白崎さんの溺愛
みららぐ
白崎さんの溺愛
「っ…大丈夫!?」
「え、」
気が付いたら、放課後のグランドで誰かに押されていて。
派手に転んでしまったその瞬間。
膝の痛みに顔を歪ませると、その時上からそんな声が降って来た。
「…矢島くん」
「立てる?」
「ん…平気」
彼の名前は、矢島竜くん。
同じクラスで、普段は明るくて友達も多い現役サッカー部員。
だけど特別モテるわけでもなく、イケメン!っていうほどでもない…普通のクラスメイトだった。
この日、までは。
「保健室行く?」
「うん。でも、独りで平気だから」
「…や、一緒に行くよ。すげー痛そうだし、それ」
彼は、今までまともに会話すらしたことがない私にそう言うと。
本当に心配そうにしながら、あたしを連れてグランドを後にしていく。
何で、私が今日、ここに来ていたのかと言うと。
他の人の、応援。
もう別れてしまった、彼の。
元カレの、一ノ瀬くんは…私の愛が重いと。
一ノ瀬くんから、告白してきたくせに…一方的に、そう言ってフラれて。
でも、諦めの悪い私は…今日も放課後に、こうやってこっそり…。
一ノ瀬くんは、サッカー部のエースだから。
そうしたら、それに気が付いた他の女子達に…
『別れたくせに何で来てんの?』
『ウッザ!』
『嫌われてんだからさっさと諦めろよ』
なんて、口々にそう言われて。
思わずうつ向いたその瞬間。
その女子達のうちの誰かに、肩を押されて…力なく、派手に転んだ。と言うわけだ。
だけど、その時に偶然近くを通りかかった矢島くんがそれに気が付いて、手を差し伸べてくれて…
「あのっ…いいの?」
「え、何が?」
「部活。途中だったんじゃないの?」
「…あー……ま、いんじゃん?」
元々ダルかったし。
彼はそう言うと、私の心配をよそにニッコリと微笑んで。
生徒玄関から再び校内へと入っていく。
一ノ瀬くんは、凄くイケメンで…モテるタイプだったけれど。
この矢島くんは、本当にそういうわけでもなく。
いや、だからといってブサイクではないんだけど。
とにかく一ノ瀬くんが、女子達に人気…すぎたから。
矢島くんって。
こんなに笑顔が可愛い、なんて。
今までちっとも知らなかった。
だけど、ここでまだ彼の魅力にハマるわけでもなく。
ようやく到着した保健室。
ノックも無くそのドアを開けると、先生はいなくて。
「え、あれ…いねぇじゃん」
「まぁ…絆創膏だけもらっとくよ」
「うん…あ、じゃあちょっと待ってて」
私が薬品棚に近寄ろうとすると、その前に矢島くんがそう言って、「白崎さんは座ってて」とあたしを椅子に座らせる。
ほんの少しの間待っていると、矢島くんは薬品棚から絆創膏やら消毒液やらガーゼやらを持ってきて、あたしの前に座って言った。
「消毒してあげる」
「え、いいよ自分でやるからっ」
「いいのいいの。ほら、こうやって時間潰すのすげー大事」
「…」
…なんだ、そういうことか。
どうやら彼は部活が怠くて、わざとこうやって時間を潰そうとしているらしい。
だけど。
「…あ、待って。その前に傷口洗ったほうがいいんだっけ」
「そだね。でもいいんじゃない?私は平気だよ」
「や、それダメだろ!ばい菌入る!」
「!」
彼は、意外と真面目なところもあるのか。
私がそう言うと、頑なにそう言って、廊下に繋がるドアとは真逆のドア。
外に繋がる方のドアを開けて、一旦私に足を軽く洗わせた。
この保健室内にはドアが二つあって、外に繋がる方の入り口を出たところには、すぐ傍に水道が備えられている。
「っ、つめた」
「…まだ血止まってないね。痛そう」
「痛いし冷たいし」
…何より今は冬だ。
雪は降っていないし空は晴れてはいるものの、水は本当に冷たい。
それでも流し終えると、タオルを用意してくれていた矢島くんからそれを受け取って、私は再び保健室の中に入って、血が止まったあと矢島くんに傷口を消毒してもらった。
「…痛い」
「ちょ、我慢して」
「もっと優しくしてくんない?」
「人を手当するとか初めてなんだよ俺」
矢島くんはそう言うと、やがて私の足の傷口から目を逸らして。
終わったよ、と一息つく。
「…ありがと」
「他は?怪我してない?」
「うん、平気」
私がそう言うと、矢島くんが絆創膏や消毒液を元あった場所に戻す。
なんか、ずっと寂しい気持ちでいっぱいだったけど。
今日は矢島くんのお陰で、少しずつではあるけど元気が出てきた気がする。
そう思って、再度、矢島くんにお礼を言おうとしたら…
「っつかさ……何か、押されてたみたいだけど…さっき」
「え、」
薬品棚に、絆創膏等を仕舞ったあと。
ふいに口を開いて、矢島くんが振り向くから。
その声に、矢島くんの方を見ると。
