第3話 半年間はソファーの上だった

 何を思っただろう。

 何も出来ないことは悔しかった。

 この間にも兄はケンカをしている。

 キングと呼ばれるがゆえに。

 ソファーで横になって何も出来ないことを俺は自分を憎んだ。

 ケンカから帰って来た兄は、日によっては、ぼろぼろだったり、ギャルと一緒に笑いながらだったり。俺はいろんな兄の表情を知っている。

 それでも、俺に手当てが出来る時はそばに居てくれた。

 兄は優しい。いや、恐らく俺にだけ優しい。

 俺以外、誰も知ることのない兄の表情だった。

 この半年間はソファーの上に居ただけじゃない。

 俺は兄を思ってご飯を作って待つ時もあった。

 不安を感じながら、ケンカ帰りの兄を待つ。

 今日は兄がケンカに負けるんじゃないかと心配になりながら。

 俺に出来ることは兄がケンカに勝つことを祈るだけだった。心の中にそっと祈る。兄にケンカをやめろなんて言えなかった。だからこそ、心の中で兄の勝利を願った。

 兄が普通に帰って来た時はすごく安心した記憶がある。そして兄と俺はご飯を一緒に食べる。特に会話なんてない。ただ、兄が無事で居てくれたらいい。それ以上は何も望まない。

 ある日の晩に兄からこう言われた。

「次にどこか遊びに行こうぜ? やっと傷が治ってきただろう? どこかあるか? 行きたい場所は」

 兄は笑顔だ。

 俺はどこか遠いところがいいと答えた。

 そこから、明日は兄と俺で遊びに行くことになった。

 どこか遠いところ、兄と遊びに行けることが俺は嬉しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺とおネエになった兄・エピソード0・キング 野口マッハ剛(ごう) @nogutigo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