魔王として転生したはいいけれど無理ゲー過ぎて心が折れそうな俺とサディスティックな勇者の異世界戦記
ふう
第1話 魔王転生
その日
世界は救われた。
長年その星に住む全ての者たちを苦しめ、各地で戦乱を巻き起こしていた魔神が倒れたのだ。
勇者 レティシア
魔王 ハーティスト
戦士王 ザビル
魔導王 キューティル
精霊王 オリジン
龍王 セシル
星に住む全種族の頂点が集まり力を合わせ何とか魔神を屠る事が出来たが、無論ただでとはいかなかった。
魔王 ハーティスト
この戦いで散っていった魔族の王。
魔神の攻撃に仲間を庇い、死んでいった。
各種族の王達は魔神討伐後に哀悼の意を表明。また、王がいなくなった魔族に出来る限りの支援を約束していたのだが
「なにっ!!またしても人族が攻め込んできただとっ!!彼奴等めっ!!魔王様がお亡くなりになられた事をいい事にっ!!」
そう、統治者がいなく、魔力量が豊富な魔族領はどの種族にとっても魅力的にうつったのだろう。
最初は支援という名目で魔族領の中心に入り込み、大使館という名目で国の主要都市部に拠点を置き、提案という名目で税の徴収や国土を買っていく。
魔族達が事の重大さに気づいた時はもう遅かった。
支援がいつのまにか支配に、援助を受ける側がする側にと立場が完全に変わってしまっていた。
この状態になれば後は攻め込み落とすだけ。
勿論、魔族達も黙って従っていた訳ではなく抗議もし、争いもした。しかし王が不在の彼らは種としてまとまる事がなかなか出来ず、争えば敗れ争えば敗れとその数が激減していった。
このままでは座して死を待つだけだと魔族達は一つの案にかける事にした。
【魔王召喚】
魔族は特別な種族で自らの王は必ず召喚で決める事になっていた。前王ハーティストも例外ではなく召喚された王だ。
もっと早く次の王を召喚すれば良かったのだが、それを決定する為の評議会が難色を示しており、この状態になるまで滞ってしまっていた。
後にわかったが実は評議会の一部が他国と裏で繋がっていた事が原因だった。
この魔王召喚で呼ばれる王の力量は呼ぶ側の想いの強さ、捧げる魔力量の多さでその強さが決まる。
前王ハーティストの際はハーティストの前の王が亡くなり、後継者をという特段珍しくもない理由で召喚されたが、その力は凄まじく魔神との戦いでは常に第一線で活躍していた。
それに対し今は種として滅亡の危機に瀕している。魔王召喚に対する思いの強さは前王ハーティストの時の比ではない。
残った魔族達はこの状況を打開できる強い王に期待していた。
そして現在
魔王城
王の居ない王座の前に1人の女性がいる。腰まで届くほどの黒髪、透き通るような白肌、意志の強い目、魅力的な身体のライン。その唇は男を惑わせ、その身体は女すら嫉妬させる。そんな美女が王座に向けて一礼し、何かを置く。
置き終わるとまた一礼し王座から下座へと向かう。そこには王間を埋めつくさんほどの魔族達が静かにその時を待っていた。
現在魔王城では魔王召喚の最終段階に入っていた。
先ほどの美女が声高々と同族へと話しかける。
「皆の者!!これより魔王召喚を行う!!」
そう言い放った瞬間
「「「「おぉおおおおっ!!!」」」」
王間が民衆の声で埋めつくされる。中には泣き出す魔族、興奮してる魔族と民衆のテンションは最高潮だ。
「私達魔族は今、恥知らずな他種族のせいで滅亡の危機に瀕している。この状況を打開する為には新たな王を召喚するしかない!!ご存知の通り魔王召喚は思いの強さ、捧げる魔力量で王の力量が決まる。思いの強さはおそらく過去最高だろう。後は捧げる魔力量で決まる!!⋯⋯皆の者!全て、魔力を全て捧げてくれっ!!」
魔力を全て捧げる事は魔族にとって死ねといっているような事だ。
その状態で争いなった場合は魔法を得意とする魔族が魔法を使えなくなる。まさに死活問題だが
「「「「おぉおおおおっ!!!」」」」
どの道、魔王召喚で失敗すれば滅亡の道なので今の魔族達には不要な問題のようだった。
「感謝するっ!!今回の召喚の媒体となると核は前王ハーティスト様の核だ!!きっとハーティスト様も助けてくれるだろうっ!!」