目が合った矢島くんが、少し心配そうに、言った。
「他の女子に、グランドで。何が…あったの?」
「!」
そう問いかけて、じっと私を見つめて。
でも一方、そう聞かれた私は…さっきのことを思い出して。
思わずまた、下を向く。
『お前、重い』
別れる直前に言われた、一ノ瀬くんからのそんな言葉も脳裏を過って。
「……さっき、グランドで…」
だけど。
やがて私が口を開いて、話そうとすると…
「あ…わ、わかった!」
「え、」
「わかったよ、なんとなく…わかった」
「…でも、」
「本当は話したくないことも…わかった」
そう言って、ごめんと。
ストレートに聞いてしまったことを謝る矢島くん。
その言葉に、私は思わずまた下を向いて…目を逸らすと。
そんな私の様子を見て、少し慌てたように矢島くんが言った。
「げっ…元気出せって!」
「え、」
「何があったか知らないけど、元気出せよ。人生、泣きたくても笑ってた方が得だろ?」
「…、」
「す、少なくとも、俺はそう思うよ」
矢島くんは、不器用にそう言って、また私に笑顔を向ける。
さっきも思った、今までは気が付かなかった人懐っこいかわいい笑顔。
その笑顔に、思わず私が見つめていると…
「……つ、つか…」
「…?」
「そんなに…見つめないでくんない?」
「!…あ、ごめん」
矢島くんは、あんまり女子に慣れていないようで。
この空間に耐え切れなくなったのか。
思わず少しの間見つめ合ってしまっていたけれど、ふいに逸らされてそんなことを言われた。
照れたような顔。赤い耳。
今まで、知らなかった。
彼の魅力。
「…矢島くん」
「うん?」
「ありがとう」
そして、その翌日から…私は。
一気に、面白いくらいに…矢島くんに、落ちた。
******
「聞いた?この前の期末の結果」
「ああ。また白崎さんがトップだって」
「凄いよねー。全部満点だったってマジ?」
たくさんの生徒達が行き交う、朝の廊下。
その廊下のど真ん中を、聞こえないフリをして歩く私。
白崎乃愛。
昔から勉強が好きで、スポーツも何だって得意で、噂じゃ少しモテるらしい。
…まぁ、他の男なんてどうでもいいけど。
「娘には何でも出来る子に育ってほしい」と常に願う母親の教育のお陰で、今の私には出来ないことなんてない。
だから、勉強やスポーツだけじゃなくて。
美術や音楽や料理の腕前もそう。人よりダントツに出来るように教育させてもらってきた。
そして、人に比較的「かわいい」と言われ噂されるこの見た目も。
オシャレだって、大好きだから。
「っ…やっぱ俺、告るわ!」
「やめとけって!相手にされないっつの」
「でもさ、白崎さんって、“アイツ”のこと好きって有名じゃん」
なんでよりによってアイツなんかな。
廊下にたむろする他の男子生徒はそう言うと、ため息交じりに私を見遣る。
…勝手にそうやって言っていればいい。
それでも私は、“彼”のことが大好きだから。
私は彼の顔を思い浮かべると、速足で教室に向かった。
「矢島くん!」
「!」
やがて教室に到着して早速名前を呼ぶと、噂の彼…“矢島くん”は教室の窓際でたくさんの友達と雑談してる最中だった。
矢島竜くん。
“あの日”からの…私の、大好きな笑顔を持った人。
私が矢島くんの名前を呼ぶと、彼はすぐに反応してくれたけれど…やがて「またお前か」とめんどくさそうに呟いた。
「…今度は何だよ」
「酷いっ。せっかく遠い教室から逢いに来たのにっ」
「いや同じクラスだし」
「ねねっ、今度の日曜ね、カップルで入ると割引してくれるカフェ見つけたの!私、矢島くんと行きたい!」
私はウザそうにする矢島くんを無視してそう言うと、彼の友達をかき分けて目の前に回り込む。
だけど…矢島くんは、私の愛にはかなり冷たくて。
「カップルじゃねぇじゃん俺ら」
「今からなればいいでしょ!私はいつだってオッケーだよ!」
「…、」
私がいつもの調子でそう言うと…
「…断る」
と、彼もまたいつもの調子でそう言った。
しかし、矢島くんがそう言った直後。
それを聞いていた矢島くんの友達たちが言った。
「矢島ー。白崎さんが可哀想だろ」
「お前、贅沢すぎ」
「そうそう。白崎さんめっちゃ可愛いじゃん。本来ならお前のところにこうやって来るのとかマジで奇跡だからな?」
俺なら速攻付き合ってるわー。
と、ずっと断り続ける矢島くんにそう言っては、どさくさに紛れて真正面から私の両手をとって握る。
「白崎さん、コイツやっぱダメだって。俺にしよ?」
しかし…
「え、ごめんなさい。矢島くん以外は絶対無理」
「!」
私は速攻で断ると、そんな男子生徒から手をパッと離して再び矢島くんを見る。
「ってことで、今度の日曜、決まりね!」
