声劇台本:ワタシノセカイ。

哀色

ワタシノセカイ。

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【登場人物】


♀{柊(ひいらぎ)}25、廃墟好き。男勝り。不思議な雰囲気がある。


♂{透(とおる)}25、柊の友人。無理やり廃墟に連れてこられた。


♀{空}謎の少女。何かを隠しているようだが…。

***********************



空「ワタシノセカイは孤独な世界…もしも願いが叶うなら…”私を描(えが)いて終わりたい…。”」


・・・


柊「ふむ、ここが例の廃墟か。聞いていた通り近寄りがたい…しかし不思議と惹かれる雰囲気があるな。」


透「確か【絵画館】なんて呼ばれてる廃墟だよな。」


柊「む、よく知ってるじゃないか。その通り、この廃墟には沢山の絵画が飾られていて、噂ではその絵が動くとか動かないとか…。」


透「散々聞いたよ…。んで、どうやって入るんだ?外門閉まってるぞ?」


柊「ふふ、抜かりは無いさ。下調べで人一人通れる穴が塀の一部に空いていることは確認済みさ!さぁ行こう!すぐ行こう!」


透「無駄に準備良いのな…ってか早っ!置いてくなよ!」


・・・・・


柊「むむむ…。」


透「おい、あったのか?」


柊「(年寄り風に)あったにはあったが…レンガが積まれておる。わしの腰にゃ響くでのぅ、悪いがお前さんに任せても良いかの?」


透「…ばぁさんや、家帰って寝てた方がええんじゃないかのぅ?」


柊「ふざけてないで、早くどかして?」


透「…仰せのままに…。」



・・・・・



柊「終わった?」


透「お疲れ様とか言えねぇのか…。」


柊「なぁに、軽いじょーだんさ✩ありがとさん!んじゃ、行こうか。」


透「ちょっ、ちょっと待て!」


柊「んー?」


透「…本当に入るのか?なんかこう、不気味じゃねぇか?」


柊「おやおやおやぁ?ここに来て怖気づいたのかねぇ?」


透「ちげぇよ!…ただ、ちょっと不安というか?なんか、そんな…感じ?」


柊「ふぅむ…ま、不安なら私も無理強いはしないよ。二人が一人になるだけさ。」


透「………あー、わかったよ!ついて行きますついて行きます!」


柊「君は面白いくらい単純だな♪」


透「んなっ!」


柊「さぁ!いざゆかん!」



・・・・・


空「一人…二人…人が来る…あの人たちは良い人?それとも……悪い人?」


・・・・・


柊「たのもー!」


透「道場破りじゃねぇんだから…それに、廃墟にゃ誰もいないだろ。」


柊「む、いいかね透君。人間、現実ばかり見ていても面白くないのだよ。」


透「…はぁ?」


柊「そうだなぁ…君もたまには馬鹿げたことをしてみると良い。楽しいゾ✩」


透「…さっぱり分からん。」


柊「ふふ、その内分かるさ♪ さて!とことん探検だ!」



・・・・・



透「なぁ。」


柊「なんだね?」


透「ここって【絵画館】て呼ばれてるんだよな?」


柊「あぁ、そのはずだね。」


透「どの部屋にも絵が1つも見つからないのはどういうことだ?」


柊「奇遇だな、私もちょうど疑問に思っていたところだ。」


透「撤去されちまったのか…。」


柊「いや、しかしまだ入ってない部屋があっただろう?二階の奥…確か{子供部屋}と書かれていたかな?そこだけ鍵がかかっていたが…。」


透「確かに鍵がかかってるのは気になるが、そもそも子供部屋に絵なんて飾るか?」


柊「それは分からんが…。」


空「あなた達は良い人?それとも悪い人?」


透・柊「!?」


空「こんにちは。」


柊・透「こ…こんにちはぁ。」(愛想笑い)