そう美女が言うと今までにないくらいの歓声が王間に響く。
「「「「ハーティスト!!ハーティスト!!!!!」」」」
前王ハーティストは多種族の集まりで構成されている魔族を時には力で、時には知恵でまとめ一つにした偉大なる王だった。情に厚く芯もしっかりと筋も通すその男の魅力はまさにカリスマ。そんな王の核が媒体として使われる。魔族達の期待は青天井だ。
暫くはガヤガヤと騒がしい王間だったがやがて歓声が徐々に小さくなり、完全になくなってから美女は王座に向き直り静かに目を閉じた。
「魔王召喚」
美女がそう言うと。王座の周りの六芒星が紫色に輝き出す。それと同時に王間の魔族達が立っていられないのか次々と座り込み、倒れこむ。その体からは光の線が出ていて六芒星に向かっていた。また、城の外からもその線は六芒星へと向かっており、城の内外、魔族と言う種全員でこの魔王召喚を行なっていたのだ。まさしく魔族総出の召喚。
一際大きな線が出ている美女も辛そうな顔をしているが必死に耐えていた。すると徐々に六芒星の光の色が紫色から赤、そして赤から金へと変わる。
(赤色はハーティスト様が召喚された時と同じ色っ!!金色は最上位の色!やったっ!成功した!!ハーティスト様よりお強い方が召喚される!!)
どうやら魔王召喚はその六芒星の色で召喚される魔王の力量が変わるようだ。
金色のまま六芒星が収束しようとしたその時。王座に置かれたハーティストの核が弾け飛ぶ
パリンっ!!
弾け飛んだ核は六芒星へ降り注ぎ、更に色が変化する。
金色から虹色になっていた。
(に、虹色??)
美女が困惑した瞬間。光が収束し中から現れたのは
「⋯⋯えっ、ここはどこだ?」
本作の主人公
佐伯浩介その人物だった。
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佐伯浩介
35歳、独身。小学校から大学まで一貫の男子高に入っており。卒業後は小さな村の高校で教師をしていた。勿論女性とのお付き合いはした事がない。機会は何度かあったのだが中々に相手の内に踏み込む事が出来ず友達止まりが殆どだった。
本人は外見は悪くはないと思っている。日本人だと主張している黒髪は耳の上でキッチリと切られ、トップから前髪までの髪はパーマでおしゃれに。メガネにも気を使い細縁のインテリメガネ。目は大きくクリッと二重。身体も男子高時代から一貫して行っていた運動のおかげで細マッチョ。学問を教えているときは基本白衣が浩介のユニホームだがそれも一部女生徒には人気があると噂で聞いた事があった。
職業上対外的には私、僕。親しい友人などには俺と言葉使いも使い分けている。
性格は内弁慶。なかなか最初の一言を強く言えないが、言うとそこからはガンガンと言うようになる。
親しい友人からは
「最初は大人しいやつだと思っていたが、人は第一印象によらないとお前に教えられたよ。」
と言われるほどだ。
また、浩介は生粋のゲーム好きでジャンルはスマホゲーからエロゲーまで、ハードウェアは全てコンプリートしている徹底ぶりで休日は家に篭ってゲーム三昧の日々。ここではない世界を擬似的だが体験できるゲームは浩介にとって最高の娯楽だ。
そんな浩介は今日も高校での最終授業を終え、家に帰る準備をしていた。職員室にいる先輩、後輩教員に挨拶をし鞄を持ち職員室を出るともうすっかり日が消えていた。
(19時か、少しだけ遅くなっちゃったな。)
何時もより少し残業していたようだ。生徒のいない学校を出るとそこには山、山、山、それに満天の星空。浩介がいる場所は都会からかなり離れており、いわゆる田舎と呼ばれる地域だった。都会暮らしをしていた浩介にとって、色々と生活に不便はあったが、住めば都。今ではこの星空を見る事ができる事に感謝さえしている。
浩介は学校から自宅までの帰り道、この満天の星空を見上げながら帰る事が日課になっていた。今日もいつもとおり空を見上げていると
(ぐっ!!頭が、頭が痛い。)
いきなり今まで襲われたことのないような頭痛、バッドで頭を殴られたような痛みに、何とか数歩あるき道の脇に移動し蹲る浩介。
そして頭痛とともに吐き気、目眩もしてきた。
(⋯⋯この症状は蜘蛛膜下出血か?)