「…や、勝手に決めるなし」
「そこの駅前で待ち合わせ!楽しみにしてるからっ」
「話を聞け、」
私はそう言うと、「じゃあね」と矢島くんに手を振って、やがて自分の席に行く。
後ろから「俺行かないからな」って言ってるけど、私は知ってるもん。
そんなことを言っておきながら、矢島くんってやっぱり優しいから、何だかんだで来てくれること。
私は席についても、未だ不満そうにする彼に向かってほほ笑みながら手を振った。
そもそも、グランドで怪我をしたあの日。
私が矢島くんに恋をするきっかけになった日。
あの時、保健室で見た彼の笑顔や、照れる仕草。
意外と真面目なところに、私を元気づけてくれたあの言葉に一気に心を持っていかれた私は、翌日から彼に必死にアピールするようになった。
その頃、私はもう既に一ノ瀬くんと別れていたし、その噂も出回っていたから、次の相手がまさかの矢島くんだったことに周りはとにかく驚いていたのを覚えている。
でもそれは、矢島くん本人も同じだったようで。
私が告白しても、最初彼は信じなかった。
ずっと「嘘だろ」とか「からかうなよ」の一点張り。
だけどそれは、私が必死にアピールを繰り返せば繰り返すほど、やがて信じてくれたみたいで。
それでも私は、フラれてしまった。
「俺、恋愛とかよくわからないから」と。
だけど、私は諦めていない。
だってこんなに矢島くんのことが好きなんだもん!
今は、一ノ瀬くんからフラれて落ち込んでいたのが嘘だったみたいに、矢島くんにだけハマっている。
そして、断り続ける彼に私は言ったんだ。
「絶対、私のこと好きにさせて見せる」と。
それなのに…
「…無理なのかなぁ」
「…」
席について、しばらくした頃。
「おはよう」と声をかけてきた友達に、思わずそう声を漏らす私。
その視線の先には、友達と雑談を再開したらしい矢島くんの姿。
ほんと、楽しそうに笑ってる…。
そんな私の弱気な言葉に、友達の咲良(さくら)が言った。
「どした?また今日もダメ?」
「うん。今度の日曜にカフェ誘ったけど…冷たかった」
「…、」
咲良は、小学校からの付き合いで、所謂幼なじみ。
一ノ瀬くんにフラれた時も、矢島くんに惚れた時も、私の話をじっくり聞いてくれた唯一の同性の友達。
咲良は私の言葉を聞くと、言った。
「…まぁ、こんなことを言うのは何だけどさ」
「…何?」
「矢島くんより良い人、いっぱいいるよ?」
そう言って、他の人に目を向けてみたら?と。
他の恋を勧めてくる咲良。
その言葉に、「ええー」とうなだれる私。
「だって、矢島くんってそんなイケメンじゃないじゃん」
「咲良わかってないなぁ。矢島くんの良いところは見た目じゃないんだよ。まぁわかってもらっても困るけど」
「でもでも、よく考えてみて。確かにブサイクではないよ。ないけど、授業中は8割寝てて先生に怒られてるし、勉強苦手でテストは毎回追試受けてるし、サッカー部じゃ足引っ張ってばっかじゃん矢島くんは」
「うーん…でも、」
「私から見ると、天と地の差よ。乃愛と矢島くんって。未だにビックリしてるよ」
そう言って、「合コンでもしてみる?」と。
スマホを取り出すけれど…
「…やだ。私は誰が何と言おうと矢島くんがいい」
「…」
「矢島くんじゃなきゃやだ」
「…、」
そう言って、顔を伏せる。
…こんな言葉ももう、何回咲良に言ったかな。
確かに傍から見ると、「もう諦めなよ」ってレベルなんだろうけど…。
「聞いて。矢島くんって、優しいんだよ、やっぱ」
「…うん」
「それにね、普段はああ見えて、でも実は真面目なところもあるの」
「…うん」
「誘ったカフェも、何だかんだでちゃんと来てくれる。今まで何回かデートに誘った時だってそうだった。口では嫌がってたけど、何だかんだで来てくれた。
行かなかったらずっと待ってそうだからって、私が」
「まあそれは…なんかわかる気もするけれども(矢島くんの気持ちが)」
だから、まだ頑張るもん。
それに、私のこと好きにさせて見せるって宣言までしたわけだし。
私がそう言うと、やがて咲良は「強いね」と笑った。
「…乃愛がそこまで言うなら私ももうちょっと見守るよ」
「うん、お願い」
私が咲良の言葉にそう言うと、やがて朝礼開始のチャイムが鳴った。
…………
「一ノ瀬くーん、頑張って!」
「やばい、超カッコイイ~!」
「さすがサッカー部エースだよね~」
「…」
その放課後。
部活の時間になって、いつも通り、グランドに行く私。
隣からは、一ノ瀬くんへの応援の声がたくさん聞こえるけれど…。
一方の私の視線の先は、もちろん違って。
女子達の集団と、少しだけ離れた場所で、矢島くんを応援する。
毎日、放課後はこうして矢島くんの応援をかかさない。
