魔法の鍵束 ふたたびあらわる
魔法の鍵束でまた違う世界に迷いこんじゃった!
僕の机の引き出しには魔法の道具が入っている。
────これは僕だけの秘密。
魔法使いのおばあちゃんから、おばあちゃんが無くした箒を探したお礼にもらった魔法の鍵束。
そこには3つの鍵が付いていて、これを使うと僕は宝島、妖精の城、地獄の一丁目に自由に扉から扉をつなぐことが出来るんだ。
魔法使いのおばあちゃんからの冒険のプレゼント。
妖精達から追いかけられたり、大男に捕まった小鬼を助けたり、ヒキガエルに変えられた鬼の王子を助けたりした大冒険。
あれから僕は一回も鍵束の鍵を使っていないけど、いつでも行こうと思ったら、また冒険に行けるんだ。
今から考えたら冒険は楽しかったけど、ちょっぴり怖い思いもしたから、もっと僕がお兄さんになったら、その時にまた鍵束の鍵で冒険に行こうと思っているんだ。
その時は地獄の鬼達と腕相撲で勝負したいなって思ってる。
僕はクラスの男子の中では腕相撲に自信があるんだ。
でも、僕のクラスには僕より背が大きな女子がいて……もしかしたら、あの子には負けるかも。
……でも、その女子と腕相撲はやったことないけどね。
『男子たるもの、女の子を守らなきゃ』
お父さんが前にそう言っていたからね。
女の子とは戦う相手じゃなくて、守るもの!
────僕はそれを実践しているんだ。
話は変わるけど、僕は今日は学校から真っ直ぐに家に帰ってきたんだ。
なぜかと言うと、今日は給食に僕の嫌いな焼き魚とトマトが出たから。
僕は焼き魚もトマトも嫌いだから、給食を残してしまった。
魚は刺身なら食べれるけど、焼き魚は骨が邪魔になるから食べるのが嫌だ。
口の中に骨が刺さってチクチクするから嫌だ。
そんな口の中に酸っぱいトマトが絶対しみるはず。
絶対にそうに決まっているってわかっていたから、僕はトマトを皿のはじっこに寄せて、一口も食べなかった。
魚とトマトだけを残すと先生に怒られるかも知れないから、僕はお腹が痛くて食欲がないと言うことにして、他のおかずもあまり食べないようにした。
あまり好きなおかずもなかったからね。
だから5時間目にはお腹がすいてしまって、算数の授業中にお腹が大きな音を立てて鳴ったから恥ずかしかったよ。
……だから、今日は家に真っ直ぐ帰っておやつを食べようという計算だ。
お腹がすいたからね!
いつものように玄関の鍵を、ランドセルから出そうとした。
だけど、ちょっとおかしなことが。
ランドセルの中には、机の引き出しに入っているはずの魔法の鍵束が入っていた。
「あれ?何で鍵束がランドセルの中に入ってるんだろう?」
……しかも!鍵束についている鍵は4つ!
本当は、宝島と妖精の城と、地獄の一丁目の3つしか鍵はついていないはずなのに!
鍵を良く見ると、増えている鍵は僕の『いえの玄関の鍵』だ。
「もしかして、僕が付けたのかなぁ……」
ちょっとおかしいと思ったけど、いえの玄関の鍵を使った。
「ただいま!」
この時間は、お父さんもお母さんも仕事に行っているから誰も居ないのだけど、いつもの習慣で「ただいま」を言って家に入った。
『何も言わないで家に入るのは泥棒ですよ!』これは前にママが教えてくれたんだ。
でも、パパはお酒を飲んで帰りが遅くなると、「ただいま」って言わないで家に入ってくるから、きっとお酒を飲んで帰りが遅くなると、泥棒と一緒で悪いことだって思っているんだね。
「お帰り!」
「お帰り!」
僕が家に入ると、いつも仕事で帰りが遅いはずのお父さんとお母さんが、玄関で出迎えてくれた。
「あれ、今日はもう会社から帰ってきたの?」
「会社?何を言っているんだい?今日はみんなで一緒にご飯を食べようと思ってね」お父さんとお母さんはニコニコしている。
「あれ?今日は何かお祝いだっけ?何処かへ食べに行くの?」
「いやいや、お家で食べるに決まっているだろう?」
「好きなものを作ってあげるから、何が食べたいか言ってごらん?」
「いっぱい食べて早く大きくなるんだぞ」
「そうそう、早く大きくなるんだよ!」
お父さんもお母さんも何か変だ。
────いつもと違う。
もしかしたら、僕が学校で給食を残したことが、学校から連絡が行ったのだろうか?
