第4話 魔族最強の酒飲みは誰だっ!!吐いたら負けよ酒飲みデスマッチ 予選

そんなこんなで開催された魔族最強の酒飲みは誰だっ!!吐いたら負けよ酒飲みデスマッチ。


現在浩介は参加者達と一緒に王座の前に並んでいた。

この大会への参加は立候補制のようで多数の立候補があがるかと思っていたがどうやら違うようだ。浩介と一緒に壇上に並んでいる人数は20人程だ。その中にフェリスもいた。


(流石フェリスさん。俺の事をサポートしてくれる為に参加してくれて⋯⋯ありがたい。しかし思ったより参加者がすくないな。)


浩介の疑問は尤もだ。実はこの大会、400回を超える開催をしているため、大体の酒に強い魔族は一度や二度、参加をしているのだが、それ故にその過酷さを魔族達は知っている。

競技中に倒れるもの、吐くもの、また二日酔い、三日酔いは当たり前。いつしか魔族達は自分が飲むのではなくその様子を見るのとが娯楽とばかりの大会になっていた。

もちろん歴代魔王が参加者として自分達と同じ物を同じ様に飲み、同じように苦しむ。この大会の前と後では魔王への親近感が全く違うものになる。それが本命でタマが狙っているのはまさに後者なのだが。とにかく盛り上がる大会だ。


「今回の参加者いち、にー、さん、、、、20人!!多いでちゅね!!何時もは5人くらいでちゅからこれも浩介ちゃま効果なのでちょう。んー少し多いので決勝戦に進むために皆さまをふるいにかけまちゅ⋯⋯あっ、浩介ちゃまも贔屓ちまちぇんので、⋯⋯贔屓はダメなんでちゅから!!⋯⋯ダメでちゅからね!!」


過去に何かあったのだろうか、仕切りに贔屓はダメと連呼するクスだが浩介は頷く


(あっ人数多い方なんだ今回)


「はい!そうしましたら、まずは皆ちゃまの前に小樽を一つ用意しておりまちゅ。この小樽の中身は【魔王殺し】でちゅ!!!⋯⋯えっなんでちゅかその目は!!⋯⋯えっえっ!?浩介ちゃまがいるのにその名前の酒は不敬??⋯⋯いえっ!違いまちゅ!!そんな事考えてもないでちゅっ!!浩介ちゃま!!クスは浩介ちゃまを亡き者になんて考えてませんよ!!⋯⋯タマ様ぁぁ!!」


まさかの銘柄に突っ込みが入りクスはテンパりタマへと助けを求める。


「浩介殿、クスがいう通り、クスはそんな事を考えてはおりんす。【魔王殺し】はその名の通り、はるか昔この大会でその酒を飲んだ魔王殿があまりの強さから吐き、二日酔いで苦しんだ事からつけられた名前でありんす。あまり出回ることのない銘柄でございんすので、幻の一酒の一つです。」


タマの助けにクスはパァァァと笑顔になり飛び跳ねている。


「タマ様タマ様!!ありがとうごちゃいました!!はい!と言うわけでこのお酒なかなかお目にかかれないお酒なのです。今回は現酒呑、フェリスちゃまから特別にいただきまちた!!ありがとうごちゃいまちゅ!!」


ぺこりとフェリスへ向かい頭を下げるクスと会場からは溢れんばかりの拍手が鳴り響く。

しかし今の発言で浩介は驚いていた。


(現、酒呑がフェリスさん??)


そう確かに今そうきこえた浩介。自分をサポートする為に壇上に上がってきたとばかり思っていた。視線をフェリスに向けるとフェリスは顔を赤くして俯いていた。


(⋯⋯驚いた。本当みたいだな。しかし意外だ。)


フェリス、浩介の周りには屈強な男達が多い中まさかその頂点がフェリスだとは思いもしないだろう。


(一体どれだけ飲むんだろうフェリスさんは)


浩介のそんな視線に気がついたのか、トコトコとフェリスが浩介の方へ歩いてくる。


「申し訳ございません浩介様。まさかこのタイミングでこの大会が開催されるとは思ってもみませんでした。⋯⋯全くタマ様ったら。」


(さっきタマさんがフェリスさんの方を見てニヤついていたのはこのせいか)