だって、サッカーをしている矢島くんの姿も本当にカッコイイから。
私は部活を始めている矢島くんに手を振ると、思わずそんな彼の姿をスマホのカメラに収めた。
そんな私のスマホの壁紙は、やっぱり矢島くん。
初めてデートをした時に、こっそり撮った画像。
私が矢島くんの為だけにこのグランドに通うようになってからは、一ノ瀬くんを応援しに来ている他の女子達から嫌がらせをされたりするようなことはほとんど無くなった。
ただ…私が一ノ瀬くんの元カノだからか、わざとらしく隣で矢島くんに対しての嫌味が聞こえてくるけど。
「矢島くん、頑張って!」
「!」
そして私がそう言って矢島くんに手を振ると、一方の矢島くんは私の声に気が付いて、こちらを振り向く。
その時に目が合って、私は彼に向かって大きく手を振るけれど…
だけど、矢島くんは恥ずかしそうに私から目を逸らすと、そのまま部活を再開させる。
…手、振り返してくれなかった。
だけど、私は諦めない。
今朝、咲良に言われた通り、矢島くんは多少みんなの足を引っ張っちゃうことがあるけど、それでも矢島くんは笑って楽しそうにしてるから。
彼、何より友達が多いし。
私は相変わらず彼の笑顔をカメラに収めると、画面に映る彼の笑顔を見て、思わずニヤけた。
サッカー部は毎日部活があって大変だけど、私は毎日終わるまで矢島くんを待って一緒に帰っていたりする。
その度にうんざりした顔をされるけれど、それでも一緒に帰ってくれるから、少しは期待していいんだよね?
っていうかこれって、もう相思相愛って言ってもいい?なんて。
私が矢島くんに気付いてもらえるように大きく手を振って見せると、やがて部活中の彼とまた目が合った。
だけどまたすぐに逸らされたけど、今は愛情の裏返しって、思うようにしてる。
「なんてカッコイイんだろ…」
もう私の運命の相手としか思えない…。
…………
「矢島くんっ」
「!」
空が暗くなってきた頃。
ようやく部活が終わって、待っていた生徒玄関。
そこに、部活帰りの矢島くんが友達と一緒に現れた。
私が矢島くんに声をかけると、矢島くんの友達が冷やかすように彼に言う。
「ほら矢島、彼女来てんぞ」
「彼女じゃねぇし」
「幸せだねー、嫁がいる奴は」
「嫁でもねぇし。っつか先に帰ってろよお前は」
そして友達の冷やかしの直後に矢島くんは私にそう言うと、靴を通学用に履き替える。
だけどこんなことを言われるのはもういつものことだ。
こんなことでいちいち凹んだりはしない。
「せっかくだから一緒に帰ろうと思って」
「せっかくだからって、いつも一緒に帰ってるだろ」
「やだ毎日一緒に帰りたい」
「たまには友達と帰らせて?っつか重いんだけどいい加減」
「!」
矢島くんはそう言うと。
ため息交じりで私から目を逸らす。
その何気ない言葉に、私は…思わず一ノ瀬くんにフラれた時のことを思い出して…
『お前、重い』
「…、」
思わず、一瞬、言葉を失った。
だけど、そんな私に気が付いたのか、矢島くんは再び私に目を向けて…
何も言わなくなる私に、やがて口を開いて言う。
「……何してんの」
「…?」
「一緒に帰るんだろ?早く、」
「!」
そう言って、何だかんだでやっぱり一緒に帰ろうとしてくれるから。
単純に、嬉しさが込み上げてきて…だけど。
私はそんな矢島くんに言う。
「…いいよ、今日は友達と帰っても」
「え、じゃあ白崎どうすんの」
「今日は我慢する」
「…」
そう言うと、「また明日ね」と笑えていない笑顔で手を振って。
友達と帰りたいらしい矢島くんに手を振ったら、その時矢島くんが言った。
「や、それはダメじゃん」
「え、」
「何時間も待たせておいて、さすがに今日マジで一人で帰れとは言わないよ、俺」
「!」
そう言って、「いいから今日はもう帰ろ」と。
私に向かって手を差し伸べてくれる矢島くん。
手、握っていいのかな。…いいんだ。
私は彼の優しさを再確認すると、やっぱり嬉しくなってその手に手を重ねた。
こういうところが、好き。
一見不真面目なのに、こういうところ、真面目に考えてくれるところが、大好き。
私と矢島くんが手を繋ぐと、それを見ていた矢島くんの友達たちからは冷やかされたけれど、私はそれを気にせずに矢島くんに寄り添ってみる。
…ああ、今まで何回も「もうダメかも」って思ってたけど、私いますっごく幸せ。
何ならこのまま2人でどこかに行きたい気分。
私はそう思いながら、なんとなく夜空を眺めて…言った。
「あ、矢島くん星が綺麗だよ」
「いや、めっちゃ曇ってるし」
「日曜のデート楽しみだね」
「だから行かないって」
…けち。