だとしたら、僕は怒られてしまうかもしれない………。
「学校から何か連絡があったの?」
僕がお母さんにそう聞くと、
「学校?なにそれ?そんなの関係ないわよ。美味しいものいっぱい作ってあげるから、いっぱい食べなさい」
……学校から僕が給食を残したことは聞いていないみたいだ。
良かった!
僕は二階にランドセルを置きに行った。
すると、一階からひそひそ話が聞こえてきた。
「いっぱい食べさせて早く太らせないと」
「あの位の人間の子供は、骨ばかり」
「カレーにハンバーグにスパゲッティ、唐揚げにフライドポテト!砂糖たっぷりの甘~いプリンにクッキー、アイスクリーム!」
「食べたいな、食べたいな」
「早く食べたいな!早く食べたいな!痩せた子供を太らせて、太った子供食べたいな!」
────やっぱり何かおかしい!
だって、お父さんとお母さんがそんな事言うはずないもの!
鍵束をもう一回見てみる。
鍵束には4つの鍵。
1つは『宝島の鍵』
2つ目は『妖精の城の鍵』
3つ目は『地獄の一丁目の鍵』
4つ目は『いえの鍵』……じゃなくて『にえの鍵』って書いてある。
────『にえ』って生け
────どうしよう!?僕は食べられちゃうの??
僕はどうしていいかわからなくて、勉強机に座ってシクシク泣いてしまった。
すると勉強部屋の外からお父さんの声がした。
「どうしたんだい?何か泣き声が聞こえたが?」
「夕御飯が楽しみで、嬉し泣きだよ」
僕は声を振り絞って答えた。
「そうかい、そうかい。私も楽しみだよ」
「僕は昨日みたいに10人前食べるから、いっぱいお料理作ってね!」
僕がそういうと……
「そうかい、そうかい!そいつは嬉しい!お母さんにお料理の追加を頼もうかね!」
お父さんが答えた。
────やっぱり、僕のお父さんじゃない!
僕が10人前も食べられるわけないのに!
昨日だってお茶碗に半分しかご飯食べていないのに!
逃げなきゃ……
────僕がそう考えていたら、静かに僕の部屋のドアが開いたんだ。
……逃げられない!
