第27話

警官が立ち去った後も、しばらくの間……俺は、その裏路地から逃げることはできなかった。もちろんこんな生活を続けていれば、その内に取り返しのつかないことになってしまうことは明白だ。学校を追われることになれば、困ることになるのは俺自身であるし、今の現段階で働けるところなんて数も限られてくるだろう。

どうすりゃいいんだ。

「わけわかんねえ」

 そう本当にどうすればいいかも、訳がわからないことだらけで、嫌になってくる。もういい、今日は誰かの家に泊まらせてもらおう。そうすれば、また落ち着く。こんな考えも、こんな景色も、また灰色になっていくだけだ。

 


あの頃を思うと、今は言葉も、考え方も変わってしまった。誰かのために生きようとしているし、何よりも、朔という存在が目の前にいるのだからとりあえずはこの小さな存在から守らなければならないだろう。世界という、社会という、親という、そういったものから。あの時の警察官に守られた俺のように、近江さんが守ってくれた俺の精神を、誰かに渡さなければならなくなる。

それが、きっと……今なのだ。

 


「森住朔? そんな子知らんねえ……」

 近所の聞き込みもむなしい。住所を聞き出せたのはあの神澤の先輩である羽佐間からであとは豪快な笑い声と共に、交番を後にしていた。

 しかし、こうやって来てみると案の定東京という街は人に興味がなさすぎる。

 朔の家に来たものの、家の中に人はおらず、近所で詳しい話を聞こうとしたが、それもあまり効果があるとは言えなかった。

「目立つと思うんだけどなあ」

 私はそんなことをつぶやきながらも、小さな公園で朔の友達を探し出す。平日の昼間になれば誰かしら来るだろうとコンビニであんぱんと牛乳を買い、公園のベンチに座って食べ始める。

しかし、だ。昨今の子供事情というのを舐めていた。まったく人がいない。近所のママに連れられたまだしゃべるのもままならないような子供ばかりで小学生らしい子達は全くいないのである。

 どうしようもない気持ちを抱えたまま、私はただ呆然とその景色を眺めていた。

まあ、こんなことになるかもしれないと感じていた時点でもっと別の切り口もあったかもしれない。

 例えば、公民館を当たるとか、もっと今時の子供がたむろをしているところとかに行くべきなんじゃないだろうか……。

 しかし、昨今の公民館や、たむろしている場所なんてそうそうわかるはずもない。

 近所のママさんに聞くにしても、不審者扱いされてはこちらも困る。よく放送で不審者情報なんていうのを流しているが、それは今でもやっているのだろうか。

 はあ、まあそれはそれで安心できるもんね。

そんなことを考えつつも、私はあんぱんを食す。公園とあんぱん。なんだか懐かしい気持ちになってくるけれど、今は朔のことを優先で考えなければならない。

 さて、と。とりあえずは近所のママに聞けばいい。

「こんにちは、私……しおりというものなんですが……」

「はい?」

三人で喋っていた一人が代表するかのように、一人の女性と目が合った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

TAKEit EASY 澤村 奈央哉 @sawamura-naoya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