第2話 勇者レティシア

時は少しだけ戻る


勇者レティシアは夢を見る。


夢といっても実際に起きた出来事なのだが。それが毎晩のように。


そこは焼け果てた地、魔神を屠ったその日の出来事。


何もない荒野で銀髪の美丈夫がゆっくりと倒れ、崩れていく。


「ハーティストっ!!」


地面に横たわるハーティストに人族の勇者レティシアは声を上げながら駆け寄る。その姿は普段の彼女からは想像もつかない。

魔神との熾烈な攻防、レティシアを守った代償でハーティストは致命的な傷を負っていた。

倒れる美丈夫、魔族の王ハーティストはそんなレティシアに場違いながらも目をまん丸と見開きながら驚く


「レティシア⋯⋯どうしたんですかいつもの貴方らしくない⋯⋯地が出てますよ」


いつもの通りの憎まれ口を叩くハーティストだがレティシアは止まらない。


「うるさいっ!!あぁ、、凄い傷、、どうして!!どうして私を庇ったんですかっ!!セシルっ!!龍王の貴方なら治せますか?!!」


その問いに龍王セシルはクビを振り


「ダメじゃ⋯⋯妾の力でもその傷をはどうしょうもない。不治の力が働いておる。⋯⋯すまないのじゃ」


その言葉を聞きレティシアは周りの王達へも視線を向けるが、王達はクビを振る。


「っ!!、、ポーションっ!!ハイポーションっ!!エリクサーっ!!エーテルっ!!」


アイテム袋から回復薬を取り出し片っ端からハーティストへかけ続けるレティシアだが。何の効果もない。


「⋯⋯レティシア」


「うるさいっ!黙れ!!キュアポーションっ!!」


「レティシア・アイリスっ!!!」


ハーティストの大声にビクンと驚き、行動をやめるレティシア。その顔は泣き顔でぐちゃぐちゃになっていた。


「ありがとう。レティシア。私はもう助かりませんよ。だてに⋯⋯魔王をしていたわけではありません。自分の事は自分が一番⋯⋯わかります。」


そう言いながら残っている片手でレティシアの頭を撫でるハーティスト。

レティシアは泣きながらその手を掴む。

その行動にハーティストは力なく笑い王達へ伝える。


「皆さんに⋯⋯お願いがございます。どうか魔族達を宜しくお願いします。

統治者がいなくなる事で混乱が起きるでしょう。新しい統治者が現れるその日まで⋯⋯ゴフッ!」


話の途中で咳き込むハーティス。


「⋯⋯どうか彼らを支えてやってください。彼らを助けて、やってください⋯⋯」


王達はハーティストの最期の願いを聞き受けたと言わんばかりに頷く。その光景をみたハーティストは満足げに笑い


「ありがとう⋯⋯ございます。レティシア⋯⋯貴女との未来過ごせなくなってしまいました⋯⋯許して下さいね⋯⋯」


「そうですよっ!!私が貴方に世界を見せてあげるっていったじゃないですかっ!!⋯⋯全く約束も守れないような男はダメですよ。貴方は本当に⋯⋯」


そういうハーティストの視線はレティシアを見ているようで見ていない。もう目が見えなくなっているようだった。

レティシアは自分はここにいるよとしっかりと手を握りしめる。


「⋯⋯そうですね、、約束しました⋯⋯貴女との未来⋯⋯ふふっ本当に楽しそうだ⋯⋯」


そういうとハーティストの腕から力が抜ける。

レティシアは今度は取り乱すことのなくその手を頬に当て、歯を食いしばり静かに泣き続けていた。





ベットから起き上がるレティシア。その頬には涙の跡が浮かんでいる。


「⋯⋯また見てしまいました。。全く⋯⋯」


そういうと手で目をゴシゴシとかき、深呼吸。


「⋯⋯貴方のせいで気分は最悪ですが今日も見ていてくださいねハーティスト」


そういい首にかかっているネックレスを抱きしめるレティシア。


現在レティシアは魔神討伐の報告をするため人族の国セレスティアへよ帰還中だ

討伐の日から4カ月が経っているか仕方ない。人族の国セレスティアは討伐の地から一番離れた場所にあった点、また帰還中に各王達の国に立ち寄っていた点もあり、だいぶ時間が経っていた。