でも、部屋に入ってきたのは、お父さんでもお母さんでもない、知らないおじさん。
「静かに!」
おじさんはそういうと、音をたてずにゆっくりと僕の部屋に入ると、静かにドアを閉めた。
「おじさんは誰?何も言わないで入ってきたから、ひょっとして泥棒?」
僕はおじさんに聞いてみた。
「俺が泥棒かって?それならそうとも!今から俺は、悪い人食い悪魔から可哀想な子供を盗みに来た、この世で最も偉大な泥棒だ!」
おじさんはそう言うと、部屋の窓を開けた。
「可哀想な人の子よ、人食い悪魔に食べられたくなければ俺についてきな!」
────窓の外へ
僕も続いて窓から外に出る。
窓の外に出て見ると、僕の家は草原の中にポツンとある一軒家になっていた。
本当の僕の家の周りには、ご近所さんの家がいっぱい並んでいたけど、それがここには一軒もない。
やっぱりここは僕の家ではないし、さっきのお父さんとお母さんは人食い悪魔で、本物のお父さんとお母さんではなかったみたいだ。
「ほらほら、ぐずぐずするな、人食い悪魔に気づかれるぞ!」
おじさんは二階の屋根からロープを垂らすと、スルスルと降りていった。
僕もその後に続こうとしたけれど、下を見ると怖くなって足がすくんだ。
「ほらほら、ぐずぐずするな!人食い悪魔に気づかれたぞ!」
おじさんが下から僕に声をかける。
僕の部屋を人食い悪魔が激しくノックする。
僕は怖かったけど、勇気を出してえいっとロープを握って下に降りた。
「よしよし!勇気を出して偉いな!」
おじさんが僕の頭を撫でてくれた。
「それじゃあ、アジトに直行だ!」
おじさんが駆け出す。
僕もそれについて走る。
後ろを振り返ると、二階の窓から悪魔が2人、包丁を振り回して怒っているのが見えた。
僕は怖くなって、おじさんに置いていかれないように、一生懸命走った。
山を1つ越え、川を2つ渡り、3つ目の谷におじさんのアジトはあった。
「ここまで来れば安心だ。アジトに戻ってきたからには、さっき転職したばかりの泥棒を廃業して山賊に早変わりだ!」
おじさんが、がははと大きく笑う。
僕は、おじさんのその言葉や笑い声を聞いて、やっと安心できた気がした。
安心したら、急にお腹が空いて大きな音が鳴った。
「お腹が空いたか。でも我慢。何故ならば、ここには食べ物がないからだ」
……僕はお昼の給食を残したことを凄く後悔した。
こんなにお腹が空いたことって、生まれて初めてかもしれない。
そんな僕の事など関係なしにおじさんは何故か楽しそう。
「それではこれから食べ物を取りに行くぞ」
……食べ物を取る?
こんな山奥の谷の深いところで一体どんな食べ物があると言うんだろう?
「まずは罠を見に行くぞ!運が良ければ何かしら掛かっているかもしれない」
おじさんはアジトにあったリュックサックを担いで、腰に大きなナイフの刺さったベルトを巻き付けた。
おじさんは谷の奥に、草木をかき分けて入っていく。
僕も負けじとついていく。
谷の奥には獣を捕る罠が仕掛けてあった。
「あぁ、罠には何も掛かっておらん。今日は肉には縁がなかったようだ!」
おじさんは今度は谷をかけ降りていく。
僕もおじさんに一生懸命ついていく。
川には魚を捕る網が仕掛けてあった。
「おぉ、今日は魚の一匹も掛かっておらん。今日は魚にも縁がなかったようだ!」
おじさんは今度は山を登っていく。
僕も息を切らしながらついていく。
「なんてことだ、昨日まであれほど実っていた果実が全て鳥の餌だ。今日は山の実りにも縁がなかったようだ!」
「おじさん、今日は僕たちには何も食べるものがないの?」
心配になっておじさんに聞いてみた。
「いやいや、心配ご無用!例え山にも谷にも恵みは無くとも、我々には神の恵みがきっとあるさ!」
この状況でもおじさんは何故か楽しそう。
おじさんはその辺の草を摘み取って、口につけると、草笛にして器用に音を鳴らす。
……面白そう!