柊「(ひそひそ)……透君、さっきまであんな子いたかね?」


透「(ひそひそ)い、いやぁ見なかったと思うが…隠れてたのかなぁ…は、はは。」


空「あなた達はどうしてここに来たの?」


柊「…あー…(咳払い)私たちは【絵画館】と呼ばれる廃墟を見に来ただけだ。君は?…まさかとは思うがここの家の者じゃないだろう?」


透「(ひそひそ)この家の人達って確か…。」


柊「(ひそひそ)あぁ、全員亡くなっている。庭に墓があっただろう?この絵画館:天海(あまみ)家の墓だ。」


空「私は空。”天海 空”。この家の一人娘。」


透「なっ!?」


柊「……そうか、じゃあ空くんと呼ぼう。私は柊だ。好きに読んでくれて良い。」


透「…お、俺は透だ。同じく好きに呼んでくれて構わない…。」


空「柊に…透…。あなた達は良い人?それとも悪い人?」


柊「ふぅむ…良い人…とは言えないか。一応不法侵入にはなるからな…。」


透「それ分かってて廃墟入りまくってるんじゃ良いとは言えないな…まぁ信用してもらえるかは分からないが、悪意のある人間じゃねぇよ。」


空「…良かった。」


透「(ひそひそ)おい、どういうことだ?天海家は全員亡くなったって…ガセか?」


柊「(ひそひそ)いや、墓にも{天海 空}の名はあった。言い切ることはできないが、もしかするとまさしく”現実的でない”ことに直面しているのかもしれない。」


透「(ひそひそ)現実的でないことって……まさか!”ゆうれ…」


柊「(被せて)空くん、私たちが”良い人”だとして、何が”良かった”んだい?」


空「…”良い人”なら私のお願いを聞いてくれるかもしれないから。」


柊「お願い?」


空「そう。”私の世界”を思い出させて欲しいの。」


透「…?どういうことだ?」


空「…私は外の世界を知らない。唯一知っているのはこの家だけ。私の世界はこの家だけ。」


柊「(ひそひそ)天海の一人娘は病弱で、ろくに外にも出られなかったと聞く。」


透「なるほど…それで?思い出すってのは?」


空「そのままの意味。私は全てを忘れてしまった。楽しいこと、嬉しいこと…そして、哀しいこと。」


柊「…私たちがもし、君の言う”悪い人”で、協力をするフリをして家をめちゃくちゃにしたら…どうする?」


空「………私にはどうすることもできない。ただ…私一人が哀しいだけ。」


透「…っ!」


柊「くっ…ふふふ…あははっ!君は中々見込みがあるねぇ!」


空「…?」


柊「ふふふ、いや、すまなかった。あまりにも誰かさんに刺さる言葉を使うものだからついw。大丈夫、私も協力するよ。目の前で哀しむ者を放って置けるほど鬼じゃないさ。」


空「っ!本当?」


柊「あぁ。」


透「…おい、俺は馬鹿にされたのか?」


柊「ん?キミの良いところだろ?馬鹿にはしてないさ。」


透「そ、そうか?」


空「あの…透…柊。」


透「ん?」


柊「なんだい?」


空「あ……っ…なんでも…ない…。」


透「?」


柊「ふふ、伝えたい言葉があるならゆっくり思い出しなさい。」


空「…うん。」


柊「さて、協力するのは良いが、どうやって思い出させようか。」


透「一緒にこの館を回ってみれば何か少しでも思い出せたりしないか?」


空「…思い出せるかもしれない。」


柊「だいぶ大胆な考え方じゃないか。まぁ試してみる価値はあるかもしれないな。」


透「よし、そうと決まれば早速回ってみるか。」


空「…はい。」



・・・・・。



空「…思い出せなかった…。」


透「だぁぁぁ!なんでだ!」


柊「よく考えてみろ。この子はずっとこの屋敷にいるんだぞ?回っただけで思い出せるなら元より問題にはならない。」


透「…お前、さっき試してみる価値があるとか言ってただろ…。」


柊「あぁ、彼女がいることで私たちに気付けなかった情報が出てくるかも知れないと思ったんでな。言うまでもなく収穫は0だ。」


透「お前って本当良い性格してるよな…。」


柊「お褒めにあずかり光栄だよ。」


透「褒めてねぇ。」


空「…何もわからなくてごめん…。」


透「あー、謝るな謝るな…好きでやってるんだ、気にしなくていい。…でも、そうだな…何か少しでも思い出の手がかりがあれば良いんだが。何か無いか?」


空「…分からない…。」


透「……(ひそひそ)詰んでないか?」


柊「そうか?手がかりで言うなら1つあるだろう?」


透「ん?そんなんあったか?」


柊「キミという人間は…この館には特徴があるだろう?”絵画館”と呼ばれる所以(ゆえん)だよ。」


透「…”絵”のことか?…つってもなにも無かったじゃねぇか。」


柊「じゃあそのことを聞けば良いだろう。いきなり答えを見つけられるわけが無いじゃないか。」


透「くっ、言いたい放題だな…。」


柊「心を開いてる証さ✩」


透「さいですか…なぁ、空。ちょっと聞きたいんだが、この館には元から絵が無かったのか?」


空「…絵はあった…はず…だけど。」


透「だけど?」


空「どんな絵だったかも覚えてないです。」


柊「……。」


透「ん~、どうすりゃ良いんだ…。」


柊「覚えてないならあまり思い入れの無い絵だったんだねぇ。」


空「そんなことっ!」


柊「(被せて)どうかなぁ…覚えてないんだろう?その絵のこと。それなのに”そんなことない”なんて言い切れるのかい?」