セレスティアから早く帰って来いと何度も連絡があったのだが、レティシアはハーティストの形見であるネックレスに約束していた世界を見せつけるかのように色々な所により、寄り道をしていたのも遅れた原因なのだが全く気にしてない。





そして、魔神が滅び勇者が帰還する日


人族の国王都セレスティアは熱狂の渦に飲み込まれていた。


王都の南側にある巨大な門。そこを抜けるとセレスティア自慢の美しい街並みが広がる。門から王城まで一本道で繋がるセレスティア通りには大勢の国民が押し寄せていた。


魔神を倒した勇者レティシアが王都へと帰還する。王、貴族、兵士を含め国民達全員がレティシアの帰還を今か今かと待ちわびている。


ある者は勇者に憧れて

ある者は歴史的瞬間を一目見ようと

ある者は人族が救われた御礼をと

ある者は勇者に取り入ろうと


それぞれの思い、思惑が渦巻く群衆の中、一際大きな楽器音が鳴り響く。


「勇者レティシア様の御帰還、御帰還ーーーー!!」


そう声が響くと大きな歓声の中、巨大な門が音を立てて開いていく。

国民が固唾を飲み見守る中

門から1人の少女を先頭に2人の男女、計3人が入ってくる。


先頭を歩くのは勇者レティシア。


その姿は人々の目に入るだけで、その目を釘付けにした。


腰まである艶やかな黒髪、身長は160前後であろうかスレンダーな体型。目は大きくまつ毛も長い。黄金比通りの顔はこの世の物とは思えない程、美しく凛としている。

纏う装備はボロボロで所々ヒビが入っているがそのヒビさえも少女を引き立てる為の道具に見えた。


彼女こそ人族の希望、勇者レティシアだ。


レティシアがゆったりと、そしてしっかりとした足取りで門から城へと歩き出す。


「勇者様ぁぁぁ!!」

「レティシア様!!素敵ですっ!!」

「あぁ、、お父さんにも見せたかった」

「万歳!!万歳ーー!!」

「わぁぁぁぁぁぁあーーー!!


道の端や建物の2階、3階から歓声が鳴り響く。

ある者は手を振り、ある者は泣きながら蹲り、ある者は飛び跳ねている。

そんな歓声にレティシアは謙虚に会釈や手を振りながら対応していた。


(まったく五月蝿いイモ供ですね。人が疲れて帰って来てるのに)


行動、表情と本心が人間必ずしも一致しないのはあるが、レティシアはその最たる者だった。


(この後に国王への謁見と、その後には祝勝会⋯⋯勇者という役割は何かと融通が聞くので好きですか、イモ供の相手をするのはめんどくさいです。⋯⋯はぁ。)


今後の展開に憂鬱な気持ちになるレティシアだが、コツン、、ふと足元に何かが当たる。

視線を落とすと小さい人形がそこにあった。レティシアがそれを拾い上げ、辺りを見回すと、頭上から声が聞こえてきた。


「あたちのお人形ーーーっ!!ママっ!おちたぁ!!」


声につられその先に視線を移すレティシア。そこには通り沿いの民家の二階の窓から身を乗り出して、泣きながら人形が落ちたと叫ぶ女の子と、それを必死になって抑えている母親の姿があった。


母親は青ざめた表情で申し訳ございません、申し訳ございませんと頭を下げレティシアに向けて発している。


(全くもう。)


人形を持ったままシュタッ!っと飛び上がり二階の窓元で静止。目をパチクリとし驚いている親子へ


「大事な物はしっかりと掴んでいないとダメですよ?」

(私がこの言葉を言うのも皮肉ですが、、)


と子供を撫でながら人形を手渡す。

ボーゼンとしていた親子だが、数秒して母親がハッと立ち直り


「ありがとうございますっ!!ありがとうございますっ!!」


「あちがとう!!ゆうしゃさまっ!」


魔神を倒した勇者がまさか一庶民の人形をわざわざ手渡しで、しかも凱旋パレードの真っ只中に拾い上げ渡してくれるなんて思っても無かったのだろう。最悪何かの罪に問われると思っていたのかもしれない。その感謝の言葉は他の国民にも伝染し、道に戻った時には


