第四話ー記憶
今日も果てしない戦いの始まりだ。魔道師と戦闘機が観測する砲兵たちの一斉射撃から始まり、戦車と戦車がぶつかり合う。雪の中に混じる肉の焦げた臭いは社内からでもハッキリと分別できる程濃密だった。
「ブラウ1からブラウ達へ。魔道師たちの奇襲に気を付けろ。」戦車長はそう言いながら周りを見渡した。
俺は横にいる装填手、イヴャンをひっそりと見た。彼は重たい砲弾をすぐさま取れるようにしておいて一息ついていた。補充兵としてマリアと一緒にやって来たのは確か、一ヶ月前ぐらいだと思う。
'あの時'の思いはもう二度としたくない。それが俺の本音だ。
***
そう、それは俺が彼女と心を通わせ始めた直後に起きた。彼女の名前はリセナイェコビチだった。愛称はルチ。暖かい心の持ち主でまるで今のマリアのような・・・くそっ。
「至急前線へと向かえと、師団長の命令が!場所は突破されかかっている第32モレヒナ戦車中隊の左翼!」ルチは休んでいた皆に叫んだ。
「・・・中隊、出発準備!」顔色ひとつ揺らがないアナスターシャはさらりと言った。直ぐに中隊の全員は収穫時の農夫の様に急いだ。
YJ-2はそのエンジンを猛烈に吹かせながらその重い体を動かせ始めた。戦場に、向かうのだ。その時緊急に無線が届いた。
「バシール2からバシール1へ。エンジン故障です!」
「早く直せ。出来なければ貴様らは置いていく。」アナスターシャの命令が続いた。
「バシール2、了解・・・」
アンドレイは全速力でアクセルを踏み戦車を動かした。ガタンゴトンと揺れる車内は何時もより狭く感じられた。磨り減った座席で不愉快そうに座っているのが俺だった。
「そろそろ気を引き締めろ。敵陣だ。」冷たい声が聞こえた。
自分は砲手だが獲物を戦車長が探してくれなければこの役割に意味は無い。心を安らかに保ちつつ、ただ待つ。
「バシール1からバシールたちへ。敵戦車は確認できたか?」戦車長が質問したが良い答えは得られなかった。多分空から降る雪のせいで遠くまで見れないのに違いない。
その時だった。一番右翼に位置していた俺たちの戦車の横腹に砲弾が突き刺さった瞬間は。
「なに・・・」アナスターシャの声が微かに聞こえたが俺は被害を見て驚愕した。ルチが・・・八つ裂きになっていた。可愛げのある顔は吹き飛び、気づいて見たら俺の体は血みどろだった。
(有り得ないだろ、ルチが・・・)
「くそっ、全員退避!脱出しろっ!」戦車長の命令が木霊した。俺は狂いそうになりながらも脱出ハッチを開け、外に出た。
その時も世界は真っ白で綺麗だった。
あの時自陣に帰って来れたのは奇跡に近かった。鉄の塊が飛び交う戦場に生身になるのは危険極まりない行為だ。地上では戦車が、空には戦闘機と魔道師が巣食うのだ。
生き残ったのは戦車長(アナスターシャ)、運転手(アンドレイ)、自分(砲手)だけだった。ルチと装填手は死んだ。呆気なく死んでしまったのだ。
雪の中の疾走 でぷらいず @susand54
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