「おじさん、僕にも教えて!」
「いいとも、いいとも!どんな時でも楽しむ気持ちが大事なのさ!俺はそれをお前に教えてやりたいのさ!」
僕はおじさんに草笛に向いている葉っぱを教えてもらい、草笛の吹きかたも教えてもらった。
「どんな人にも人生山あり谷あり!どん底でも楽しんだもん勝ちだ!どん底にいる時こそ楽しみを探すべきだ!楽しめたらば、もうそこはどん底ではないのだから!」
おじさんが、わははと豪快に笑う。
僕もおじさんの真似をして、わははと笑う。
「帰りはまた別の道で帰るとしよう!また違う楽しみが待っているさ!」
「わかったよ!」
おじさんは森に向かった。
森の小道を歩いていると沢山のドングリが落ちていた。
「いやいや、これこそ森の恵み!これは美味しい夕御飯にありつけそうだ!」
「ドングリって食べれるの?」
「もちろん、もちろん。この美味しさは、一度味わえば、毎日ドングリを食べてる森の子リスが羨ましくなるほどさ!」
僕とおじさんは両手いっぱいのドングリを拾った。
「あまり取りすぎてもいけないよ。森の子リスの分も残しておくんだよ」
「そうだね、全部取っては子リスのご飯が無くなってしまうものね!」
今度はおじさんは沢に向かった。
沢沿いに下っていくと、沢山の沢蟹が石に付いていた。
「いやいや、これぞ沢の恵み!これは美味しい夕御飯にありつけそうだ!」
「沢蟹って食べれるの?」
「もちろん、もちろん。この美味しさは、一度味わえば、スナック菓子など子供騙しと思い知るさ!その歯応えと香ばしさは、もう
僕とおじさんは両手いっぱいの沢蟹を取った。
「あまりとりすぎてはいけないよ!卵を抱いているのはお母さん。来年の為にも帰してあげようね!」
「そうだね、沢蟹がいなくなったら悲しいものね!」
そんな感じで僕たちは食材を手に入れることが出来た。
だけど、その沢でおじさんがクンクンと鼻をならす。
「これはこれは。まさかまさか!」
「おじさん、どうしたの?」
僕が聞くと、ニヤリと笑ったおじさんが
「この沢を登ったら、多分良いものがあるぞ」
と僕にいった。
「何があるの?」
と僕が聞いてもニヤリと笑うだけ。
「そら、競争だ!」
おじさんが沢の上流に向かって駆け出す。
「あ、ずるい、待ってよ!」
訳もわからずおじさんを追いかけた。
「到着!やっぱり、俺の鼻は正しかったな!」
おじさんが、がははと笑う。
辺り一面に漂う硫黄の匂いと白い湯気。
「温泉だ~!」
「ちょっと湯加減調査!」
おじさんが温泉に手を入れる。
「これはこれは、最高の湯加減。熱くもなく、冷たくもない。世界最高の絶妙な湯加減。これこそ今日最高の神の恵みだ!」
おじさんはあっという間にすっぽんぽん。
温泉に飛びこんだ。
僕も追いかけ、すっぽんぽん。
僕も、温泉に飛びこんだ。
「ふぅ~」
「はぁ~」
「いいお湯だ~」
「いい湯だね~」
「まさかまさか、こんなにいいお湯に入れるとは!」
「ホントにいいお湯だね!」
「すんなりと肉や魚が手に入っていたら、こんな温泉に入ることは出来なかっただろうよ!本当に神の恵みとしか思えないね!」
僕とおじさんは、最後にゆっくり100数えて上がったよ。
お風呂で100数えるのは、お風呂を愛する人の《《たしなみ》だよね
お風呂から上がると、僕達はアジトに向かって歩き出した。
すると大きな湖の畔に出た。
「これはこれは、大物の予感!」
おじさんはリュックサックから釣竿を出すと、餌に沢蟹を一匹つけて大遠投。
「今日はきっと大物が釣れるよ」
僕もそんな気がして見てみていたら、おじさんが、30センチ位の大きい魚を釣り上げたよ。
「それでは今度はお前の番だな」
おじさんが、釣竿を僕にも貸してくれたよ。
僕も沢蟹をつけて、ちょっとだけ投げてみた。
おじさんの様に大遠投とは行かなかったけど、それなりに飛んだよ。
「お!引いてる、引いてる!大物の予感!」
僕の持っている釣竿が大きく曲がっている。
……引いてる、引いてる!
釣竿が大きくしなって、釣糸が右に行ったり、左に行ったり。
「でかいぞ、がんばれ!」
おじさんが横で応援してくれた。
「────それっ!」
20分の大格闘。
おじさんが釣った魚の倍の大物!