私は矢島くんの言葉に隣で口を膨らませるけれど、でも、そう言いながらも矢島くんは繋いだ手を離そうとしないから。
思わず、期待する。
まあ、さすがに引っ付きすぎたら離されるけど。
「…矢島くんは私の彼氏になればいいと思う」
「や、だから、俺マジで恋愛とかそういう類、苦手だから」
「でも、私は矢島くんのこと大好きだよ」
「まあそれは………ありがと」
「!」
矢島くんは私の言葉に呟くようにそう言うと、心なしか私の方を見ないようにする。
薄暗いからはっきりとはわからないけど、矢島くんの耳が、赤くなってる気がして…。
このまま今すぐ、独り占めしたいのに…それでも出来ないこのもどかしさ。
…やっぱり、手は、繋いだまま…なのに。
何でだろ…矢島くん。
絶対これ、相思相愛じゃんって…思うのに。
…………
「じゃあ、また明日ね」
「うん」
それから数分位歩いた先の、いつもの分かれ道。
もう少し一緒にいたいけれど、早くも別れの時間がやってきてしまって。
私がそう言って手を振れば、矢島くんも頷いて手を振り返してくれる。
そして、そのまま背を向けようとすると…
「…なあ」
「うん?」
その時。
不意に背後から矢島くんに呼び止められて、私は振り向いた。
なに?と。
そして振り向いた瞬間、矢島くんが少し躊躇うような顔をして…だけど意を決したように私に言った。
「白崎はさ、何で俺のこと…そうやって好きって言ってくれるの」
「え、」
「だって、普通に考えて俺と白崎って、真逆じゃん。ハッキリ言って、俺は白崎と違って何も出来ない奴だよ。成績だって、全体的に悪いし」
「…」
「なのに、何で今日とかもそうやって…ずっと待っていてくれんの」
矢島くんはそう言うと、少しビックリする私をよそに、普段とは少し違った真剣な顔をする。
…なんか、心なしか、いつもとはちょっと違う雰囲気…?
私はそんな矢島くんを疑問に思いながらも、やがて言った。
「…だって、矢島くん優しいから」
「!」
「ほら、何だかんだで今日だって、こうやって一緒に帰ってくれたでしょ?」
「そりゃあ…そうだけど」
私がそう言うと、矢島くんはそう相槌を打って…私から視線を逸らす。
…どうしたんだろ?矢島くん。
いつもはそんなこと、聞いてきたりしないのに…。
…あっ、もしかして…!
私はあることに気が付くと、言った。
「っ…え、なになに!?矢島くん、もしかして私と付き合ってくれる気になった!?」
「え!?や、それはっ…」
「そんな不安がらなくても、私はどんな矢島くんも大好きだよ!今すぐにでも彼女になってあげる!」
私はそう言うと、また早速矢島くんの傍に駆け寄る。
しかし…
「…いや、そういうつもりじゃなくて」
「え、」
「ただ、ずっと不思議だっただけ。期待させたみたいで悪かった」
「…そんな…」
「じゃあな。気を付けて帰れよ」
矢島くんはそう言うと、あっけなく私から離れて、今度こそ帰って行く…。
なんだ…凄い期待しちゃった…バカみたい。
私はそんな彼の後ろ姿を見つめて、やがて見えなくなると私も再び家路を急いだ。
…そんな様子を、建物の影から“ある人物”が見ていたとは知らずに…。
******
翌朝。
昨日はあれから家で矢島くんのためにクッキーを作って、今日学校に持ってきていた。
休み時間に2人で食べたいなぁ、なんて…想像してはまたニヤけて。
甘党な矢島くん。喜んでくれるかな。
そう思いながら、生徒玄関で靴を履き替えていると…
「乃愛、」
「!」
その時。
不意に近くから名前を呼ばれて…顔を上げると。
そこには何故か…
「…い、一ノ瀬くん」
「…」
私を見ながら立っている、一ノ瀬くんの姿があった。
「おはよ、乃愛」
「…っ」
私はまさか一ノ瀬くんが久しぶりに声をかけてくるなんて思わなくて、一瞬、ビックリして固まってしまう。
…なんで?なんで声なんか…かけてくるの?
そう思って…私が口を開くと…その前に一ノ瀬くんがそれを遮るように言った。
「ごめん。ビックリしてるよね、いきなりで」
「…なんで、」
「や、何かさ、この前は悪かったなぁと思って」
「え、」
「ほら、乃愛と別れた日」
そう言って、私は思い出したくないのに…一ノ瀬くんは。
躊躇なくそう言って、今更、「ごめん」と謝ってくる。
…なんで?どうして今、そんないきなり…?
そう思って、私が首を傾げると…
「…だから、謝るから、もう止めてくんないかな?今日はそれを言いに来た」
「…何を止めるの?」
「放課後、グランド来るの」
「!」
そう言って、一ノ瀬くんは…頭の上に?を浮かべる私を、真剣な表情で見つめる。
だけど一方、いきなりここでそんなことを言われた私はわけがわからなくて、余計に戸惑う。
何で?本当にわけがわからない…何、言ってるの?