空「っ…それは…。」


透「おい!確かに何も分からないとはいえそんな言い方することないだろ!この子だって忘れたくて忘れたわけじゃ…。」


柊「(被せて)本当に単純だな君は。」


透「んなっ!?」


柊「…空くん、さっきから気になっていたんだ。キミは本当に何も覚えていないのかい?」


空「…覚えて…ない…。」


透「何言ってんだ今更…じゃあ何か?空は覚えているけど思い出せないフリをしてるとでも言いたいのか?」


柊「やっとその線を考えついたかね?…私もそう考えた。しかしね、それはありえないんだよ。」


透「どういうことだ。」


柊「キミは事あるごとに”分からない””覚えてない”という言葉を使ったね。それは全て覚えているとしたら情報を与えるつもりが無いということ。自ら悲劇のヒロインを演じて私たちに探偵ごっこをさせたいなら、ヒントを用意しておいて少しずつでも答えに導くのが定石。つまりは意味が無いんだよ。」


透「…なら!…本当に覚えてないだけなんじゃないか?」


柊「それは最初から”ありえない”。」


透「…ありえない?」


柊「あぁ、ありえない。言っただろう?情報が無さすぎる。」


空「それは!…覚えてないから…。」


柊「聞き飽きたよ。”ワタシノセカイ”のことを全て忘れているキミは、言い換えるならば”何を忘れている”のかも覚えていないということだ。そして信用できるかも怪しい見ず知らずの私たちにわざわざ頼んだ。それも一つの思い出じゃなく”全ての思い出を”だ。”ずっとこの家にいるにも関わらず何も覚えていない君に私たちが思い出させる”なんて不可能に等しいと思わないかい?」


空「……。」


柊「一応聞いておこう。キミはこの屋敷のことをどこまで覚えている?」


空「…私が天海 空であること…絵がたくさんあったこと…それだけ。」


柊「キミの両親の名前を思い出せるかい?顔は?性格は?」


空「…。」


柊「話にならないな。キミは生前のことを何も語れない。”思い出せない”んじゃない。キミは”知らない”んだ。」


透「…それって…つまり。」


柊「彼女は”天海 空”じゃない。”別の何者か”だ。」


空「…。」


柊「反論があるなら言ってくれ。実際の所、”別の何者か”だとしてもこんなことをする意図が読み取れない限り、これはただの推測に過ぎない。キミが何かを隠していたところで今更驚きはしないし、役に立てることがあるなら協力はする。」


空「……気づかれていたんですね…確かに私は”天海 空”本人ではないです…。」


柊「…。」


空「私は天海 空どころか、この屋敷に何の思い出もない。ただひたすらに何も無い時間を過ごしてきた。 当初は屋敷にたくさんの仲間がいたんですよ?…それでも、時間が経つにつれ一人、二人といなくなり、今では私一人だけ。消えたくなかった私は自ら部屋を閉ざしました。」


透「キミは、一体…。」


空「…ふふっ、今はまだ教えてあげません。」


透「…。」


空「…意図ですか。そうですね、「”思い出が欲しかった。”」ですかね。ただ純粋に寂しかったんですよ。…仲間は喋らない。家には誰もいない。たまに人が来ると仲間が消えていく。」


柊「…まるでなぞかけだな。」


空「ふふっ、それも良いですね。あなたに全てを解かれた時は少し怖かったですが…それでも内心ワクワクしていた。私の存在が認められている気がして嬉しかった。 これは最後の”問題”です。この問題を出して私は消えるとしましょう。」


透「…消えるって、どういうことだ?」


空「そのままの意味ですよ。 大丈夫、存在が無くなるわけじゃありません。またここに来れば、もしかしたら会えるかもしれません。」


柊「そうか…ではまた会う時にでも答え合わせをするとしよう。」


空「……ふふ、あなたは本当に不思議な人だ。 では、また会う時を楽しみにしておきましょう。」


柊「あぁ。」


空「柊さん、透さん、ありがとうございました。 これが私からの最後の問題です。」






空「(深呼吸)…”私の正体はなんでしょう”」




・・・・・




柊「ふふ、去り際に鍵を置いていくか。どこまでも甘いやつだ。」


透「{子供部屋の鍵}だな。そこに答えがあるのか…。」


柊「だろうな…。今回のはヒントがありすぎて問題になるかも怪しいところだが…もしその答えが合っているならば…それ以上面白いことはない。」


透「”現実ばかり見ていても面白くない”…ね。」


柊「理解してくれたかね?」


透「あぁ、身をもって体験したからな。」


柊「そうだな、これだから馬鹿げた話はやめられない。」




柊「さて…一足先の答え合わせといこうか。」






-END-









解けない方へのなぞかけヒント

{私を描いて終わりたい。}

{ワタシノセカイはこの屋敷。}

{当初、屋敷にたくさんいた仲間たちは次第に数が減り、いなくなった。}

{仲間は話すことができなかった。}

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声劇台本:ワタシノセカイ。 哀色 @ai-ro

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