「いえ、交流の場でういていた私のためにありがとうございます。タマさんもフェリスさんも。それにしても凄いですね。フェリスさんが現在の酒呑なんですって?いや、驚きました。⋯⋯相当飲まれるんですね?」


浩介は年甲斐もなくフェリスがどれほど飲むのか、興味津々だ。


「⋯⋯恥ずかしながら、、あ、あのぅ、、浩介様はお酒を沢山飲む女性はどう思いますか??」


浩介をまるでアイドルかのように接していたフェリスだ。酒飲みのしかも酒呑と呼ばれている自分への反応が気になるのだろう。出来る男ならここで気の利いた事も言うのだろうが、浩介は女性経験が乏しい。フェリスが期待するような言葉なんて言えるはずもない、しかし


「私は嗜む程度ですが、酔って人に迷惑をかけないのならいくら飲んでもいいんじゃないでしょうか。美味しそうに幸せそうに飲む姿は素敵だと思います。」


時として素の言葉が会心の言葉になる事がある。浩介の今の言葉はフェリスにとってまさに会心の一撃となる。


グササササッ!


「!!!はいっ!そうです!そうですよね!!おっしゃる通りです!!流石浩介様です!!」


浩介の言葉に満天の笑顔になるフェリス。平時でも絶世の美女だが笑顔になるとその破壊力は凄まじい。周りの魔族達でさえその威力に魅了される次第だ。その笑顔を真正面から受け止めている浩介は、忽ち赤面する。そのせいかなかなか言葉が出てこない。


(⋯⋯可愛すぎる)


「フェリスちゃまフェリスちゃまー!!酒呑の挨拶お願ちまーす」


どうやらフェリスは挨拶があるようだ。クスの言葉を聞いたフェリスは笑顔のまま


「はいっ!!今行きます!!⋯⋯浩介様っ!私頑張りますね!!」


といい、クスが待つ壇上まで歩いていく。その後ろ姿は軽やかで、いい事がありましたと物語っていた。


そして壇上に立つフェリス。一呼吸置き


「まさか浩介様を召喚した矢先にこの大会が開催されるなんて思ってもみませんでした。なので挨拶も考えておりません。ですので拙い挨拶になると思いますが容赦ください。」


と話し始める


「私達は今未曾有の危機の中にいます。浩介様が召喚され、そのお力により体力は回復しましたが、魔力の回復はしておらず、この状態で戦闘になったら魔術なしで戦わないといけません。」


交流の場として急遽決まった大会で現実から目を背けることが出来ていた魔族達だが、フェリスの言葉を聞き現実を突きつけられる。そう、この会が終わったら、理不尽な現実。種族の存亡をかけた戦いがまっている。しかも得意の魔力がない状態でだ。まさに絶体絶命。

賑わっていた王間だがシンと静まりかえる。

これから起こるであろう現実に先程まで上げていた顔はまた下を向き、泣き出すものもいる。


「きっと激しい戦いになるでしょう。いま貴方達の隣にいる仲間とはもう会えなくなるかもしれません。大切な人を失う事もあるでしょう。理不尽に、、」


そこまで話すとフェリスはキッと胸を張り、顔を上げ言い放つ


「⋯⋯ですがっ!ですがっ!私達には浩介様がいらっしゃいます!!わたしは先程の浩介様のご発言にハーティスト様の面影を見ましたっ!皆さんもそうでしょう!!きっとハーティスト様も浩介様や私達に力を貸してくれているのですっ。そしてその御力の一端。まるで神の如し魔術。絶望しかなかった私達に希望を与えてくださった偉大なる御方。信じましょう浩介様を!信じましょう私達魔族を!!信じましょう自分たち自身を!!私達にはきっと未来が開けるはずです。

⋯⋯挨拶というものと少しそれてしまったかもしれません。ごめんなさい。

この会は浩介や仲間との交流の場です。今言った通り私達は未曾有の危機に瀕してます。ですから今日のこの会は精一杯楽しんで欲しいです。こんな危機的状況だからこそめいいっぱい楽しみましょうっ」