「これは見事だ!釣勝負は俺の完敗!」
僕もおじさんもニコニコ。
今日はお腹いっぱい食べれそう。
僕らは、木の実と沢蟹と魚を担いでアジトに向かう。
「もしもし、そこのおふたりさん、私の願いを聞いておくれ!」
小道の脇にリスの家族がこちらを見てる。
「私の子供にそのドングリを分けて下さいな。大したお礼はできないけれど。どうかお願い、食べ物を!」
「どうするかはお前が決めなさい」
おじさんは僕に決めろって言う。
「それならもちろん、ドングリを分けてあげようよ。僕らには魚も沢蟹もあるけれど、リスたちには何もないんだから!」
それにね、『困った人を見かけたら助けてあげなさい』ってお母さんがよく言っていたからね。
「ドングリいっぱい持って行ってね」
僕はドングリを全部あげようとしたけれど、リス達は「ちょっとでいいの!こんなに沢山は食べきれないからね!」
って、ちょっとだけ貰っていった。
「ありがとう、このご恩は忘れません。また後で!」
そう言うと、リス達はドングリを2つづつ小脇に抱えて森に帰っていったよ。
「良いことをしたね。情けは人の為ならず!」
「それってどういう意味?」
「誰かを助けるって言うことは、その人のためでも有るかもしれないけど、自分の為でもあるんだよ」
「自分のため?」
「そうさ!誰かを助けるって事は、巡り巡っていつか自分に帰ってくるものさ!」
「そうなのかぁ」
僕はそんな事は期待はしていないけどね。
「それに、誰かを助けて感謝されるってどんな気持ちだった?」
「うん、喜んでもらえて、嬉しかったよ!」
「ほらな!もう良いものを貰っているよ!」
「そうだね!なんだか気持ちが温かくなったよ!」
「うん、情けは人の為ならず!」
「情けは人の為ならず!」
僕がおじさんの真似をしたら、おじさんがわははと大きな声で笑った。
アジトに着くとおじさんが、火を起こしたよ。
『火打ち石』と『打ち金』って道具を打ち付けて、その火花で枯れ草に火を着けたよ。
枯れ草の量を増やして火を大きくしてから、細い枝をくべて焚き火にしたよ。
僕も火打ち石と打ち金を借りてやってみたけど、おじさんのように火を起こすのは難しかったよ。
「その火打ち石と打ち金はお前にやるから、火を起こす練習でもやるんだな。男たるもの、火ぐらい起こせないとな!」
おじさんは、がははと笑いながら、その横で魚の下ごしらえをしていたよ。
魚の捌きかたはこうだ。
お腹にナイフで切れ目を入れてハラワタを出す。
谷底の水で綺麗に洗って、塩をまんべんなく振り掛ける。
丈夫で真っ直ぐな枝を口からお尻までさしこむ。
出来あがったものを、焚き火の横の地面に指して焼けるのを待つ。
それで、少ししたら火の当たる面を変えてあげないと、そこだけ焦げちゃうんだって。
だから、僕は『魚のクルクル係』に任命されたよ。
僕は魚の焼け具合を見ながら、魚の位置をクルクル変えたよ。
次におじさんは鍋に白い塊を入れたよ。
「これは前に捕った猪から作ったラードだよ。これで沢蟹を素揚げにするんだ」
鍋に入れたラードは火に掛けると、すぐに水でみたいな液体になったよ。
「それ、どーん!」
おじさんがラードの鍋に沢蟹を一気に放り込む。
パチパチと良い音がして、直ぐに香ばしい匂いがしてきた。
「はい出来上がり!」
おじさんが、沢蟹を皿に盛り付け、塩を振り掛ける。
「それでは今日の最後の一品!」
おじさんはドングリを水を入れた鍋の中に放り込んだ。
「浮いてきたドングリは去年の古いドングリだ。沈んだドングリが今年の新しいドングリだ」
そう言っておじさんは、水に浮いてきたドングリをすくい取って捨ててしまった。
その後、水に沈んだドングリだけをフライパンに移して、ドングリを火にかける。
「これは怠け者には作れない料理なのだ!」
そう言うと、おじさんはフライパンをずっと揺すっていた。
「こうやってドングリを空炒りすることで、最高なおつまみになるんだ!」
そうこうしている内に料理が三品出来たよ。
魚の塩焼きに、沢蟹の素揚げ、最後は炒ったドングリ!
