その7 これで解決。なのかなぁ? 2

 俺は屋上への階段をゆっくり上がった。外へと抜けるドアには鍵がかかっていたが、こんなもの、どうってことはない。


 屋上には冷たい風が吹き抜けている。


 俺は給水塔の陰に隠れ、イヤホーンの音に集中した。



(5.4.3.2.1・・・・)


 頭の中で、ゆっくりとカウントをする。


(ゼロ!)


 次の瞬間、耳の奥で叫び声が無数に弾けた。


その後、足音が近づいてくる。


 俺は拳銃を取り出して構え、壁の内側に張り付いた。


 ドアが開くと、そこにはさっき会場で見かけたタキシード姿の、


『今様ジェームス・ディーン』が姿を現した。


 男は無造作に着ていたものを脱ぎ捨てた。

 

 下から出てきたのは、安っぽいレオタード風衣装。


 今時の少年漫画だってこんなわざとらしいコスプレはしないだろう。


 どこから取り出したのか、まるで昔の『仮面の忍者』がかけていたような、縁の尖ったサングラス迄かけている。


 彼は俺が隠れている反対側に廻り、予めそこに隠してあったと思われる何かを探していた。


『さあ!そこまでだ。怪盗鶴の123号君?』


 俺はわざと大仰に飛び出すと、片手に黒いザックを、もう片方に拳銃を持ち、奴に突き付けた。


『君も怪盗なんて世間から持て囃された人間なら、往生際ぐらい良くした方がいいんじゃないか?』


 俺はそういって、ザックを下に置き、中を開く。


 そこには数種類のパイプのようなものと、折りたたんだ布が入っていた。


 つまりは一人乗り用の組み立て式のハンググライダーという訳だ。


『この程度のもので、どこまで逃げるつもりだったのか知らないが、まあ間抜けな警察を巻くのにはちょうどいいかもな』


『あんた・・・・俺をずっと付けてたのか?』


 奴は口を開いた。

 

 思った以上に幼い声に聞こえる。


『付けてた・・・・といえばそうともいえるし、違うともいえるな。俺は怪盗鶴の123号なんかに興味はない。俺の仕事はミュージシャン櫻木淳の正体を探ることだ。』


『探ってどうする?』


『商売上の秘密をベラベラ他人に喋れるか。職業倫理に関わる・・・・が、犯罪を座して看過するほど落ちぶれてもいない。』


 俺は銃口を突き付けたまま言った。


『たとえ犯罪者でも丸腰は撃たないんじゃなかったのか?』


 驚いたね。こいつも伊達に盗人なんかやってねえな。


『時と場合によるな。無駄な抵抗をすりゃ、引き金を引かざるを得ん。さあ、どうするね?』


 複数の足音、多分警官や警備員だろう・・・・が、イヤホンを通して俺の耳を打つ。


 奴はにやりと笑い、黙って手を挙げた。



 翌日の新聞には、


『怪盗鶴の123号、遂に逮捕』という記事が大見出しに踊っていた。


 それもスポーツ新聞や夕刊紙ばかりじゃない。


 一応クオリティ・ペーパーと呼ばれている新聞でさえそうなのだから驚く。


 だが、俺にはそんなこと、まったく関係がない。


 報告書を作成し、俺は依頼人の下に届けた。


 しかし・・・・その時の驚きの方が、俺にはある意味ショックだった。


 岡村朱美嬢は、俺から報告書を渡されても、


『それがどうしたの?』とばかりに平然とした顔をしていた。


 彼女は依頼料の残りを数えて渡し、


『じゃ、これで、私今からサークルの集まりがあるんです。アニメ声優の〇〇さん、今私その人に夢中なんです』


へ?


女心と言うのは分からんな・・・・



                             終わり


*)この物語はフィクションです。登場人物、事件、場所その他一切は作者の想像の産物であります。
























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