ここの心のこの頃☆

神空寿海

ここの心のこの頃☆

人の心が読める力


 目の前で、人が死んだ。

 信号無視の若い男の人が、速度違反の暴走車に、はねられて、大きく飛んだ。

 どさっと落ちて、動かなくり、目を大きく見開いたままのその人と、目が合った。

 その時、その瞬間、その人の意識が、流れ込んでくる様に、聞こえた気がした。


 (助けて。)


 女の私には、かなりキツイ、事故現場に直面して、衝撃に落ち込む間もなく、落ち込んで居られない自分に、気が付いた。

 事故の目撃がきっかけで、人の心が読める様になってしまった。

 テレビドラマで見る様な、便利な特殊能力とは程遠く、困った事に、どの言葉が、どの人の言葉なのかが、判らない。

 ただ、メールの送り主の心は、それと分かった。

 それは、文章とは全く違うモノから、内容を裏付けるモノまで、ちょっと効率が良かった。


 ケイは、私が体調悪かったのを、本気で心配してくれている。

 普段はクールなのに、意外な優しさだな。

 今度から、彼女の言う事を、もう少し、ちゃんと聞いて、イヤミを言うのを、控えよう。

 スマホが鳴ると、相手が分かるのと同時に、相手の心が分かる。

 ここの処、妙に気を使ってくれる、アユは、この間の私が着ていた、ワンピースを狙っている様だ。

 おっとりしてても、下心ありか。


 外を歩いていると、不意に流れ込んでくる。

 うきうきしてる物から、真っ黒な物まで、心の闇とは、よく言ったモノだ。

 一番キツい、自殺者の心だ。

 長距離ミサイルの様に、何処からともなく突き刺さり、大ダメージの断末魔。

 夜の、その自殺が当てはまるニュースで、その場所の遠さに、驚いた。

 遠くだろうと、建物の中だろうと、そのミサイルは、凄まじい威力で、飛んできて、防ぎようも、助けようも無い。


 ツイて無い。

 カフェに入ったら、チャラチャラ、アホ女のグループが居た。

 幸い、男の話に夢中な様、と云うより、ソレしか考えていない。

 悪口言ってる男は、そっちの子が本気で好きな相手。

 もう一人話題にした男は、そっちの子が内緒で、付き合ってる。

 自分は好かれていると、思い込んでるこの女、そっちの二人に嫌われているのを、気が付いていない。

 たぶん、モテない自分を正当化したくて、悪者作りに必死なんだな。

 外人さんのカップルだ、何処の国の人かな。

 不思議と、日本語というか、心が理解できる。

 言語とは関係ないのか、外人さんの日本語が、堪能なのか。

 女グループに嫌悪を見せて、離れて座った。


 感度が上がって来た気がする。

 のぞきでは無いけど、つい、聞き耳立ててしまう事もあり。

 神経を集中する機会が増えると、感度が上がっていく気がする。

 自分の好奇心とは云え、それは、それで、気が滅入る。

 帰り道、占い師に寄ってみた。

 この状態で平常心を保つヒントは、無いものか。

 と、この自称、霊感占い師は、インチキだ。

 逆に考えている事を、全て言い当てたら、料金は要らないと云った。

 その占いを出た所で、ふと、実際に声を掛けられたのか、誰かの心なのか、呼ばれた気がした。

 (こちらに、寄っておいきなさい。)

 聞こえはするけど、場所が判らない。

 見渡すと、ちょっと奥まった処に、占いの看板があった。

 その店の前まで行くと、複数居る様な気がした。

 お客が居るのかなと思ったら、また聞こえた。

 (お入りなさい)

 女の占い師、一人だけだった。

 がっ!

 この人は、本物の霊媒師。

 さっき読み取れたのは、この人が呼んだ、霊の心だ。

 怖いのを堪えて、何とか相談してみたけど、やはり、霊感の類とは、違うらしい。


 「あなたの後ろに付いてる人は、何か困っているとだけ、伝えてくるのよ。」


 めまいがした。

 何の解決にも繋がらないまま、感度が上がって来た処に、霊能者と接触して、霊の心まで、読める様になってしまった。

 私の後ろに居る人は、心配する心だけが残っている、誰からしい。

 ちょっと、ガッカリして、帰宅した。


 自殺者程ではないが、次に思いが強いのが、犯罪者だ。

 生活苦からの切ないのから、面白がってるだけの、最低なヤツまで、この手の物は、近い場所からが多くて、これはこれで怖い。

 被害者の心が突発的発生して、飛び込んでくる。


 飛び込んでくる、心の混沌に、息抜きがしたくなった。

 郊外にある、展望台と呼ぶには、ささやかだが、気晴らしには充分な、見晴らしの良い処に行ってみた。

 しまった。

 三日月が夕日から現れ出した夕方、流れ星と共に、ワケがわからない、何かの心の様なものが、飛び込んできた。

 いつもと違ったのは、その心の相手とは、交信出来てしまった。

 こちらが考えた事に、答えらしきものが、戻って来て、じわじわと、意思の疎通が潤滑になってくる。

 その相手は、何かを、さらおうとしているらしいが、ソレを読み取った私が何者なのか、探りを入れている。

 私と同じ事が出来る人間が居ても、不思議ではないが、知ったからといって、阻止出きる訳も無く、何処の誰が、何処の誰をどーしようと云うのか、そこまでは、わからない。


 とは云え、気になる事件事、感度を上げてみた。

 強烈にいろいろな心が飛び込んできた。

 とても強い、恐怖に怯える心と、何かに怯える心。

 飛び交う心のうちのひとつは、まさに、さらおうとしている瞬間のモノだった。

 さらわれ様としている人の心の叫びを聞くと、さらおうとしている相手は、宇宙人。

 さっき見たのは、流れ星ではなく、未確認飛行物体だったらしい。

 それだけでは、済まなかった。

 宇宙人は、地球上の特殊な遺伝子の採取が目的で、特殊な遺伝子の持ち主とは、いわゆる、ドラキュラの様だ。

 その近くには、狼男までもが居る。

 さらわれ様としている者を助けようとしている心がある。

 止めようとしている心もある。

 心の主に違和感がある。

 怯えていたのは、犯罪者と自殺しようとしていた男の様だ。

 この展望台の麓の森に、逃げ込んだ犯罪者。

 その犯罪者に直撃した、飛び降り自殺者。

 この森に隠れ家がある、ドラキュラと狼男。

 宇宙人がドラキュラだと思って、さらったのは、崖から飛んだ自殺男。

 宇宙人だと叫んだのは自殺男だった。

 ソレを見て、狼男はドラキュラが、ドラキュラは狼男がヤラれたと思ったらしい。

 更には、自殺を止め様としていた、背後霊。

 ドラキュラを守ろうとしていた、古のドラキュラ達の守護霊。

 それらをあざ笑う、この森で自殺した、地縛霊達。

 遠い過去の人間の心までもが、流れ込んできた。


 ぐるぐると回る頭の中を、必死に整理をつけ様としている私を、まぶしい光が包んだ。

 ふわりと浮いて、光の玉に吸い込まれた。

 宇宙人だ。

 私の記憶を操作しようとしているのが、読めたが、気を失った。


 ベッドで目が覚めた。

 ぼんやり、夢、うつつ。

 記憶がおかしい、読み取って、繋ぎ合わせて、こう云う時は、便利だ。


 宇宙人に、ドラキュラに、狼男に、背後霊に、守護霊。

 映画を見終わった様な、続編が続く様な、そのまま、映画の様に楽しもうか。


 おわり。

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