「勇者レティシアっ!レティシアっ!レティシア!」

「レティシア様ぁぁぁ」

「結婚してくれっ!!⋯⋯いてっ!お前なにしやがるっ!!」

「うるせぇ!!レティシア様は俺の嫁なんだよっ!!」


と歓声がさらに跳ね上がる。


(はぁ、、五月蝿いです。)


レティシアは憂鬱になりながら王城へと向かうのであった。




王城


王座を中心に左右対象円状の部屋はこの国の貴族、王族、官僚など名だたる人物が勇者の到着を待っていた。

平時ならシンと静まりかえっている王間だが今日だけはザワザワと騒がしい。


その中で王族の位置する場所で座っている男、第1王子アレクセイはレティシアの帰還を今か今かと人並み以上に待っていた。

その外見は王子と言うよりもラガーマン、ガッシリとした身体、髪は刈り上げていて金髪の髪は頭皮から僅かに主張する程度。腕、足回りは女性の腰回りと同じくらいの太さがある。見た目は王子とは言えないような男だがどこか憎めないオーラを出している。


「これ、アレクセイよ。レティシアとの婚約の発表は本日ではない。今日は勇者の帰還の祝賀会だ。待ち遠しいのはわかるが少しは落ち着いたらどうじゃ」


現王アクターの言葉にアレクセイは気を引き締め


「申し訳ございません。ですがレティシアとの婚約発表が現実になるとは⋯⋯魔神との戦いで惜しい女を失くすとばかり思っていた為、まさか勝利し無事にもどってくるとは夢にも思っていませんでした。妻にと考えるだけでこのアレクセイ、柄にもなく興奮しております。」


「かぁ、、我が息子ながら色好きな奴じゃ。全く、相手は勇者、英雄じゃ程々にしないとお前が喰われるぞ」


アクターの言葉、王間に笑いがうまれる。


コホンッ!


「全くお父様もお兄様もこの場でそんな破廉恥な話しなくても良いではないですか。周りの者に示しがつきませんっ!!あと!婚約発表と仰ってますが、レティシア様はまだその事をご存知ないんですわよね?勝手に事を進めて大丈夫なのでしょうか」


咳払いの後に話し出したのはアレクセイの横に座る第1王女リリー。


年は15になり、桃色の髪に整った顔立ちレティシアに負けず劣らずの美少女だ。セレスティアではレティシアと並んで双竜の宝玉と呼ばれている。


そう、今リリーが言った通りレティシアとの婚約はアクター、アレクセイが魔神討伐の一報があり考えた事でとうのレティシアは全く知らない。


しかし、王族として生まれ、育ってきたアクターとアレクセイには平民に王族の発言、しかも次期王妃になるような夢物語を断られるなんて夢にも思っていない為、レティシアがいない間にドンドンと事が進んでしまったのだが、、


(レティシア様はきっと断るでしょうね⋯⋯)


同じ双竜の宝石とよばれ、女としてリリーはレティシアのがきっと断るだろうと確信していた。

何かと比較される事がある二人であるがゆえにリリーはレティシアの本質に薄々気が付いていた。


(あの方が誰かのものになるなんて考えられませんわ。もし、そんな人物がいたら私も興味を引かれるかもしれませんわね)


そうリリーが思っていると、王へ臣下が小言をうちにやってきていた。それを聴き終えると


「勇者が参ったようじゃ。皆の者静まれ」


アクターの発言にざわついていた場がピタッと収まる。その発言は先ほどまで王子と冗談を話していたような言葉とは異なり、他を圧倒する声に変わっていた。


(我が父ながらやはり役者が違う)


そう思うリリー、きっとアレクセイも同じ事を考えているのだろう。

静まり返った王間の入り口に視線が集まる。


そして、ギィ、、とドアがゆっくりと開き、レティシアが現れた。


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レティシアが王間に入るとホゥっとため息が何処からか聞こえてくる。