本で読んだ事がある症状に酷似しているなと思う浩介だが、そこで意識を手放した。近くに人がいる都会なら何だかんだで他人が浩介を見つけ、救急車で搬送されという流れで助かった可能性もあったが、ここは田舎。浩介以外に人影はなく、満天の星空が浩介を照らし続けていた。
翌朝、学校へ登校してきた男子学生が冷たくなっている浩介を発見。救急搬送されたが既に息はしていなかった。享年35歳死因は浩介の予想通り蜘蛛膜下出血。若すぎる死だった。
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「う、う~ん」
浩介が目を開けるとそこは最後に見た田舎の道とはまるで違う光景が広がっていた。
浩介の目の前には魔族の群れ。生まれてこのかた人の形をしていない生物は動物しか見た事がない浩介にとって、その姿はまさに衝撃的だ。
(あぁ夢か)
そう思うのが普通だろう。浩介は目の前に広がる妙にリアルな見たことの無い生物たちをまじまじと見回す。浩介の視線の先を魔族達もおうので浩介が右を向いたら左へ、左を向いたら右へと側から見るとシュールな光景がそこにあった。
(しかし、妙にリアルだな。なんていうか夢じゃ無いみたいだ。⋯⋯なんてな!これが夢じゃなかったら地球終わるわ)
そう、馬鹿げた事だと思いつつも頬に手をやりつねってみる。するとズキンっと頬に痛みが走った。
(い、痛い⋯⋯えっ?夢じゃ無いの!?⋯⋯えっ?えっ?)
「⋯⋯えっ、どこだここ?」
浩介がそう発すると代表格だろうか先ほどの美女がゆっくりと浩介の方へ歩み寄り、数メートル前で止まる。その顔は喜びの感情を一生懸命外に出さないように外に出さないようにと耐えているような顔だった。
そして魅惑的な唇が開かれる。
「王、私たちの新しい王よ。どうかお名前をお教え頂いても宜しいでしょうか。」
床に片膝をつけ上目づかいで見つめてくる。その姿の破壊力は浩介にとって抜群だった。
(物凄く綺麗な人だなぁ⋯⋯)
ポーっと魅了されてしまう浩介。見つめ返すだけで言葉が出ていない。
「⋯⋯」
何秒程経っただろうが、その間浩介が一言も発しない事に、また浩介からガン見されている事にソワソワと、美女は段々と不安そうな表情を見せてくる。しかしその表情も美しい。
(⋯⋯綺麗だ)
もう浩介はすっかり美女に魅了されてしまっていた。それも無理はない。35歳男子一貫校、童貞。そんな浩介が太刀打ちできる相手ではなかった。
「⋯⋯あの⋯⋯王??」
困惑する美女の声でやっとの事浩介は今の状況が頭に入ってきた。
(名前、名前を聞かれているんだよな。)
「浩介、浩介です。」
そう浩介が告げると美女は満点天の笑顔で
「⋯⋯浩介様」
そう確かめるように反復すると王間を振り返り声高々と同族に告げた。
「皆の者っ!!我らが新たな王の名は浩介っ!!浩介様と仰るっ!!いと尊き御方の名をその身に刻みこめっ!!そして永遠の忠誠をっ!!」
(ん??んん?状況が全く分からない、、王?)