え?まさか、もしかして…。
「気になってたんだよね、ずっと」
「…」
「俺にフラれたくせに、ストーカーみたいに毎日グランドに来てさ、もうウンザリっつーか。
けど、そうかと思えば今度はいきなり矢島?お前さ、マジで言ってる?」
「…っ」
「んなモンぜったい嘘じゃん。お前が好きなのは俺だろ?お前が俺の目の前でやってる矢島へのアピールは、俺に見せてんだろ?
だって普通に考えて、乃愛と矢島が釣り合うわけないじゃんね」
そこまで言うと、一ノ瀬くんは…
「見ててイライラする。ほんっとにマジでやめてくんね?
それ、俺への当てつけだろ」
そう言って、鋭い目つきで…私を睨んだ。
「…っ、」
…酷い。
私はそんなつもり、さらさら無いのに…なんでいきなりこんなこと、言われなきゃいけないの。
一ノ瀬くんこそ、本気で言ってるの?
私は一ノ瀬くんの一方的な言葉に内心そう思うけれど、でも、実際は思うだけで何も言い返すことが出来ない…。
だって、何か言い返すと…怖いから。今の一ノ瀬くんが。
そう思いながら黙ったままでいると、その時また一ノ瀬くんが言った。
「それにさ、俺のことも少しは考えろよ」
「…?」
「俺と別れたあとは、全然たいしたことない何も出来ない矢島が相手って。
そんな奴に俺が負けたみたいでムカつく。考え直せよ」
そう言って、わざとらしく大きなため息を吐かれて。
そんなことを言われると私だってムカついてくるけれど、でも、表面上は良い子ぶって「ごめんなさい」っていう言葉しか出て来ない。
…一ノ瀬くん、私が矢島くんを好きなこと…そういうふうに見てたんだ…。
でも、私はそう思いながらも…
「で、でもね、矢島くんって、一ノ瀬くんが思ってるよりも…!」
そう言って、私が知っている矢島くんの良いところを言おうとしたら、その瞬間。
不意に後ろから、聞きなれた声が聞こえてきた。
「だから何だよ」
「!!」
その声に、私はすぐに反応して…後ろを振り向く。
この声は…そう思って、一瞬にして期待すると。
私の後ろには、やっぱり、登校してきたばかりの矢島くんが立っていた。
「矢島くん…」
もしかして…今の会話を、聞かれていたのか。
私が思わず矢島くんの名前を呟くと、矢島くんは一ノ瀬くんの方を見ながら、怒ったような口調で言った。
「悪かったな。たいしたことなくて」
「…っ…」
「どーせ俺は、一ノ瀬が言うように勉強できないし、サッカーも足引っ張ってばっかだし、顔だってたいしたことない、全然。
白崎とつり合わないのも、自分が一番よくわかってるよ」
矢島くんは一ノ瀬くんにそう言いながら、私の横を通り過ぎて…目の前に立ってくれる。
…守ってくれているのかな。
こんな時だけど…私には何だかその背中が広く見えて。
それでも黙って後ろから見ていると、矢島くんが言葉を続けて言った。
「…っつか、お前が言ってるのは、ただのカッコ悪い嫉妬だろ」
「!」
「悔しいんだろ。今まで自分だけを見てたはずの白崎が、今度は全く違うタイプの俺を見るようになって。自分のことは一切見なくなって」
「…っ、」
矢島くんがそう言うと、一方の一ノ瀬くんは何かを言いたそうに…だけど何も言わずに矢島くんから目を逸らす。
そしてそんな一ノ瀬くんに、今度は矢島くんは私の手を取って、私を自身の隣に来させて言った。
「悪いけど、そんな奴にもう白崎は返さないから」
「!」
「お前こそ白崎のところに来るのもう止めろよ」
そう言って矢島くんは、「行くぞ」と。
私の手を握ったまま、言い返す言葉を失っている一ノ瀬くんの横を通り過ぎて。
いつもの廊下を通り抜けていく。
「…、」
…助けて、くれた…?矢島くん…。
助けてくれたんだ…。
そう思うと、沸々と、嬉しさが込み上げてきて。幸せを感じて。
さっきの一ノ瀬くんへの苛立ちも、綺麗に無くなって。
私が、手を繋いだままの矢島くんにお礼を言おうとすると。
その前に、矢島くんがピタリと歩く足を止めて…言った。
「…ごめん」
「!」
「いきなり、話の途中に割り込んで」
「…」
そう言って、繋いでいた手をあっけなく離すから。
そんな矢島くんに寂しさを感じると、矢島くんが言った。
「…学校、来たら…なんか俺のこと話してんの聞こえてきて、覗いてみたら…お前と一ノ瀬で。なんか、空気がよくないように、見えて…ムカついて…」
そう言って、「割り込まずにはいられなかった」と。
再度「ごめん」と謝ってくる。
その表情が、何だか本当に申し訳なさそうにして見えるから。
私はそんな矢島くんの言葉に首を横に振ると、言った。
「っ…謝らなくていいよ!」
「!」
