第三話ーアシャとの関係

 戦車長アナスターシャとは長年の付き合いだ。なにせこの戦争が始まってからずっと一緒なのだ。長い付き合いの始めてはKB-1重戦車だった。1923年、KBー1を含む第21戦車旅団に配属され其処で同じ隊員として出会った。25歳だった彼女は驚くほどの美人だった。今、正に人生の黄金期を迎えていたアナスターシャとは違い自分は約20歳ほどもっと老いていた。


 「今日から第78重戦車小隊長に赴任したセラノイ・グラノビイェチ・アナスターシャだ。宜しく頼む。」きりっとした表情で放たれた言葉は簡潔で、美辞麗句の一つも入っていなかった。私は長年の人生経験を積み重ねてきた為、このような人物に対しては敬意を保ちながら絶対に逆らってはいけないと肝に銘じた。しかし馬鹿みたいな連中は命令に従わないばかりか、性に関しての冗談を彼女の目の前で話す始末。・・・連中は徹底的な再教育を受けた。勿論頭に銃口をさされながら。さぞかし恐れ入っただろう。


 馬鹿な連中の話は此処までにしておいて、訓練時の失敗の記憶もある。確か12月くらいの時に旅団規模で機動訓練したときだった。目的地まで早く行かなければ行けない時、突然レバーが動かなくなったのだ。本当にその時は焦った。後に整備係に発狂される事を無視し、手持ちのハンマーで叩いて動かした。そしてギリギリ目的地に着いた。そうしたらアナスターシャが私を褒めた。


 「咄嗟の判断が吉にでたな。良くやった。」冷たい表情のままだったが言葉に含まれているのは肯定的な表現だった。


 さて、今起きている帝国との戦争ー大祖国戦争と呼ぶらしいーについて話そう。開戦から何週経たない間に私達は敗走を続ける事になってしまった。命令はあべこべで混乱が広がり、遂に自分が所属している第78重戦車小隊は帝国の攻勢の中、迷子になった。今考えても寒気がする経験だった。食料と燃料が尽きていくのを見るのは身を削る気分を感じさせた。最後には戦車を放棄しなければならなかった。


 絶望に囚われずに済んだのはやはりアナスターシャのリーダーシップのお陰だったと思う。テキパキと動く彼女は鉄化面を被り、何時か絶対に友軍の姿が見えると言い聞かせた。それは自分自身に対しての言葉だったのかも知れない。


 何週間もの間孤立し、飢え、希望を失い続けた小隊はやっとの思いでとある村に到着した。今考えたら其れまで一つたりとも村が見えなかったのはやはり見過ごしてしまったのだろうか?取り敢えず村人たちに近づいてみたが友好的だった。安心して村の長にアナスターシャが質問をした。


 村の長は近くに連邦軍が駐屯していると言ってくれた。その言葉を聴いた隊員たちの顔はみるみる晴れた。気のせいか、アナスターシャの顔も少し晴れたようだった。


 その後は村から出て友軍の軍事基地を目指した。あまり歩かないですぐさま基地は発見できた。何故ならば大きな軍用トラックや戦車たちを遠くからでも見つける事が出来たからだ。其処は第121トベンカ師団と呼ばれる者たちが駐屯していた。私達は手続きを完了させた後、今まで取れなかった疲れを取る為に貪るように寝た。

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