そういうとぺこりとお辞儀をするフェリス。


どうやら挨拶が終わったようだ。


シンと静まり返る王間。

そこにぱちぱちと手を叩く音が聞こえる。

手を叩くのは浩介だ。


その音を皮切りにぱちっぱちっぱちっと拍手が続き出し遂には王間全体に広がる。


「「「「ウォォォォォォォォッ!」」」」


鳴り止まぬ拍手の中フェリスは再度ぺこりとお辞儀をし壇上をおりた。


(俺の事を持ち上げすぎだよフェリスさん。だけど、、心に響いていい演説だった。きっと魔族の皆にも届いたはずだ。⋯⋯彼らの為にやれる事は全てやろう。それが俺の役割だ。)


フェリスが壇上を降りて、万雷の拍手も徐々に収まる。しかし


シーン


次へと進行する声が聞こえない。


(ん?どうしたんだ??)


流石に長すぎる沈黙の時間。浩介以外の魔族達も同じ事を感じているのだろう。少しざわつき始め、進行役のクスの方を見てみるとクスは泣いていた。


「フェッ、、フェリスちゃまぁ。いい演説でちた⋯⋯クスも浩介ちゃまや皆さんを信じて頑張ります⋯⋯グスッグスン、、えっ?早く進めてくだちゃい??」


そういいクスは目をぬぐいながら辺りを見回す。するといつのまにか王間の魔族達が自分を見ているではないか。側から見てもわかるくらいクスは狼狽している。


「えっえっえぇっ!!⋯⋯タマ様っ!!」


考えて出たわけではないだろう言葉だがクスはタマの方を見るとタマが少し不機嫌そうな顔をして腕を組み人差し指で肘をトントンとしている。勿論演技なのだがクスは今までにない以上に慌てふためく。飛び跳ねる。


「ぴぃっ!!フェ!フェリスちゃま!ありがとうございまちた!!それでは予選をはじめまちゅ!!参加者の皆ちゃま!!今から5分間で小樽に入った【魔王殺し】飲んでくだちゃい。早さは関係ごじゃいまちぇん!

5分間でのみ切った方のみ、また次の小樽飲んで頂きまちゅ。飲みきれない方は脱落でちゅ。

その繰り返ちで20人を4人にまで減らちゃちてくだちゃい。」


(成る程、時間内の繰り返しで減らしてくスタイルか。きっと俺は一巡で脱落確定だろうな、、しかし【魔王殺し】、、大丈夫かな俺)


浩介がそう考えている間に各参加者へ最初の小樽が配られた。浩介の隣には筋骨隆々な猿のような魔族と犬耳のメイド服を着ている女性魔族がいる。二人ともさっきのフェリスの演説で何かを感じたのか


「浩介様、お初にお目にかかります。猿人のコクウと申しやんす。矮小なるこの身でございやんすが今後よろしくお願いしやす。」


「浩介様私はフェリス様のメイドを勤めておりますレトリーと申します。今日はご一緒させて頂きますね。共に頑張りましょう。」


と話しかけてきてくれた。臣下が王へ声をかける。どれほどの緊張があったのかわからない浩介ではない。フェリス、タマ、レオ以外に初めて声をかけてくれた二人だ。素直に嬉しかった。


「はい、コクウさんとレトリーさんですね。宜しくお願いします。⋯⋯声をかけるの緊張したでしょう。ありがとうございます。これからも沢山声をかけて頂けると嬉しいです。」


まさか浩介からそんな言葉を聞けるとは思ってもみなかっただろう。二人は目を見開き顔を見合わせてる。ただ視線が合い少しすると、プイッと目を逸らし


「浩介様、有難きお言葉ありがとうございます。ただそこのお猿さんはご遠慮した方がいいと思いますわ。キィキィー煩いですし」

「いーや浩介様っ!!そこの雌犬なんかは年中キャンキャン吠えて吠えて御身にとって有害でやんす。すこし人選を考えた方がよろしいかと」


とお互いを貶し出した。浩介はその様子に驚いていたが。後ろからフェリスが教えてくれる。


(あの二人は小さい頃から仲が悪いんです。レトリーにはもう少し仲良く出来ないかと常々申しているのですが、、本人曰く生理的に受け付けないようで困ったものです。)