「っていうか謝らないで!謝られるとなんか…かなしい。
…ありがとう。助けてくれて嬉しかったよ」
「…、」
私はそう言うと、思わず矢島くんに向かってニッコリと微笑んで…また彼の手に触れて…それを繋ぐ。
だって、まさかあのタイミングで助けてくれるなんて思わなかったんだもん。
やっぱり相思相愛だって期待しちゃった。
でも、私がそう思いながら微笑んでいると…
「や、違う…違うよ」
「?」
矢島くんは、不意にそう言って…また私から手を離す。
そうかと思えば、すぐに言葉を続けて言った。
「ほんとは…俺も同じ。一ノ瀬と同じ。ただ単に、カッコ悪い嫉妬が生まれただけ」
「え、」
「白崎が一ノ瀬と一緒にいるの見て、嫉妬…したのもあった。だから、助けたって言われると…違うかもしれない」
「…、」
「白崎が、俺のこと好きって…何回も言ってくれて、それを一番喜んでたのは、ほんとは俺のほう…だから」
「!」
矢島くんはそう言うと、今度は恥ずかしそうに…私から顔を背ける。
その時に見えた赤い耳。一瞬見えた赤い頬。
その言葉と仕草に、私は思わずまた、嬉しくなって。
「そ、それって…!」
「…」
「それってつまり、矢島くんは私のことが好きで、付き合ってくれるよって言う…!」
しかし、私が期待しまくってそう言うと。
矢島くんが顔を背けたまま言った。
「…や、そこまで言ってない」
「え、逆にそこまで言っておいて?」
「だから、言ったじゃん。俺と白崎は釣り合わないって。皆から言われてんだよ、俺」
「!」
「普段仲良い奴らもそう。実際口には出さないけどもう顔見ればなんとなくわかる。皆良いように思ってない。白崎が俺のとこ来るのだって。
そりゃあ俺だって男だからさ、実際は周りと一緒なんだよ。白崎みたいな可愛いコから告られたら、嬉しくないわけない」
そう言って、未だ恥ずかしそうにして見せるけど…
でも、私の気持ちはどうなるの?
それに、矢島くんの気持ちだって大事。
だって、せっかく晴れて向き合えているのに…一緒にいれない、なんて…。
私はそう思うと、何だか悔しくて…皆が何と言おうと好きなものは好きだから。
でも今は一旦自分の気持ちをしまい込んで、言った。
「…じゃあ、矢島くんは…私と付き合いたいっていう気持ちはあるの?」
「…それはっ…」
「私のことどう思ってる?本音は?好き?」
「…~っ、」
私は矢島くんにそう言って質問攻めをすると、照れた矢島くんの顔を見たくてわざと覗き込む。
でも、矢島くんはそれを許さない。
まだ顔は見せてくれないけれど…でもその代わり、やがて口を開いて言った。
「………好きじゃなかったら…助けない。わざわざ」
「え、」
「最初の…あの日だってそう。グランドで、白崎が怪我をした日。あの時だって、ほんとはずっと…気になってた。気になってたから声かけた」
「!」
「ほんとに興味なかったら、保健室につれてなんか行かない。手当もしない。元気づけたりも、多分…しない。今までしてきたデートだってそう。好きじゃなかったら行かない」
そう言って、矢島くんはやっと…少し赤くなっている顔を私の方に向けて。
少しビックリする私に、また、言葉を続けた。
「…今までは、周りの目が気になりすぎてて、断ってただけ。でもほんとは、俺のほうがきっと、白崎のこと好きだよ」
矢島くんははっきりとそう言って、だけどまた恥ずかしそうにして、今度は下を向く。
だけど一方、そんな思わぬ矢島くんからの嬉しすぎる言葉に、一瞬、私の頭はついていかなくて。
ずっと、断られていたから…傷ついては寂しさを感じていたけれど。
それは、矢島くんの愛情の裏返し。
本当は…本当に、相思相愛だった。その事実が嬉しすぎて。
考えれば考えるほど、泣きそうになるくらい、嬉しかった。
「…ほんと?矢島くん、それ信じてもいいの…?」
「嘘でこんなこと、言わないだろ」
「っ…じゃあもう付き合っちゃおうよ。そこまでわかってるのに付き合わないのなんて嫌だよっ…私、矢島くんと一緒に居たい、」
「でもそれはっ…」
だけどまだ心で周りの目を気にする矢島くんに、私は言った。
「だって、私だって本当に矢島くんのこと好きなんだよ。
確かに勉強や体育は苦手なのかもしれないけど、そんなことはどうだっていいの。
たまに見せてくれる笑った顔とか可愛いし、普段は不真面目なのにたまに私のことちゃんとよく考えてくれるの嬉しいし、それにやっぱりなんだかんだで一番優しいのも、そう…。
私だって毎回テキトーに言ってるわけじゃない。本気で矢島くんが好きなんだよ」
そう言って、自分の気持ちを今まで以上に吐き出して。
一生懸命、矢島くんを見る。