無理もない、全てが絵になるのだ。歩く姿、凛とした表情、その美貌、王間は王城の象徴であり、その作りも豪華絢爛なのだが、それすらもレティシアの前に霞む。

リリーは兄であるアレクセイを見てみるが、やはり魅了されていた。


(お父様も大概ですが、彼女はそれ以上⋯⋯何が双竜の宝石ですかっ!まったく嫌味にしか聞こえませんわ)


「レティシア・アイリス、魔神討伐を果たし、ただいま戻りました」


そう王間の中央で片膝をつき、こうべを垂れ、王へ任務遂行の旨を伝えるレティシア。王はゆっくりと頷きながら


「うむ、儂なんかが想像もつかないような辛く、厳しい戦いだったであろう。数々の労いの言葉を考えておったが、どれも其方の体験、経験した事に対しては安っぽい言葉じゃ。だから会えて簡潔に言おう。大儀であった。」


「はっ!!ありがたきお言葉ありがとうございます。」


「面をあげてよい。」


「はっ」


レティシアが頭を上げたのを見計らい、

音楽が鳴り渡る。

王はその顔をニカッと笑みに変え話し出だした。


「よしっ!ここまでで形式的な話は終いじゃ!!魔神討伐の祝賀じゃ!!皆の者存分に楽しめ。宴じゃ!宴!」


その言葉と共にレティシアへと国の重鎮やその家族が殺到する。


年甲斐にもなくキラキラした目をし旅の武勇伝を聞くもの。

アレクセイの妻になるのを見越して媚を売りにくるもの。

英雄に少しでも近づきたいと好奇心からくるもの。


色々な人物がレティシアの元にやってきては適当に返し、対応していくレティシア。その内心は

(はぁ、、全く大の大人が揃いも揃って小娘に⋯⋯やっぱり面倒な事になったわね。、、早く終わらないかしら)


もう何人対応しただろう。


自分がした事は確かに偉業だが、別に賛辞を受ける事なんてないとレティシアは思っている。

必要な事を出来る奴がやっただけ。

たまたまその役割が自分だっただけで世の中には自分が知らないところで、その役割は全うしている人が沢山いるだろう。

(そう、ハーティストのように⋯⋯はぁ、またここでアイツが出てくる。重症ですね私も)


「おう。レティシア!!」


そう考えていたレティシアを一際大きな声が呼ぶ。そこにいたのはアレクセイだった。王族の第1王子が声をかける事によってレティシアの周りに集っていた人々はその距離を空ける。


(⋯⋯また面倒な、、)


レティシアがそんな事を思っているとは知らずにアレクセイはニヤニヤと笑いながらレティシアに近づき、そして腰に手を回してくる。


「⋯⋯何の用でしょうかアレクセイ様」


不機嫌になりながらも対面上は表に出さないレティシア。


(この筋肉ゴリラが誰に許可を取って私に触ってるのでしょう⋯⋯ニヤニヤとして気持ち悪いゴリラですね本当。お仕置きが必要かしら)


「いやぁ、よく帰ってきた。魔神を屠るとは流石勇者だよ。」


「⋯⋯ありがとうございます。」


ぺこりと頭を下げるレティシア。この地獄が早く終わらないかと思っていたレティシアだが、アレクセイの次の言葉で固まる事になる。


「謙遜するな。お前は英雄だよ!しかもあれだろ?魔族の王もチャッカリと仕留めて来たんだろ?お陰で魔族領への侵略もスムーズに進んでいる。知ってるか?表向きは支援、援助という名目だが王がいない魔族達はアホみたいに感謝してくれている。自国がどうなっているのかも知れずにな。」


「⋯⋯今なんと言いました?侵略?」


驚いた顔で聞き返すレティシアにアレクセイは気を良くしたのか饒舌に続ける。


「あぁ!!もうすぐ魔族の領地も我がセレスティアの一部になるぞ!!人族の繁栄が目に見える!!よかっ、、ガッ!!」


アレクセイが発言を続けようとした所でレティシアがその首を手で握りしめた。

その暴挙に王間は騒然となる。


「なっ!!レティシア様何を!!」

「キャーーーッ!!」


レティシアは自分の性格の事をよく理解していたが、まさか自分にもこんな強い感情が生まれるとは思ってもいなかった。それは悪意、殺意


(このイモ供はっ!!!よりによって魔族の領地への侵略?!何を考えてるんですかっ!!!!ハーティストとの約束をっ!!!)