まさに犬猿の仲だ。


(ははっ人間とまるで同じだ。好きな人、嫌いな人。しかも犬と猿で仲が悪い。面白すぎるだろ)


「ははっ、息がぴったりだ。面白いお二人ですね。仲もよろしいようで」


「こ、浩介様っ!!何を仰ってるんですがっ!!このような猿と仲がいいなんてっ!!」

「そうですぜ浩介様!この雌犬と仲が良いなんてないです!ないない!!」

「ちょっと猿っ!!ないないないない少し酷いですわよ!まぁ私もないですがねっ!!」

「こっちもないわ!雌犬がっ!!もう許しちゃおけやしねぇ!どっちが上かこの大会でハッキリさせてやらぁ!!」

「ふふふ、お猿さんまだ飲んでもないのに顔が赤いですわよ?⋯⋯あっ元からでしたか、、ふふっ」

「なにぉ!!」


目の前に王がいる事すら忘れ言い合う二人はエスカレートしていくが


カーン!!!!


と鐘の音が王間に響き渡る。


「それではっ!準備ができまちたので予選を開始いたちまちゅ!!皆さま準備はいいでちゅかぁぁぁあ」


クスの進行で二人は矛を収めそれぞれの場に戻っていった。


そして


「それでは開始でちゅっ!!」


魔族最強の酒飲みは誰だっ!!吐いたら負けよ酒飲みデスマッチ予選が開始された。


目の前に小樽がある。浩介はその樽の中身【魔王殺し】をまずは大きなグラスに移す。グラスに樽から注がれる【魔王殺し】。その際に漂う匂いだけでその強さがわかる。


(なんだこの強烈な酒の匂いは⋯⋯もうこれはダメなやつだ。無理だわ)


グラスに注がれる、飲む前に飲みたくなくなるような酒。浩介の気持ちは折れかけている。しかし立場上せめて一杯くらいは飲まないと示しがつかない。

意を決してグラスを煽る浩介。【魔王殺し】は浩介の喉へと移動して食道に侵入してくる。瞬間っ!!灼熱のような熱さが食道で暴れ回る。まるで内側から焼かれているような熱さ。一瞬の出来事だが


「ごふっ!ごほっ!!」


浩介はむせ返る。


(なんだこれはっ!!酒なのかこれ!!まるで火をそのまま食道へ通してるようだ。こんなの小樽で飲めるわけがないっ!!)


そんな浩介へ早くもクスの実況が突き刺さる


「我らが新王浩介ちゃまっ!!魔王殺ちの前に早くもグロッキーーー!!!浩介ちゃま頑張って!!皆ちゃま浩介ちゃまへ精一杯声援をおねがいちまちゅ!!」


(なっクスちゃん!!そんな事をいったら)


浩介の嫌な予感は的中する。観客が総出で浩介へ声援を送ってくる。


「浩介さまぁぁ!!」

「頑張ってくださいぃぃ!!」

「ガンバレガンバレ!!」

「⋯⋯さすが浩介様、皆を盛り上げる為に役を演じておる。恐ろしい御方よ」


最後に聞こえてきた魔族の声に浩介は心の中で


(いやいやいやいやっ!無理だから!本当に無理だから!【魔王殺し】本当になりますよ!!)


と否定をするのだが、観客はちがっていた。その発言を聞いた魔族達は、今までは頑張れ頑張れと声援を送っていたのだが


「⋯⋯まじかよ」

「【魔王殺し】さえ浩介様の前では水と言うのか⋯⋯」

「役者が違う⋯⋯俺たちを楽しませるために、、くぅぅっ!!さすが浩介様だっ!!」

「そうよねっ!あの凄まじい力の前では酒なんて、素敵です浩介様ぁぁ」


と浩介の粋な計らいと勘違いしてしまう。


(そうなりますよねぇ!そりゃっ!⋯⋯タマさんなら!!この状況を何とかしてくれるかもしれないっ!!)


浩介の中では一連の行動からタマは軍事や策士的なポジションと固定されている。助けを求めタマを探し視線を彷徨わせると、、、浩介の目に映ったタマは豊満な胸をこれでもかと強調しながら腹を抱えて笑っていた。


(タマさぁぁぁん!!)