浩介がそう考えた瞬間、座り込んでいた魔族達は互いに支えあいながら、倒れ込んでいた魔族達はせめて顔だけはと必死に上げ。
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぉぉぉぉぉぉぉおっ!!!」」」
新たなる王を祝福するこの日一番の歓声を上げたのだった。
浩介はまだ自分の状況がわかっていない。名前は言ったはいいが、その後は何をすればいいのか分からず、日本人特有の両腕を前に組み畏まった様子で次の展開を待っていた。
そんな浩介の行動を美女は過敏に察し
「皆の者!浩介様は召喚されたばかりでまだ、ご自身の状況を把握できてないっ!事前に伝えた通り、これから状況を説明をさせていただくっ!。皆には改めて後日戴冠の場にて謁見をと考えている。今日はそういう訳で解散して欲しい。どうか容赦してくれっ!!」
と前々から決まってたであろうが、何もわからない浩介に配慮してくれた様だ。
そう美女が言うと姿形が様々な魔族達から声が飛ぶ。
獅子の顔をした男が
「フェリス様っ!!それはわかってるが今は皆疲れて立てやしないっ!浩介様に無様な姿を見せて申し訳ねぇが、ちぃと休ませてくれ。」
魅惑的なボディの赤い髪の女が
「申し訳ございません。フェリス様私も同じでございます。」
下半身が蜘蛛の姿をしている女が
「妾も少々疲れもうた。」
と浩介には何故皆が疲れているのかわからなかったが、少しだけ余裕が出てきた浩介。改めて王間を見回すと例外なく皆が皆な疲労困憊状態だと見てわかる程だ。そんな状態を見せられればお人良しの浩介の行動は決まっている。
フェリスと呼ばれる美女に恐る恐る
「あのぅ、何だか皆さんものすごい疲れている様ですから私への説明は後回しでいいのでゆっくり休ませてあげて下さい。」
そう伝えると美女は、雷に撃たれた様な衝撃を受けた顔をし、ワナワナと震え始めた。そして片膝をまた床につき
「色々ご不安でしょうに、御身の事より先に私どもの事をそこまで考えて下さるなんて⋯⋯その慈悲深さにこのフェリス言葉も出ません。」
(お、おおげさな人だな、えとフェリスさんって言うみたいだな。)
過剰とも言える反応のフェリスに、浩介はタジタジだ。
日本では平の先生だった浩介はこんなに自分が持ち上げられる経験はされた事がなく、対応に苦慮していたが、フェリスはいつまで経っても顔を上げようとしない。
(⋯⋯状況はまだわからないけど、今までの事から多分俺は今この中で一番?かはわからないけど偉い立場にあるようだ。いる場所からしてどこかの王城のようだけど⋯⋯なかなか話が進まないし、よしっ!)
そんなフェリスへ浩介から話しかける。
「フェリスさん??でいいのかな。まだ王間にいる皆さんにさっき私が言ったこと伝わってないみたいです。伝えてあげて下さい。」
そう伝えた瞬間、ガタガタと震え出し
「こ、こ、こ、こぅ、浩介様がっ!私の名前をっ!!!キャーーー!!」
(え、、キャーーー???)
フェリスが膝をついた状態から跳ね起きジャンプして喜びだした。その行動はまるで大好きなアイドルに会えた時のファンの様だ。
浩介はあまりにも先程までの凛とした対応から変わったフェリスに目を丸くし驚く、するとそんな浩介に気がついたのか
頬を赤く染めるフェリス。
「こ、こほん⋯⋯皆の者っ!!我らが王、浩介様が自分への説明は後でよい、ゆっくりと休めと仰って下さっている!!ご自身も不安だろうに⋯⋯くっなんと言う寛大なるお方っ!慈悲深いお方だろう!これは王命だっ!!ゆっくり休めっ!!」
流石にここまで来れば浩介も薄々自分の置かれている立場がわかってくる。
(王命っ??だいたい自分の立場がわかってきたけど⋯⋯フェリスさんの内容から予測すると、俺が王って事だよな?なんで??人違いか??その辺りの理由はサッパリわからないな。)
フェリスがそう言うと王間に笑い声が漏れる。最初はくすくすと声が聞こえるくらいだったが、その声は徐々に大きくなり最終的には王間に全体が笑い声に溢れていった。
少し回復してきたのだろうか、先ほどの獅子の顔を持つ男が一際大きな声で
「フェリス様っ!!もうメッキが剥がれてますぜっ!!だから俺はいったんですよ。いつも通りのフェリス様でいいんじゃないですかって!!早速慣れていない言葉や態度でボロが出ちまった」
そういうと周りの魔族達もより一層笑い出す。
一方笑いの中心のフェリスだが、顔を物凄く赤く染めプルプルと震え出す。どうやら羞恥で身体を震わせている様だ。
