第6幕 ーエピローグー

 「……はぁ、マジ死ぬかと思った」


 千敦は深い溜め息を吐き出しながら壁に寄りかかる。そのまま背中を壁沿いにゆ滑らすと、床に腰を下ろしてあぐらを掻いた。


 ギムレーは3台しかないため、重症な者から優先的に使っていくことなり、千敦と祐美は比較的傷が浅かったので、治療が終わるまで待機することになった。傷だらけのまま家には帰れないし、とはいえギムレーが何時間で空くかも分からない。突然現れた梗は、かすみや染谷と話に行ってしまって今はいない。


 「……よく生きてたよね、私達」

 「確かにな。っうか祐美も座れよ。立ってると疲れるぞ?」

 「うん」


 祐美は小さく頷いてから千敦の横に座る。


 間。


 「みんな生きてて良かった…………千敦が死ななくて、本当に良かった」

 「俺は死なねぇよ。だって死にたくねぇし」

 「……うん」


 長い間。


 「……ねぇ、千敦」

 「ん?」

 「こんなときに言うのは、ちょっとおかしいかもしれないけど…………私、好きだよ。千敦のこと」


 祐美からの突然の告白。千敦は驚いたものの、ちゃんと気持ちを受け止め、祐美について考える。答えはあまり迷うことなくすんなりと決まった。というかそれ以外選びようがなかった。


 「……ありがとな」


 何気なく顔を横を向けると、祐美の顔は真っ赤に染まっていて、目は僅かに潤んでいる。可愛いじゃん。とつい思ってしまったが、それでも答えは変わらない。


 「でも、ごめん。俺は祐美のことそういう目で見れない」


 千敦は一切目を逸らすことなく、祐美の想いに答える。


 沈黙。


 「そ、そっか……いや、そんな気はしてたんだけどね」


 祐美の瞳が更に潤み始める。千敦は頭を撫でてやりたくなったが、さすがに空気を読んで止めた。今やるのはきっと酷すぎる。


 「千敦はさ…………も、もしかして、部長のことが好きなの?」

 「えっ? あー、どうなんだろ。俺自身もよく分かんないんだよな」


 千敦の答えに祐美は複雑そうに顔を歪めたが、すぐに苦笑に変わった。


 「ただ……今度部長に会ったら、ありがとうって言いたいんだ。あのとき俺を助けてくれて、俺に明日をくれて、ありがとうってちゃんと伝えたい!」


 宣言をしたらからか、千敦は途端に愛に会いたくなった。

 今の愛にありがとうと言ったところで、きっと千敦の想いの伝わらない。どうせ日頃の感謝の心を伝えるなんて偉いじゃん。と八重歯を除かせながら笑って、愛は千敦の頭を乱暴に撫でるのだろう。きっとその程度だ。それでも、愛に会って伝えたかった。

 千敦は居ても立ってもいられずに立ち上がる。


 「どうしたの? 千敦」


 呆けた顔をして祐美が見上げてくる。


 間。


 「あー、その、なんていうかさ…………あ、あれだよ、あれ! 今ギムレーに入ったら、先輩達の裸が見れ――」


 最後まで言わせねぇよ。とばかりに、拳で太股を殴られた。千敦もそれなりに怪我をしているというのに、容赦のない攻撃にその場に蹲る。


 「…………バカ。あと変態」


 俯いているため顔は見れなかったが、祐美の声はひどく呆れていた。でもどこか寂しさも孕んでいる。千敦は小さく笑ってから床に寝転んだ。


 「仕方ないって。男はみーんな、バカでスケベで変態なんだよ」

 「それ、千敦だけじゃないの?」


 呆れた祐美に見守られ、千敦は明日ってジャンピの発売日じゃん! と期待に胸を膨らませながら、静かに瞼を閉じた。けれど、明日提出しなくてはいけない数学の課題があることを思い出し、慌てて飛び起きる。


 「祐美、数学の課題手伝ってくれよぉ!」


と情けない声でお願いしたが、答えは即答でNOだった。理由は手伝うという名目で全てやらせようとするから。で、小学校から夏休みの宿題を手伝わせていただけあって、さすがに行動が読まれていた。

 正当な理由に千敦は何も言い返せず言葉に詰まる。


 「あー、くそっ! 今日徹夜じゃねぇか……」


 溜め息混じりに呟くと、千敦は不貞腐れたように再び床に寝転がる。

 明日が来るのはかなり憂鬱だが、たまらなく楽しみでもあって、気がつくと頬が緩んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

演劇部に入部したはずなのに、いつの間か終末戦争に巻き込まれてた件について 弦崎あるい @manukahoney

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