どうやら仲間はいないようだ。もう腹をくくるしかないと浩介。グラスを再度手に取ると大きな歓声が聞こえる。


それはどうやら浩介ではない誰かに向けられているようだ。

歓声の行き着く先を見てみると、、フェリスが小樽の中身を全て飲み切ったようで上品に口元を拭き取り時間経過まで待っているようだ。


「フェリスちゃまぁぁぁ!!流石は酒呑っ!!何と開始早々小樽を飲み終えまちたぁぁ!!凄い凄いっ!!」


ジャンプで感情を全力で現し実況をするクス。


フェリスはペコリとお辞儀をして浩介の方を見る。その顔は少し心配そうだ。


(きっと心配してくれているんだ。ありがとうフェリスさん。)


現在開始して2分、浩介は他の参加者を見渡すと、案の定。喉を痛めて掻きむしっている魔族、飲み込んだはいいが後味から吐き出す魔族。ほぼ全ての魔族が苦戦をしている。聞くとこの【魔王殺し】は特定の魔族が斡旋し管理しており滅多な事で流通しない飲み物だったようだ。我こそはと酒飲みに自信がある魔族だとしてもこの味は別格なのだろう。

浩介の隣の二人もだいぶ苦戦しているようだ。


「ごほっげぶっ、、、うっぷ、、【魔王殺し】、、、こんな酒はじめてでやんす」

「本当ですわ、、コホ、、、、、っうう、、喉がいたいです、、、ってあらお猿さん。顔が真っ赤ですわよ。あっごめんなさい。元からでしたねふふっ」


「雌犬っ!!お前なんて息がはぁはぁしてるじゃないかっ!はぁはぁはぁはぁ発情期かっ?!俺なんてまだまだ飲めるさっ!!、、ングングングッ!!」


「⋯⋯浩介様の目の前でそんな破廉恥なデタラメをっ!やはり猿は助平というのは事実ですわねっ!!ゴクゴクゴクン!!」


二人にとって大会は最早関係ない、宿敵と自分どちらが上かそれを決める為に全力を出し飲み続ける決闘になっていた。

飲んではむせ、飲んでは止まり、苦しみながらも意地を貫き通し、二人とも小樽を空ける。


「ふふふふっやりますわね」

「お前もな⋯⋯ぐっ!」


そう真っ赤な顔で笑いながら次の時間まで席に座る。

その後は一言も発せずにコクウは激しい貧乏揺りを、レトリーは、はぁはぁはぁと呼吸の乱れを何とか鎮めようとそれぞれ回復に努めている。


「おぉーっと、コクウさん、レトリーさんも飲み終わりまちたぁ!!!だけども二人とも凄くくるちそうですっ!!頑張れっ!頑張れっ!!⋯⋯そして我等が新王浩介ちゃまは未だ動かないぃぃぃっ!!さっきの一口でもう限界なのでちょうかっ!!⋯⋯えっ?えっ??さっきのは皆ちゃんを盛り上げるための演出でちゅってっ!!!

⋯⋯浩介ちゃま!すごいすごーぃ!!」


司会進行も忘れてキャッキャと飛び跳ね喜ぶクス。

進行役のクスの発言は良く通る。その為さっきまでは王間の一部の勘違いで済んでいた事が今では王間にいる全魔族に伝わっていく。


(クスちゃぁぁぁん!!)


「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」


浩介の気持ちとは裏腹に事態はもう修正がきかないところまで来てしまっていた。


フェリスは目を丸くしながら、タマは未だに腹を抱えて笑っており、レオは口をあんぐり開け驚いていた。何故か先ほど一番に勘違いしていた魔族だけがうんうんと首を縦に振りながら、末恐ろしき御方よ⋯⋯なんていっているがもう腹をくくり演じるしかない。


(えぇぃ!ままよ!!)


浩介はゴクリとグラスの中に残った酒を見、そしてその全てに口内への侵入を再び許す。すると火龍の炎の如きその灼熱が再び浩介の食道を焼き焦がす!


(ぐぅぅぅっ!熱い!!喉が熱い!!⋯⋯これはむ、むりだっ、、)


浩介がその熱さからこれ以上の飲酒は難しいと判断しかけたその時、またあの声が聞こえてきた。


【願え】


(???っ!またあの声だっ!!)