箍が外れるレティシアは近寄ってくる衛兵や王間にいる全ての人物に向かい殺気を向ける。


それだけで人々は声を上げることも出来ず、その場に留まり、アレクセイは失神する。そんなアレクセイを投げつけ王へと問いかけるレティシア。


「王よ、、魔族領への侵略をやめさせなさい。魔王ハーティストから彼等の事を頼まれてます。私だけではなく各王全員がっ!!このまま侵略を続ければ多種族の王達が黙ってません!!滅ぶのは魔族ではなく人族の方ですよっ!!」


レティシアの発言、行動に驚いていた王だが、何か納得したように頷き


「勘違いしておらんかレティシアよ。魔族の領地に侵略してるのは人族だけじゃないぞ。他の種族も侵略しておるわ。」


「なっ!!!」


魔神討伐の際にハーティストが残した願いをその場にいた他種族の王達が破っている。その言葉を全て鵜呑みには出来ないとは分かっているレティシアだが、衝撃は計り知れなかった。


(あの場にいた王達が約束を破る⋯⋯

どういう事ですかっ!!)


王の発言の衝撃が大きすぎて若干だが冷静になるレティシア。

だが冷静になったからこそ怒りが更に増す。あの戦いで種族は違えどレティシアは初めて自分と対等な仲間に出会えたと思っていた。

しかし、現実は仲間だったハーティストの魔族領への侵略。


(王の言葉が嘘だと決めつけるには情報が少なすぎる⋯⋯)


「レティシアよお主と王達がハーティストと何を約束したかは知らんが、今話したことが事実だ。、、少しは落ち着いたかえ?」


王にまで殺気をを向け、王子を投げ飛ばしたのにアクター王はニカッと笑って何事もないようにつくろう。


「レティシア様、、私は状況はわかりませんが、これ以上事を荒らげるとレティシア様のお立場が悪くなる一方ですわ。少し落ち着いてくださいませ。」


双龍の宝玉と呼ばれる片方のリリーとレティシアは同じ二つ名を共有する者として何かと接点もあり、レティシアには珍しく気を許している人間の一人だ。


(⋯⋯私はなんてバカな事を、今はこんな事よりすべき事があるのに)


「リリー⋯⋯、申し訳ございません。皆様に大変な事をしてしまいました。」


まがいなりにも王族へ殺気を向ける、投げ飛ばすなどをすれば死罪確定。勿論それ程のことをしてしまったという自覚はあるレティシア。


(ただ、罰を受けるのは今じゃない。今は魔族領へ一刻も早く向かわないと行けません。そんな言い分通るとは思いませんが⋯⋯)


そんなレティシアへアクター王は頷き髭を撫でながら


「しかしっ!さすが勇者じゃな!!見事な殺気じゃった!!皆の者!!!大変申し訳ない事をしたのぅ。今の勇者の殺気、アレクセイへの対応は儂とリリーがレティシアへお願いしてたんじゃ。アレクセイの奴が最近調子に乗っていたからのぅ。。本物との格の違いを分からせるためにこの場を借りてレティシアへ対応してもらってたんじゃ。のぅリリー??」


笑いながら娘に声をかけるアクター王


リリーも微笑みながら頷き


「はい。兄はあの通りお調子者ですのでこの場を借りて少し懲らしめましょうとお父様と話し合っていたんですの。今回の件で兄も少しは思慮深くなるでしょう。皆様には申し訳ない事をしてしまいました。」


「ッ!!」


流石にこの展開はよめてなかったレティシア。目を軽く見開き王とリリーを見つめる。すると二人とも片目を瞑ってウインクをしてくる。


(この方達は⋯⋯)


「冗談じゃないっ!!!」


突如大きな声が聞こえてみるとそこには猪のような顔と体型の男が声を荒げていた。


「陛下っ!リリー様!!冗談にしては度が過ぎますよっ!!今のレティシアの対応は演技でもなんでもなく、本物です。なぜレティシアを、、この小娘を庇うんですかっ!?我々貴族や王族までに殺気を向けてお咎めなしなんて前例にございませんぞっ!!」


