その5 正体 2
俺たちは自動販売機がずらりと並んでいる一角に立っていた。
俺は砂糖なしのブラックコーヒー。
奴は・・・・・甘ったるいココアを選択し、電柱に背中合わせにもたれ、互いの顔を見ないようにしながら向かい合った。
コーヒーの代金、120円は、勿論自前である。
『・・・・何を追ってる?』奴が聞いた。
『職業上の秘密・・・・俺は探偵だぜ。』
『何なら、近くの所轄にしょっぴこうか?公務執行妨害で締め上げてもいいんだぜ?』
『若造の癖に口の聞き方を知らんな。俺をゲロさせるなんざ、20年は早い』
30代の警部補氏は声を立てて笑った。
『・・・・その代わり、俺だってあんたらに何も聞かん。大方は読めているからね』
俺は飲み終えたスチール缶を手の中で握りつぶし、自販機の、
『飲み終えたらここへ』の穴へ放り込んだ。
『くれぐれも言っとくが、こっちにはあんたの探偵免許を取り消すって切り札があるんだぜ?余計なことはしないのが身のためだ』
俺は黙って手を挙げた。
お巡りと必要以上に関わり合って、ロクなことがあった試しはない。
翌日、雨が上がった
俺は欠伸の代わりにくしゃみと共にベッドから起きた。
腕立て伏せ50回、スクワット50回、腹筋50回と、いつもの日課をこなし、それからバスタブが一杯になるまでの間に軽い朝食を済ませ、ゆっくりと風呂に浸かった。
これもまた、いつもの朝の日課である。
ドアの外にある郵便受けから新聞を二紙とってきた。
新聞なんてものは凡そ信用するに値しないと思っているが、それでも一応確認しておく必要はある。
但し、一面は読まない。
俺が目を通すのは社会面とスポーツ欄くらいのものだ。
社会面には、昨日銀座の宝石展示即売会の会場で、時価4億ともいわれる某国から貸し出されたダイヤが衆人環視の中でまんまと盗まれたという記事がでかでかと掲載されていた。
事件直後に会場から逃げ去った黒い服の女の行方を追っている云々・・・・とあった。
(やれやれ、これであの若造もまたお偉方からつるし上げられるねぇ)
俺はトーストを咥えながら、心の中で呟いた。
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