浩介はキョロキョロと周りを見渡すが声の主は見つからない。また浩介以外には聞こえていないようだ。


【お前には魔族達を束ね、守ってもらわないと困る。】


(⋯⋯お前は誰だっ!?何で俺だけにお前の声が聞こえる!!)


浩介は声にそう問いかけるが、それきり声は聞こえなくなる。自分しか聞こえない声に不気味さを感じながらも、その指示に従いレオを助けた事実もある。浩介は多少迷ったが声の通り目を閉じ集中し願う。すると


(嘘だろ⋯⋯喉の痛みが引いていく)


あれ程までに苦しんでいた熱が全く無くなっていく。勿論浩介はその事実に驚いたのだが、何より驚いたのが


(願った通りの事象が起きている、、のか?)


そう、レオの時、今の酒の時。共に願った通りに事が進んでいく。何よりその事に驚いていた。それは魔王としての能力なのかはたまた違う何かによるものなのか、今は見当もつかない浩介。しかし


(この力を思い通りに使えれば⋯⋯魔族を救えるんじゃないか!!)


そう考えるのが常だ。思い通りになる力、言い換えるなら無敵の力とも言えるだろう。


(俺にはこの力が何なのか、知る必要がある。⋯⋯ただ、今の優先順位はこの大会だ。今の状態を使わない手はない!!)


そう思い立ったら大胆な浩介は残った小樽を持ち上げその口につけ、残りの【魔王殺し】をその胃へと文字通り流し込む。その光景に魔族達は大歓声をあげる。


「な、な、なんと浩介ちゃまが小樽に口をちゅけて飲みだちましたぁぁ!!!その姿は酒呑フェリスちゃまが霞む程でちゅっ!!すごぉぉぉおいっ!!すごいでちゅ浩介ちゃまっ!!えっえっ??もう飲み終わったんでちゅか?⋯⋯何と何とっ!!浩介ちゃまがあの数々の魔王ちゃまを屠ってきた【魔王殺し】を仕留めましたぁぁっ!じちゅは私、【魔王殺し】の前に浩介ちゃまは撃沈するとおもってまちたが、まさかまさかの展開でちゅぅぅぅぅ!!えっえっ??不敬??⋯⋯ピィッ!!ちゅいませんーーー!タマ様ぁぁあ!」


どうやら進行役のクスはテンパるとタマへと助けを乞うのが癖のようだ。先程から事ある毎にタマへと助言や助けを求めている。

そんかタマだが、タマも今回の浩介の行動に驚いていた。その青い瞳は大きく見開いている。


(驚いたでありんす。妾も少し飲んでギブアップだと考えてありんした。一度目の浩介殿の行動は本当に苦しんでいる様子でありんたし⋯⋯何かうらがありそうですね。)


「クスやクス。妾はいい実況だとおもいんす。それにほれ、5分経っているでありんすよ?残っているのも丁度4人で良かったではないかぇ?」


タマのその発言を受け浩介が辺りを見回すと、確かに残っているのはフェリス、コクウ、レトリー、自分。

それ以外の魔族は飲みきれず、床に撃沈している者、吐いている者、一口飲んでギブアップした者と悲惨な状態が目につく。何回かにわけ4人まで減らす予定だった予選だが、結果一回で決勝戦のメンバーが決まったのだった。


「タマ様ぁぁ!!ありがとうごじゃいまちゅ!!⋯⋯やっぱりタマ様は優しいでちゅ!!えへへへ。⋯⋯えっえっ??早く進行をちなさいっ??ごめんなちゃぃぃぃぃ!!

決勝戦は酒呑フェリスちゃま!コクウちゃん!レトリーちゃん!!そして浩介ちゃまにきまりまちたぁぁぁ!!!」


クスがそう高らかに宣言をすると


「「「おおおおおぉおぉぉぉぉ!!」」」


と大歓声があがった。


こうして数多くの犠牲者を出し、魔族最強の酒飲みは誰だっ!!吐いたら負けよ酒飲みデスマッチの予選が終わったのである。そして舞台は決勝戦へ動く


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魔王として転生したはいいけれど無理ゲー過ぎて心が折れそうな俺とサディスティックな勇者の異世界戦記 ふう @h009309

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