この男サンマルク伯爵は顔を赤らげながら王とリリーへと上申する。

しかし


「サンマルクよ、そなたが怒るのはわかるが、矛先を間違えてはならぬ。レティシアではなく、儂とリリーがお願いしたのだから向けるのは儂らじゃぞ。」


アクター王はレティシア擁護を崩さない。


「陛下っ!!」


なおも食い下がらないサンマルクが言葉を紡ごうとしたところ


「サンマルクよ⋯⋯儂とリリーが行った事が偽り、嘘と申すか?」


今までにやけていたアクター王が表情を変える。


ゾクっ


すると、レティシアの殺気とは質が違う空気が場を支配する。

アクター王は表情をかえないまま再度言う。


「のぅサンマルクよ、どうじゃ?」


ビクンッ!!


サンマルク伯爵は王の言葉と場の空気に赤らめていた顔をすっかりと青ざめさせ


「い、いえっ!!大変申し訳ございませんでした。私の思い過ごしのようです。。」


とそそくさと後ろに下がっていった。


「うむ⋯⋯すまんなサンマルクよ」


臣下に対して頭を下げる王。王としての行いとしては決して好ましい者ではないが、


「い、いえ!!陛下!!あ、頭をあげてください!私の勘違いですから!!」


(ありがとうございます。)


人としては大変できた人物だ。


「皆々様におかれましては今回の件で不快な思いもされた事でしょう。お詫び申し上げます。⋯⋯陛下」


「うむ、何やらレティシアに事情があるようだのぅ。ただ、儂から一つ言わさせてくれ。戦争を仕掛けてきたのは魔族からじゃ。勿論、国と国の関係じゃ、密偵やら相手国の戦力、状況の分析などは平時でもどこの国でも行っておる。

魔王ハーティストが死亡したのもその原因も風の噂で儂の耳に入っておるわ。うちのバカ息子には正確に入ってなかったようだがのぅ。」


そう言い未だ気を失っているアレクセイを見つめるアクター王。


「であるから、支援、援助は当然じゃ。我が国も積極的に支援していたんじゃよ。

ところが、ある日支援していた人々が魔族に殺された。老若男女問わず一人残さずにのぅ。。儂は何度も使者を魔族領に送ったんじゃが⋯⋯未だ帰ってくる者はおらぬ。その後も魔族側からの回答はないまま我が国民が次々と殺されてたんじゃ。儂には国民を守る義務がある。そうして今の現状じゃよ。他の国の王達も同じ事を言っておったよ。。


アレクセイは見ての通り筋肉馬鹿で都合のいいように話を解釈する馬鹿者じゃ。言葉足らずと言う範疇ではなかったが誤解を与えるような事になったのぅ。」


アクター王の発言に衝撃を受けるレティシア。首から下がるネックレスに手をやり自問する。


(この話が本当なら魔族領が多数の種族から攻められるのはわかります。。ただ、理由がわかりません。)


そんなレティシアへアクター王からの衝撃的な発言が続く


「それにな、最近になって新しい噂が入ってきておる。新たな魔王が誕生したと⋯⋯その魔王が魔族達を扇動してるのかもしれんが、あくまで噂じゃ。確証はない。」


(ま、おうっ!!!ハーティストの後継者がっ!!後継者がこの状況を作ってる可能性があると言うのですか!!ハーティストが託した魔族達を!!)


「アクター王。魔族領を調べに行く必要があります。私と各国王はハーティストに魔族達を託されました。それなのに今の状況は正反対です。今仰っていられた新魔王が居るのか居ないのかも含め、私にお任せ頂けないでしょうか。」


託された思い、ハーティストとの約束。今の現状。レティシアにとってはまさに青天の霹靂だった。だからこそ自分が確認する必要がある。そして


(新たなる魔王が元凶なら⋯⋯殺す!!)


こうして勇者レティシアは浩介の待つ魔族領へと旅にでた。


二人が邂逅する日は近い

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