「さて、今日のメニューに名前を付けるかな!そこまで楽しんでこそだ!今日のコース料理の名前はお前がつけなさい!」
おじさんの突然の無茶振り!
うーん、でもなんか凄く楽しい!
「そうだなぁ、『人生山あり谷ありの、山賊風コース』ってどう?」
「おぉ、それは素晴らしいネーミングだ!今日からこれは『人生山あり谷ありの、山賊風コース』と呼ぼう!」
「それではまずは、沢蟹から!これは豪快に口に放り込む!」
おじさんが、口に沢蟹を放り込んでボリボリと噛み砕く。
「うまい、絶品だ!」
僕もおじさんが、やったように真似してみた。
────ポリポリ。
「おいしい!」
カラッと揚がった沢蟹は口の中に放り込むと、自然と噛まずにいられなくなった。
噛むとパリパリとした歯ごたえで、香ばしさが口の中に広がる!
やめられない、止まらない!
「それでは魚もたべようか!」
おじさんがそう言ったので、僕は大きい魚をおじさんに渡そうとした。
「────これはお前が釣ったものだからお前が食べなさい」
「おじさんの方が体が大きいんだから、大きい方をたべてよ!」
僕は焼き魚が苦手だから小さな方で良いのだけど……。
「自分が釣った魚は世界で一番うまいもんだ。だから、お前にもそれを味わってほしい。それと同じで、俺には俺が自分で釣ったその小さな方が、世界で一番美味しい魚なのだ!」
そう言うと、おじさんがは小さな方の魚を持っていってしまった。
僕が枝に刺さった大きな魚を見て困っていると、おじさんがニヤリと笑った。
「なんだ、食べ方が判らないのか?山賊風の食べ方はこうやるのだ!」
おじさんは魚にかぶり付く。
モグモグ食べたあと、口のなかに残った小骨をぺっと焚き火に吐き出す。
「ここでは誰もいない、マナーなんてないから自由に食べなさい」
僕は思いきっておじさんの真似してかぶりついた。
「────お、美味しい!」
僕の釣った魚は小骨は気になるけど、白身であっさりしてるから、塩味がちょうどいい!
お腹がペコペコなのもあるけれど、焼き魚がこんなに美味しいなんて!
────僕は今まで、なんてもったいないことをしていたんだろう。
自然と涙が出た。
「ほらほら、何故泣く……涙で魚が余計に塩辛くなってしまうぞ!」
僕は涙を拭くと、ぺっとおじさんの真似して焚き火に小骨を吐いた。
僕の吐いた小骨が火の粉を飛ばし、おじさんの方に飛び散った
「あちあち、気を付けろ!」
笑いながら避けるおじさんを見て、涙も吹き飛んだよ。
その後二人で、がははと大笑いした。
「────ドングリに合うから、食べながら飲みなさい。俺の自慢のブレンドだ!」
そう言っておじさんが、僕にコーヒーを入れてくれた。
『コーヒーはカフェインが多いから、大きくなったらね』いつもお母さんがそう言っていたけど、今日は飲んでもいいよね?