「⋯⋯う、うるさいですっ!!!私だって慣れない言葉と態度頑張ってるにっ!!それをこ、浩介様の前で皆して笑ってっ!!!あれですよっ!これはイジメってやつですっ!!」
手足でジェスチャーをし大袈裟に発言するフェリス。王間にいる魔族達はその姿をまるで娘を見るかの様な表情で見ている。異形の者たちのその姿を浩介はみて驚いていた。
(驚いた。都会にいる人間より寧ろ彼らの方が人情味があるじゃないか。あの顔、さっきの獅子顔の男なんかニヤついていてあれじゃバカ親そのものだ。フェリスさんはみんなに愛されているんだなぁ、、姿形が人とは違いすぎて少し怖かったけど見た目で彼らを判断するのはやめよう、、よし)
そう思い立つと行動が早い浩介。未だ笑われているフェリス、王間にいる魔族達全員に聞こえるくらいに声を上げ
「⋯⋯まだ状況はわかりませんが初めまして、佐伯浩介といいます。皆さんにとって私が何なのか、何故ここにいるのか分からないことだらけです。フェリスさんは後で説明をしてくれるみたいですが、出来るなら皆さんの前で話を伺いたいと思ってます。どうだろうフェリスさん?」
さすが職業が先生の浩介。まるで生徒に言い聞かせるかのような話の作りで場を支配する。そのいきなりの浩介の発言にフェリスを含めた魔族がピタリと声を止め、聞いていた。
(あれ?反応がないな、まずったかな??)
浩介がそう不安になった瞬間っ!!
「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
異形の者達の歓声が上がる。
フェリスを見てみると浩介がそんな事を言うとは思っていなかったんだろう。目を丸くしながらも浩介の言葉と同族達の盛り上がる今の状況だとここで説明した方がいいと判断した様だ。
「思慮深いご対応ありがとうございます。」
(あ、まだ、そっちのキャラでやるんだ。)
どうやら元の美女キャラで進行していく様だ。
そうしてフェリスは語り出した。
魔神と呼ばれる者を力を合わせ滅したこと。その際の傷が原因で魔王が亡くなったこと。そして今の魔族の領土の状態。種としての存続をかけた状況。
そして魔王として召還された浩介の話。
「私共の身勝手な事情で浩介様には大変申し訳なく思っておりますが、どうか私共を救ってくれませんでしょうか。この通りです。」
フェリスがそういい頭を下げる、するとそれに魔族達が習う。姿形それぞれの異形の者が一斉にこうべを垂れるその光景で、今の状況の悪さを見て取れる。
そんな中、全て聞き終わった浩介は、自分の置かれた立場、魔族領の状況などを把握して単純に驚いていた。
(かなりヘビーな内容だ。フェリスさんの話に隠されていることはあるかもしれないけど、嘘は無いだろう。こんな多数の同族の前で嘘を突き通せる様な性格じゃなさそうだし、何より真摯に説明をしてくれた。この魔族と呼ばれる種族の状況は把握できたし、内容から察するに種としての滅亡か否かの状況のようだ、ただ)
「あっ、いえ、どうか頭をあげて下さいっ!今の説明を聞いて驚いてますが状況の把握は出来ました。ただ、二点お伝えしないといけない事と教えていただきたい事があります。
まず、召還された私ですが、その多種族と呼ばれる方達の進行を食い止められる力はないです。腕っ節も強いわけではありませんし。
また、元の世界ではただの教師でしたので、期待して頂いて申し訳ございませんが、魔族をまとめるとかも自信がありません。ましてや私は皆さんの領土を奪おうとしている種族の一つ人族ですよ??そんな私に皆さんが素直にまとまるとは考えにくいです。
後、最後に質問なのですが、私がこの話を拒否しだ場合、元の世界にもどれるのでしょうか?
」
そうフェリスの説明を聞いた後に浩介は自分が求められている役割を理解した。ただ、伝えた通り自分にそんな大それた事は出来る筈はないし、また非情だが義理もない。元の世界に帰れるなら帰りたかった。
フェリスは浩介の質問を想定していた様で頷き、回答する。
「はい、元の世界に戻る事は出来ますが⋯⋯ただ、浩介様。大変言いづらい事ですが魔王召喚で召喚できる対象は、その、亡くなられた方のみです。浩介様は⋯⋯お亡くなりになられているはずです。」
「えっ??」
まさかの展開に唖然とする浩介。今の話が本当ならもどる=戻り場所はなく、それは確かな死を受け入れることになる。
(まてまてまてっ!!最後の記憶は⋯⋯激しい頭痛だっ!!そのまま死んじゃったのか俺。いやっ!フェリスさんが嘘を言っている事も考えられるし、、考えるんだ俺!)
