その6 解決?なのかなぁ? 1

 会場は妙に張りつめていた。


 あちこちに警備員やら、私服の警察官やらが立っていて、水も漏らさぬ警備とはこのことであろう。


 ある高名な貿易商が、近頃アフリカの某国で終結した内戦の犠牲になった難民救済のために主催したチャリティ・オークションだそうだ。


 貿易商氏は自分の持っている相当に(いや、巷の噂では相当どころの騒ぎじゃないらしい。あくまでも噂だが)価値の高い幾つかの宝石をチャリティーに出すと言われていて、それをあの、


『怪盗、鶴の123号』氏が狙っているというのだ。


 いや、

『というのだ』というのは正確ではないな。


 当のご本人から貿易商氏の下に、

『予告状』てなものが届いたというのである。


 つまりはフランスのアルセーヌルパンとか、日本の怪人二十面相氏の猿真似をしたわけだ。


『鶴の123号』は、これまで一度もそんなもの出さなかった。


 自分の犯罪に増長してるか、あまりにも上手く行き過ぎているので面白くなくなったんだろう。


 犯罪者なんてものは、所詮自己顕示欲が強い変態にすぎん。


 他人様からなんて言われようと、俺はそう思っている。


 だから、俺は変態が嫌いなんだ。

 

 会場を一通り見回すと、まばゆいばかりの宝石が、これでもかとばかりに並べてある。


 まるで、

『盗んでください』と立札を立ててるようなもんだ。


 そのうち、会場にぼちぼちと客が入り始めた。


 俗に言う、


『セレブ』


 とか何とかいう連中である。


 しかし俺からすれば『成金』という言葉の方がしっくりくる。


 そんな風に見えた。


 時計の針(俺の時計は今でも長い針と短い針が、一日に一回だけキスをするやつだ)が、午後7時ちょうどを告げた。


 チャリティ・オークションの始まりだ。


 幾つかのまばゆいばかりの宝石が壇上に並び、次々と競り落とされてゆく。


 競りが中ほどまできた頃だった。


 俺は気になる人物を見つけた。


 年齢は20代後半か、または30代初めといったところだろう。


 タキシードに縁なし眼鏡。


 顔立ちはジェームス・ディーンを今風にした二枚目、といったところだろうか?


 どう考えても不釣り合いだ。


 考えてもみたまえ。


 安くても百万単位。


 高ければ天井知らずというこんな場所、30になったかならないかって若造が出入り出来るはずがない。


 しかしその眼付き・・・・カンばかりに頼るほど落ちぶれちゃいないつもりだが、こういう時の『野生のナントカ』ってやつは、当てにしていいもんだと自分でも思っている。


 俺はそっと席を立ち、壁に置いてあったまがい物のビーナス像の胸の谷間に小型のマイクを仕掛け、会場を後にした。


 この先何が起こるか、まあ大方の諸君は察しがつくだろう。



 


 


 


 





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