「ドングリはこうやって食べるんだ」
おじさんは石でドングリを叩いて、その後ドングリの硬い殻を器用にむいて食べる。
僕もおじさんが、やっているように真似してみる。
石で叩くと殻にヒビが入った。
そこを爪や歯で広げて実を取り出す。
薄皮をむいて出てきた白い身を口に放り込む。
「美味しい……」
甘味があって香ばしくって……初めての体験だった。
その後のコーヒーは苦かったけど、憧れた大人の味だ。
コーヒーの苦味を楽しんでいると、後ろの茂みがカサカサと音をたてた。
───振り返るとそこには、さっきのリスが。
「ここに居られましたか、ドングリの焼けるいい匂いをたどってやっと来れました」
そう言うと、リスは持ってきたものを僕らの前に積み上げた。
「さっきのドングリのお礼です。私たちは食べませんが、人は美味しいと食べる果実ですので、よろしかったらどうぞ!」
「ありがとう!いただきます!」
そこに並んだのはプチトマトを思わせる赤く熟した果実だった。
トマトは苦手だけど、リスがせっかくくれたものだから!
僕は口に赤い果実を放り込んだ。
「甘い!」
トマトっぽい酸味があるけど、甘味があって、とても美味しい果実だ
「これは良いデザートになったな!」
おじさんも大喜び。
「喜んでいただけたみたいで嬉しいです。苦労して運んだ甲斐がありました」
そう言うとリスは森に帰っていった。
「さようなら!ありがとう!」
『お礼は元気良く!』
これは僕が自分で考えた言葉だ。
「そろそろ、星でも見ながら寝るとするか……」
おじさんは焚き火の脇に寝床を作ってくれたよ。
「ほら、あの星をみてみろ!あれはリスに似てないか?あれは今日からリス座にしよう!」
「じゃあ、あれは?」
「そうだなぁ、あれはふんどしに似てるからふんどし座なんてのはどうだ?」
「えー、ふんどしなんて嫌だよ~!」
────僕とおじさんは、眠くなるまで星空の星たちに名前をつけて楽しんだ。
「────ほら、起きなさい、夕御飯ですよ!」
僕はお母さんに起こされて起きた。
いつの間に寝てしまったんだろうか?
僕はベッドに寝ていたみたいだ。
「夢だったのかな……」
とても夢とは思えない位、凄く現実的な夢だった。
「……いや、絶対夢じゃないぞ!」
僕は握った手を、更にぎゅっと握りしめた。
「……なに一人でぶつぶつ言ってるの?今日はお父さんとお母さんは焼き魚があるけど、どうする?ハンバーグでも焼こうか?」
お母さんは、僕が焼き魚を食べないのを知っているからそんな事を言ってきた。
「僕も焼き魚食べる!今度からはトマトだってなんだって、お母さんが作ってくれるものは好き嫌いしないで食べるよ!」
「あら、急にどうしたのかしら?」
そう言いながら、お母さんは凄く嬉しそう。
「好き嫌いしないで食べないと、大きくなれないからね!」
僕はお母さんが嬉しそうなのを見て、僕も嬉しくなった。
「その代わり、お願いがあるんだ!」
僕は思いきってお母さんにお願いをした。
「毎日じゃなく、たまにで良いから、僕もお父さんやお母さんみたいにコーヒーを飲んでみたい!」
お母さんは少し驚いたみたいだったけど、
「そうねぇ、少し位なら!」と、僕がコーヒーを飲む事を許してくれた。
お母さんは先にキッチンに戻って行った。
僕は机の引き出しを開けて、手に握りしめていたものを魔法の鍵束の横に置いた。
それは、おじさんが僕にくれた火打ち石と打ち金。
「一生懸命練習して、おじさんみたいに火を起こせるようになったら、またコーヒーを飲みにいくよ!」
その後気づくと、魔法の鍵束の鍵が何故か5つに増えていた。
『宝島の鍵』『妖精の城の鍵』『地獄の一丁目の鍵』『にえの鍵』
そして最後は……
『しゅっけつ大サービス!谷の奥の山賊亭(コーヒーが自慢!)』
……また僕の将来の楽しみが増えたみたいだ。
魔法の鍵束 観音寺 和 @kannonji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔法の鍵束の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます