第3話 魔王の力

(まさに四面楚歌だ⋯⋯)


浩介はフェリスから現在の魔族領の現状を聞いて愕然とする。

魔王城があるここ、魔都レヴールは北に行けば戦士王 が治めるドワーフの国ゴンゴ、南に行けば魔道王が治める国魔術都市エターリア、西へ行けば精霊王 が治める国ウィル、東に行けば人族が治める国セレスティアとまさに四面を他国に囲まれている状況だった。

しかもフェリスが言うにはすべての国から程度は違うが攻撃を仕掛けられていて、残った魔族の総数はおよそ3000人。この魔都に避難し残っている魔族のみ。魔都以外の国民達は全滅していると言う。この状況で浩介は召喚されたのだ。


フェリスや魔族達が現状を簡潔に伝えてくれたのはわかりやすく良かったのだが、聞けば聞くほど今の状況が悪い事がわかる。しかし浩介は疑問に思った事があった。


「⋯⋯フェリスさん。失礼ですが何故この状況でまだ魔族が滅んでいないんですか??四面を敵に囲まれ、総数が3000人の種族なんて言っては悪いですが、すぐに滅びますよ。

私が敵の将なら迷わずに進軍し制圧いたします。

また、何故魔族領が侵略を受けているんですか?国と国との話なので一国と一国の戦争ならまだ理解出来ます。しかし、現状は魔族対他種族という状況。理由もないのにこの状況はあり得ません」


(客観的に見て、この状況は普通じゃない。誰がみても明らかにおかしい。)


浩介の疑問は最もだろう。そもそもの原因が分からなければ対処の仕方など存在しない。物事には過程があり結果がある。


(魔族対多種族、こんな戦構成になるって事は魔族が何かをしでかさないとあり得ない。それが俺に解決できる事なら和平協定も視野に入れて行動出来るはずだ。⋯⋯ただこの人達がそんな大それた事をするなんて思えないけど、、)


浩介は一体何でこの戦が始まったのか、原因がは何なのかフェリスから詳細が返ってくると思ったのだが


「⋯⋯わかりません。」


返ってきた言葉はそれだった。


流石の浩介もこの回答は予想していなく


「なっ!!⋯⋯わからないのに滅亡の危機に晒されてるんですかっ!!あり得ないっ!!」


と声を荒げてしまう。しかし、辺りを見回すとフェリスを始めその場にいる魔族達がある者は視線を床に落とし、ある者は浩介の方をしっかりと見つめ、ある者は息絶え絶えと


「コウスケサマッ!フェリスサマノイッテイルコトニマチガイアリマセン」

「ある日イキナリ攻撃を仕掛けてきやがった!!」

「最初は人族だけだったんだ!!それが今じゃ四方からっ!!」

「俺たちが何をしたんだよっ!!」


泣き声混じった声が王間に響き渡る。


(迂闊だった。。。この人達はもういっぱいいっぱいなんだ⋯⋯もっと言い方があったはずなのに)


「⋯⋯本当なんですね、訳もわからず攻撃を受けて、訳もわからず殺されて⋯⋯申し訳ございません。貴方達の事をもっと考えて発言すべきでした。」


ぺこりと頭を下げる浩介。


「「「「っ!!!」」」」

王間に驚愕の声なき声が響く。


「あっ頭を上げてください浩介様っ!!浩介様の疑問はよくわかります。こんな話私だって当事者じゃなければ同じ反応をしています!!だから気になさらないでください!!」


そうフェリスを始め周りの魔族達が慌て、促すとようやく頭をあげる。

その際浩介の目に入って来たのは驚愕と好奇心に二分された魔族達の顔だった。


「いや、配慮が足りなかったのは事実ですから⋯⋯申し訳ございませんでした。⋯⋯って皆さん揃いも揃って何を驚いているんでしょう?何かありましたか?」


そう天然感丸出しの浩介へフェリスが口挟む


「何をって!!浩介様が頭を下げるからですよぅ!!王が民に、しかも不特定多数の民の前で頭を下げるなんて信じられませんっ!!王の謝罪は国そのもの。それほどまでに重いものなんですよぅ!!」


(成る程、、不快な思いや不安な思いをさせたなら謝る。人として当然な事をしたまでのつもりだけど、王としての行動言動としてはイレギュラーなんだな⋯⋯)


「そういうものなんですね⋯⋯疎くて申し訳ありません。」


再度謝る浩介


「浩介様っ!!またっ!!謝ってますっ!!!」


(フェリスさん、地が出てしまっていますよ)


まいったなぁと頭をかきながら笑う浩介へ


「ふふふっ、今度の魔王殿は変わり者だのぅ。それによく見ると可愛い顔をしとるではないかぇ」


ピトッと右腕に柔らかな感触がしてかと思い見てみるとそこに一人の美女がいた。

腰程にも伸びている金髪。目はツリ目だがキツイ印象はなく、吸い込まれるような青い瞳が印象的だ。服装は


(⋯⋯花魁?)


そう日本で言うところの花魁スタイルで、胸元からは零れ落ちそうな果実を大胆にも見せ、足元はスラッとスリットが入っており際どいところまで見えそうで見えない。さらに印象的なのは腰から伸びる尻尾だ。フサフサの尻尾はまるで犬のように左右へフラフラ、左右へフラフラと定期的なリズムで動いている。


「タマさまっ!!浩介様との距離が近すぎますっ!!失礼ですっ!!、、、ゎ、、、にっ!!離れてください!!」


フェリスが浩介にくっついているタマに押し迫る。しかしそんなフェリスを嘲笑かのように浩介へとしな垂れかかり


「浩介殿!浩介殿!妾は魔王召喚でヘトヘトでありんす⋯⋯少しだけ、少しだけでいいからこのまま御身をお貸し願いんす」


わざとらしく弱々しい声を出し倒れかけるタマに浩介はまんまと誘導され胸を貸すのだが、


「タマさまっ!!!私だってまだなのにっ!!」


タマの行動もどうかと思うがフェリスの発言に多少のビックリする浩介。


「フェリスよっ!ほれっ!魔王殿の左半身は空いておるぞぃ。お主もどうじゃ」


何やら浩介の知らないところで、シリアスムードから抜けてしまっていた。


フェリスは葛藤してるのだろう。もじもじと浩介の左半身と床を交互に見ながら


「えっ、、いいのかな⋯⋯いやいやっ!!ダメですっ!今はそう言う事をしている場合じゃありませんっ!!⋯⋯でもちょっとだけでも」


きっと頭の中では天使と悪魔が戦っているのだろう。


(フェリスさん、、声が漏れてますよっ!)


最初は凛とした雰囲気のフェリスだったが地の性格が徐々にわかって来た浩介であった。

この二人のやり取りをもう少し見てみたいのはあった浩介だが


「フェリスさん。説明を続けてください。先程攻撃を受けているのか理由は不明と仰っていました。不明な事をすぐに解明出来るとは思えませんので、一度切り替えます。二つの質問の一つ、なぜ魔都は未だに攻められていないのかを教えてください。⋯⋯まさかこちらも不明とかではないですよね?」


何事にも優先順位がある。今最も高いのは話の続きと情報整理だ。


浩介の問いにフェリスはハッと我に返り頷き説明し出す。


「はい、ここ魔都レヴールが攻め込まれていない理由は説明出来ます。この魔都には前王ハーティスト様による結界が張られています。その力は巨大で外からの解除は不可能です。その結界のおかげで攻め落とされていないんです。」


(そんな強い結界があるなら多少考えて行動する時間ほ稼げそうだ。いわば堅固な籠城ってやつだな。)


少しだけプラス思考になれる話だったが浩介のその思考はフェリスの続く発言により打ち砕かれる。


「⋯⋯ですが、その結界ももう切れるでしょう。結界の発動条件はハーティスト様の死、ハーティスト様は自身が亡くなってから次の後継者が現れるまで他国による干渉や戦を防ぐために結界を編みました。しかし浩介様と言う新たなる魔王が誕生したので結界も消え去りますでしょう。」


もう何度目かわからない衝撃で浩介の頭の中はノックアウト寸前だったが、ここで声を荒げてしまうと、さっきの反省が全く活きていない。事実は事実としてうけとる。


「フェリスさん、結界の解除はいつ頃でしょうか。」


そう、いつ解除されるかだ。

それが分からなければ話にならい。


(これも、わからないじゃないよな?もしそうなら流石に無理ゲーすぎるぞ!)


「自然的な解除は本日より1週間。任意解除は浩介様の意のままにです。⋯⋯結界は魔都への絶対障壁と魔族領での敵国の情報が映像化される仕組みになっております。一度ご覧になった方がよろしいかと存じます。中核は別部屋にございます。こちらへ」


そう王間の入り口へと誘うフェリス。


右胸にしな垂れているタマをに声をかけ入り口へと向かう浩介。

意外にもタマはすんなりと


「魔族領の事頼みんす」


と浩介を解放しててくれた。

浩介はそんなタマに頷き王間の入り口へ

と向かう。


王席から降り、歩いて魔族達に近づいてみて初めてわかったが、魔族達の消耗はものすごく激しいようだ。重症、軽傷というレベルではなく、重症と下手したら重体の一歩手前な感じかその場にいる魔族達の様子だった。


そんな中、浩介の前では何とか無様な姿を見せまいと立っていた獅子の顔をしていたんじゃよ男がイキナリ崩れ落ちる。


「レオ様っ!!」


悲鳴が王間にこだまする。


獅子の顔の男、レオは地面に顔をつけ、ゼェゼェと息も絶え絶えで動けない。まるでそれが合図だったかのようにレオを皮切りに同じような光景が所々で広がっていった。


異世界の魔王へと転生し、右も左もわからない浩介。目の前の魔族達だって、もしかしたらグルで浩介を囲い込もうとしているかもしれない。何が本当で何を信じていいかもまだ確信しない状況だが、気がつけば浩介はレオの元へ走っていた。


「大丈夫ですか!?」


浩介の行動に驚く魔族達。それは王が臣下の元に駆けつける行動に対してか、それとも浩介がそんな行動をするとは思っていなかったからか。


抱き抱えられたレオは目を弱々しく開けながら


「浩介様⋯⋯御身が汚れちゃいますぜっ」


と軽口を叩くが


「何を言っているんですっ!!そんなのは問題にすらなりません。名前はレオさんでいいんですよね?大丈夫ですかっ!!?」


浩介の剣幕に僅かに目を開くレオだが身体の力がさらに抜ける。


(これはまずいっ!!)


「誰かっ!!レオさんを助けられる人はいませんかっ!!医療⋯⋯いや魔法で回復魔法を使える方はっ!!」


しかしその言葉に答えるものはいなく帰ってきたのは沈黙、そして


「魔王殿、妾達は魔王殿を召喚するために魔力を使い果たしておりんす。その為回復魔法は⋯⋯使う事ができません。」


タマからの悲壮に満ちた言葉だった。


(おいおいおいおいっ!!!レオさんや魔族達はこのままだと死ぬぞっ!!どうするっ!どうすればいいんだっ!!魔王として召喚されてまだ何もわかりませんでしたから助ける事が出来ませんでした??っっふざけてるっ!)


【⋯⋯】


(どうする!俺ができる事はっ!⋯⋯何にもないじゃないか)


【願えっ!お前の願いが力になる】


空耳かと思った浩介だが、どうやら違うようだ。あたりに目を向けても発言元がわからない。その後数秒待ってみたが声は聞こえない。


(気のせいか?いや、たとえ気のせいだとしても俺にできるのはそれだけだ!!)


浩介は意識をレオに向け、そして魔族達に向け回復を願う。すると


(なんだ、、この身体の中から溢れだす力⋯⋯そして【フル、、リヴァイブ】という言葉が浮かんでくる。)


浩介自身は目をつぶり集中していたので自らの状態を確認できてはいなかったが、周りの魔族は違っていた。

浩介が目を閉じたと思ったら、その身体から膨大な量の魔力、いや、膨大なという表現すら適切でないほどの魔力が迸っていた。魔力を司る種族、魔族。だからこそその力を目の前にした魔族達は浩介をまるで神を崇めるかのように憧憬している。


「浩介様っ!凄い⋯⋯です。」

「いやはや我らが魔王殿がここまでとは」


それはフェリス、タマも例外ではなく浩介の力の前に酔いしれている。


すると浩介は目を開き


【フルリヴァイブ】


と言葉を紡ぐ。瞬間っ!!


浩介を中心に緑色の光が円形状に広がり、レオ、フェリス、タマ、魔族達を包み、またその光は王城の外、魔都レヴールの広範囲を覆った。暖かく優しい光ぎ魔族領を包み込む。


その光に当てられた草木、木々、花々は

まるで新芽のように青々と、戦で傷ついていた魔族の傷は例外なく癒え、魔王召喚で消耗していた魔族達の体調は完全に回復していた。


そして光はまるで魔族達を祝福するかのように収束し天へと駆け上り消えていく。


「⋯⋯浩介様凄いですっ!!みんな!みんな体調や体力が完璧に回復しています!!!私も物凄い楽です!!」


フェリスの声が響き状況を把握する浩介。そこには唖然としていてまだ声が出ていないレオや自分達の身体に起こった事に戸惑う魔族達がいた。


「これを⋯⋯俺が??」


中でも一番驚いているのは浩介自身であろう。呆然と立ち尽くしていたが


ウォォォーーーン!!


とレオが遠吠えを上げると


「「「「わぁぁぁぁぁあっ!!」」」」


溢れんばかりの魔族達の歓声が王間に溢れ出した。その歓声はその日一番の声量で、その日一番の感情がこもっていた声だった。


そんな浩介へ遠吠えを終えたレオが膝を降り頭を下げる。それに続きフェリス、タマ、その場にいる魔族全てが同じ格好をし浩介へと頭をさげた。その姿は一糸乱れず、回復をした為か、はたまた浩介を主人として心から認めた為か理由は定かではないが、先程より更に洗練され浩介の目を釘付けにする。


「浩介様!!召喚されたばかりで我々の想像を絶するほどご不安でしょうに。その力を我らの為に⋯⋯言葉も出ません!!このレオ・アグシム御身に忠誠を!!」


「「「我らの命御身と共に!!」」」


まるで映画のような光景に感動をしながらも浩介は自分の求められている事をキチンと把握、理解している。


(⋯⋯俺の力、、まだ不安はある。この力で彼等を守っていけるのか、戦争を終わらせることが出来るのか⋯⋯だけど今は彼等に応えたい!)


胸を張り顎を引き、声高らかに宣言する。


「ならば我が命は魔族の為にっ!!」


「「「「!!!!!」」」」

(えっ!ハーティスト様っ!!)


それは夢か幻か


言霊という言葉がある。

古くから日本では言葉に宿る力があると信じられている。

言葉一つで人は死に、言葉一つで状況が変わる。


浩介の発した言葉は魔族達にとってはまさに言霊だった。浩介が宣言した言葉は、前王ハーティストが魔族達に魔王として召喚され、宣言した言葉と一字一句同じだったのだから。


魔族達は浩介にハーティストの面影をみのだろう。

ある者は泣き、ある者は驚き、ある者は泣き笑う。その場にはもう先程まで漂っていた絶望感、悲壮感はない。

まさに浩介は言葉一つで魔族達の希望となったのだ。


その光景を見たフェリスは⋯⋯口にてを当てて泣いていた。それは先ほどまでの悲壮な涙ではない。


(ハーティスト様っ!!貴方様の後継者は素晴らしい方でした。浩介様ならきっと!!!)


「「「「浩介様っ!!浩介様っ!!浩介様っ!!」」」」


その歓声はいつまでも、王間に鳴り響いていた。


浩介が召喚されたその日を境に魔族達の攻勢が始まる。





召喚されて二日目


浩介はフェリス、タマ、レオと共に王城を歩いていた。昨日案内されるはずだったハーティストの結界の中核のある部屋に向かう為だ。


昨日のあの状況の中ではフェリスも結界の中核にそのまま案内する事は出来ず、そのまま浩介と魔族達の交流を深める場となった。


(昨日はすごかった⋯⋯)


浩介は昨日の事を思い出す。




生きるか死ぬかの瀬戸際で魔族達もきっと色々溜まってたんだろう。これまでの鬱憤を晴らすかのように、飲みや食べやと大騒ぎ。


そんな中浩介は⋯⋯ういていた。


浩介を中心に一定距離にフェリス、タマ、レオ以外の魔族が入ってこないのだ。


(あれ?さっきまでのあの盛り上がりだと囲まれるかと思ってたのですが⋯⋯)


少し寂しい思いをしている浩介にタマが酒を注ぎながら耳打ちをする。


「浩介殿!浩介殿!きっと彼等は近寄りたいが、浩介殿が天上人過ぎで近寄れないんでありんすよ」


「はぃ?!天上人ですか?!!ははっ私はただの人間ですよ⋯⋯あっ魔王になったんでした。」


「ふふっ浩介殿は面白い方でありんすな。力も強力、面白い、容姿も優れてる⋯⋯妾興味しかございません」


更に浩介へくっ付くタマ。肩にあった頭が胸元へと移動している。

実はこのタマの行動に浩介は内心結構いっぱいいっぱいだ。


(タマさんの様な綺麗な人に言い寄られるのは童貞には毒だ、、あぁ、、いい匂いがする)


「タマ様っ!浩介様へくっつき過ぎですよぅ!!!離れてくださいっ!!」


現在浩介の胸にはタマの小さい頭がのっている。フェリスはそんなタマの腕を引っ張って離そうとしているのだが、タマはテコでも動かない。

そんなフェリスへタマはニヤニヤと意地が悪い笑みを浮かべ


「フェリスや、浩介殿の左側があいておりんすよ?そなたも浩介殿をもてなしんさい。」


(いや、この状況でフェリスさんもくっついて来たら理性が持たない!!、、!でもそれはそれで⋯⋯)


フェリスはあぅあぅ言いながら頭に手を当てて考えているがきっと踏み出せないだろう。


「まぁあれだけの力を見せつければアイツ等の気持ちもわらなんではないが⋯⋯浩介様!!酒が少なくなってますぜっ!!ささっ!一杯」


(いや、貴方はどこのサラリーマンですか。)


目の前で直接浩介の力の一端をを見たレオは、何かと浩介に絡んでくる。しかし浩介はそれが嫌なわけではない。寧ろ同じ男同士で浩介へも気楽に話しかけてくれるので助かっていた。


「せっかくの皆さんとの場なのでどうにかしたいのですが⋯⋯」


そう浩介がいうと、タマはキラーンと目を光らせて、浩介から離れるとその足で軽やかに王座前まで進んでいく。

タマのその行動に気づく魔族達。王座に着く頃にはざわついていた王間が静まり返っていた。


「皆の者っ!!せっかくの浩介殿との場なのになんじゃなんじゃ、うちわで固まりおってっ!!あれかっ?キッカケがないから、なかなか話に来れないのだろぅ??」


タマはそこで言葉を切り、魔族達を見渡す。


(くいつきは上々じゃな)


「そ、こ、で!!!久々にあれをやろうと思いんすっ!!魔族最強の酒飲みは誰だっ!!吐いたら負けよ酒飲みデスマッチっ!!!!」


宣言したはいいがタマにとって予想外の反応があった。いやなかったと言った方がいいのか。

タマの予想だと宣言した後、大歓声が響き渡ると思ったのだが、実際歓声は上がらずシンとしたままだ。

怪訝に思うタマだが、王座から身下ろすように魔族達を見てみると、皆ソワソワとしているのだがその視線の先には浩介。


(我が種族ながら度胸なしばかりでありんす。おおかた、浩介殿の反応を待っているのでしょう。)


事実タマの推測はその通りだった。タマの提案はこの上なく素晴らしいのだが、浩介がどう反応するか、もし自分達が肯定的な反応をし、浩介が否定的な立場を取った場合、ただでさえキッカケが作れず近寄れないのにさらに近寄りづらくなる。多くの魔族達はそう考えて反応できていなかった。


(全く世話がかかりんす。)


