そして、腕は女同士お互いの首を締めていた。


休憩時間。


バッグからマッチを燃やした僅かな炭を取り出すと、首に“人”と書いてアーつかれた!と上を向いた。


翌日まで首の違和感は続いた。

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香水 ちゅけ @chuke

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