1 フェリスの言葉を信じずに帰還する
2 フェリスの言葉を信じる
3 こっちの世界で逃げ出す
1は博打すぎる。本当だったらもう死んでいるから、帰っても無だ。
仮にフェリスの言葉が嘘だったら問題はないけど、あの頭痛、大きな不安材料だ。ここは信じる方向で行こう。
2を選ぶのが賢明な判断だろうが、実際魔族は種としての滅亡の危機にある。その王に祭り上げられるんだ。確実に首を狙われる。⋯⋯今の情報だけでは展開がバッドエンドほぼ確定
3は、、
辺りを見回す浩介。皆が皆息も絶え絶えで苦しそうだが浩介の事をじっと見ている。その目を見ると浩介がどんな決断をしても避難しないだろうと感じる。
(仮にここで逃げ出してもこの世界を何も知らない俺は遅かれ早かれ野垂れ死ぬだろう。それに、こんなんになってまで必要としてくれる彼らを見捨てて逃げる事は⋯⋯出来ないよなぁ。)
答えは決まった。
「⋯⋯わかりました。どこまで出来るかわかりませんが、やれる事はやってみます。皆さんとは種族も違いますが精一杯頑張るつもりです。」
そういうとさっきの魔族達のテンションを考えると、また歓声が飛んでくると思っていた浩介だが飛んでこない。フェリスの方を見ると不思議そうな顔押している。またその他魔族も不思議そうだ。
「あ、あの?何かおかしな事言いましたか私??」
慌てて聞く浩介だがフェリスが頷き
「浩介様、さっきから人族人族と仰られてますが、どう見ても魔族ですよ??その額に生えるご立派な5本のツノ。ツノの数が魔王の強さを表すと言われておりまして、5本ツノの魔王様は過去現れたことがないです。ハーティスト様でさえ3本ツノでした。」
そう言われて無意識に額を触る浩介。その手にはコツンと今までに感じたことのない硬い感触がした。
魔族達の姿形にも驚いたが、やはり人間自分の身に起きた事の方が余程衝撃を受ける。
「え⋯⋯うわっ!なんだこれっ!!硬い⋯⋯フェっフェリスさんっ!!申し訳ないですが鏡っ!鏡ありますか??!!」
浩介の驚き様に少しビックリしたフェリスだが、王の最初の頼みだと頬を緩めながら
「はいっ!!浩介様⋯⋯鏡をここへっ!!」
そう伝えると、直後。
フェリスの影がユラユラと揺れ、声が聞こえてくる。
【使い馳せました】
その声は感情が一切篭ってなく、聞くものにとっては不快に思うような低い声だった。声が発する先のフェリスの影から姿見の鏡とその脇からオカッパ頭の少女がゆっくりと顔を出す。
「ありがとうカエデ」
カエデと呼ばれた少女はフェリスのお礼にコクンと首を縦に一度振り、浩介へも礼をしてまた影へと消えていく。
フェリスはカエデが残していった鏡を浩介に向ける。
「どうぞ、御身を確認ください。」
そう言われて鏡を見る浩介。全身を映すその姿見に映るのは、慣れ親しんだボロボロの白衣、メガネ、顔、そして言われた通りの5本ツノが額から飛び出ていた。
鏡越しに自分のツノを触る浩介。
(なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!ツノが生えてるっ!って反応が普通何だろうけど今さっきの反応でフェリスさんが少し驚いていたな。不覚にも素が出てしまいそうだったから少し自重しないと。)
「、、、うん、はい。わかりました。ありがとうございます。」
なんとか本音を出さないで対外的な対応に努める浩介。
それは浩介の処方術。浩介の人生で培ってきた生き方だ。
(驚いたけど、仮に地球での俺が死んでいるのなら、今の俺は人間じゃないって事だよな?、、、その過程があっていれば不思議ではないか、、)
浩介はゆっくり深呼吸をし
「それでは具体的なその世界の情勢をお聞かせください。まずはキチンと知らないといけませんからね。今の状況を」
そうフェリスにむかって伝えるのだった。
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