タマは王座前から浩介へウィンクをする。そのアイコンタクトに気づいた浩介は意図に気づく。そして


「面白そうな企画ですね。あっ皆さん呑みすぎには注意して下さいね。」


そう言った。

タマはその言葉に満足気にニヤつき再度言い放つ


「我らが王、浩介殿も仰ってるが呑みすぎには注意でありんすよ!!⋯⋯まぁ多少は呑んでもらわないと企画の趣旨から外れてしまうでありんすが⋯⋯


それではっ!!魔族最強の酒飲みは誰だっ!!吐いたら負けよ酒飲みデスマッチっ開催っ!!」


「「「ワァァァァッ!!」」」


今度こそ期待していた通りの反応が起き尻尾をピコピコと振りご満悦なタマであった。


「あ、、、あぁー、、、テステステスッ!テスト、拡音テスト、、テストですテスト⋯⋯うんっ!タマ様タマ様っ!!準備出来ちました!!」


王間の入り口辺りから何やら声が聞こえてくる。浩介はその声の方へ視線を移すとそこには透き通るような真っ白な髪ををした幼女がいた。年は4.5才くらいか。

タマの幼少期と言われても良いぐらいにタマと瓜二つだ。服装もタマと同じく和服をきている。


「うむ。クスよそれでは進行を頼みんす。」


「任ちゃれまちたっ!!」


クスと呼ばれた幼女はそう言われると嬉しいのだろう。元気に飛び跳ている。


そして


「皆ちゃまお待たせ致ちました!!今回で第462回⋯⋯えっ463回??もぅ!そんな細かいこと気にちないです!!⋯⋯コホンッ!


魔族最強の酒飲みは誰だっ!!吐いたら負けよ酒飲みデスマッチですがルールは、皆ちゃまご存知の通りです。でもでも今回は浩介ちゃまがいらっちゃいますので、説明をさせて頂きます。⋯⋯あっー!!!そこっ!そこの人たちっ!!私語はダメですよっ!!⋯⋯そうそうあなた、あなた達です。、、えっ、ごめんなさい?いえわかってくだちゃればいいんです!!、、って!!皆さん!!何子供を見るような目でわたちを見てるんですかっ!!そのやちゃちい視線っ!!、わたち子供じゃないです!!やめてくだちゃい!!」


(話が全く進んでない、、でも見ていて癒されますね。)


浩介は気がついてないが、浩介の顔も他の魔族達と同様、子供を見る優しい顔をしている。


「クスや。話が進まない。脇道に逸れずしっかり進行を願いんすよ。」


ビクッ!!


タマの言葉でスクは慌て、話を強引に戻す。


「はいっ!!説明でごじゃいますが、簡単に言うと我こそはと思う酒飲みの方々がお酒を飲み続けるだけです。ただち、飲むお酒の量は小樽単位で飲んでいただきます。また、一杯単位に飲み時間を設けてまちゅので、その時間内に飲み終わらなければ失格です。最後に残った一人が優勝です!!」


(小樽って⋯⋯あれか)


クスが説明をしているのだが最中に酒が入っているのだろう小樽がドンドンと運ばれてくる。あっという間に樽のピラミッドの完成だ。


(量は、大きさから言うと一つ4リットルくらいかな、、俺は飲み干せないな絶対)


説明を聞き終えた浩介は進行の成り行きを見守る。


「優勝ちた方には酒呑の二つ名と魔王様よりお言葉をいただいていますので、その時は浩介様、よろちくお願いします。」


ペコリと浩介へとお辞儀をするクス。


「はい。わかりました。もう一度言いますが、皆さん呑みすぎにに注意して下さいね。」


そう魔族達に伝えるのだが、どうも魔族達の表情がおかしい。その表情は、何を言っているんだろう?と疑問が浮かんでいるような表情だ。


(あれ?また何かおかしな事をいってしまったんだろうか。)


浩介にはその表情の意味がわからない。何かまた地雷を踏んでしまったかと思っていたところ、耳元でフェリスが教えてくれた。


(この企画、魔王様の参加が必須なんです。ですから先程の発言に皆さん困惑してるんだと思います。)


(そうなんですかっ!!私そこまで飲めませんよ?!)


転生する前は日本酒と焼酎をチビチビと嗜む程度だった浩介。そんな浩介にいきなり小樽を飲み干せるわけがない。まさか自分が参加するものだとは思ってもなかった浩介は王座のタマへ視線を向けると、タマはニヤニヤと尻尾を振りながら頑張ってと伝えてくる。


(浩介様。大丈夫です。この企画は王と臣下の交流だと考えてください。浩介様が参加なさる。その事に意味があるのです。)


(成る程⋯⋯そう言う事ですか、わかりました。)


「皆さん申し訳ない、私も参加させて頂きますから宜しくお願いします」


「「「おおおおおおおぉぉ!」」」


こうして魔族最強の酒飲みは誰だっ!!吐いたら負けよ酒飲みデスマッチが幕を上げたのだった。

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