だけど、私のそんな言葉にぽかん、とする矢島くんを見て…我に返った途端。
私はさすがに恥ずかしすぎて、思わず照れた。
「…、」
「…あ、て、ていうのが…私の気持ち…」
「…、」
「…デス」
そう言って、何だか矢島くんを真っ直ぐに見るのが恥ずかしくなって、思わず私も下を向く。
勢いで言った、わけじゃないし…今言った気持ちは全部本当の気持ちなんだけど、矢島くんはどう思ってるかな。
だけど矢島くんはしばらく何も言わなくて、そんな彼に私が不安を覚えると…その時ようやく矢島くんが言った。
「…ちょ、待って」
「…?」
「廊下のど真ん中で、よく…そんな恥ずかしいことが、ハッキリ言えるな」
「…えっ」
そう言って、矢島くんが恥ずかしそうに周りを見るから。
私は矢島くんの言葉に、一旦冷静になって周りを見渡す。
するとそこには、たくさんではないけれど…廊下にたむろする生徒達が、何人か、いて…。
さっきまでは、いなかったはず…なのに、こんなのってない。
「!!…っ、」
他の生徒達が興味津々に私たちを見ている、気がして…それに気が付いた私は、思わず顔を両手で覆った。
「え、やだ嘘でしょ!?」
「…、」
「はっずかしいんだけど!」
そう言って、思わず顔を赤くしていると…
「でも…ありがと」
「…?」
「確かにハズイけど、素直に嬉しい。っつか、嬉しさの方が勝ってる、いま」
「!」
そう言って、矢島くんは。
私の目の前まで来て、ぎこちなく…私を正面から抱きしめる。
その言動に、今度は私は固まって。
矢島くんの腕の中にいる、から。
何も言えずにいると、矢島くんが言葉を続けて言った。
「そういうこと言われたら、もう選択肢…一つしかないじゃん」
「…?」
「俺、白崎の彼氏になりたい」
「!!」
そう言って、恥ずかしさからか…よりぎゅっと抱きしめられるから。
その言葉が、嘘みたいにまた…嬉しくて。
でももちろん、嘘じゃないから…その言葉に頷いて、私も矢島くんの背中に両腕を回す。
「…夢じゃないよね?これ」
「や、せっかく気持ち伝えたのに夢とかヤメテ」
「!っ…好き!矢島くん!」
「!」
私は、やっと想いが通じた廊下のど真ん中で。
そう言って、再度、はっきりと自分の気持ちを伝えて、いつまでも抱きしめ合った。
やっと、夢が叶った貴重な瞬間だった。
******
「…で、結局両想いか」
「話が違うじゃんか矢島ぁ!」
それから、私たちは手を繋いで教室に入るなり、早速矢島くんの友達たちにそう言われた。
手を繋いでいた時点で私たちが付き合い始めたことは即バレたらしく、それなりにビックリされた後…今は、散々冷やかされている。
「はぁ、マジでゴールインするとはな」
「や、結婚してねぇし」
「まさか…もうチューくらいは済ませ、」
「頼むから少し黙っててくんない」
嬉しさのあまりニコニコする私の隣で、そう言って恥ずかしそうにする矢島くん。
それでも付き合えたことの嬉しさは、お互いに同じみたいで。
「…日曜に約束してたカフェ、本当に割引対象になったね」
「うん」
「他はどこに行く?」
「俺映画観に行きたい」
「うん!じゃあ行こっ」
矢島くんの言葉に私が頷くと、矢島くんの友達たちは恨めしそうに矢島くんに目を遣った。
「…なに」
「や、なんかさ、いかに犯罪にならずに証拠も残さず人を不幸にする方法を考えてた今」
「こえぇな」
そう言って、矢島くんの友達が冗談交じりでため息を吐くと。
「わかるわそれ」と、その言葉に頷く他の友達たち。
だけど、矢島くんを不幸にするなんて私が許さないから!
私はそう思うと…矢島くんに言った。
「大丈夫、矢島くん。矢島くんが不幸になっても私は傍にいるよ」
「…白崎…」
「矢島くんが嫌がっても傍にいる。ずーっと傍にいるから」
「…なんかそれも怖ぇよ?」
私はそう言うと、矢島くんにぴったりと寄り添う。
今まであんまりできなかったけど、これって彼女の特権だよね!
そして寄り添ったまま見た先の矢島くんがまた照れていて、可愛い顔をしていたから…
「…矢島くん、」
「うん?」
名前を呼んで、矢島くんがこっちを向いたその直後。
私は彼の頬に、キスをした。
「…おまえ…」
「…嫌だった?」
「や………口がよかった」
「!!」
私のいきなりの言動に、矢島くんがまさかの言葉を発するから。
ビックリして頬を赤くする私の目の前で…矢島くんが友達に頭を叩かれていたのは、言うまでもない…。
【完】
白崎さんの溺愛 みららぐ @misamisa21
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