それは、革命的な日常
結局、あれから七夏とはクチも聞いてない。
だいたいさ、アイツはなんで児童小説がお子様のもんだってだけで、あんなんで怒ってんだよ?
正直、ワケわかんなすぎて、こっちが戸惑うっつーの。
冷静になってみれば、オレも少し煽りすぎたかなとは思うけど――あ~もう。なんかモヤモヤするぜ。
「ねえ、雪緒ちゃん」
そんなときのことだった。
莉音がまったく話をしなくなったオレたちを心配してか、突然不安げな顔で話しかけてきやがった。
「いい加減、仲直りしようよ」
「んなの、あっちに聞いてくれ。オレも煽ったのは悪かったとは思うが、ロックをバカにされたのだけは我慢ならねえ」
「でも、七夏ちゃんだって自分の好きなものを否定されたから、雪緒ちゃんがロックが好きだってことを馬鹿にしたんだよ? それって、お互いに悪いってことじゃん」
「だぁ~かぁ~らぁ~アイツが先に謝ればいいんだつーの」
そうだ、オレから謝るなんて主人失格なんだ。
莉音は「そういうプライドがあるからダメなんだよ」的なことを言いやがる――が、そもそも譲歩する気なんてサラサラねえし。
「ダメだよ、そんなんじゃ」
「うっせえつーの」
「そうやって片意地張ってるから、雪緒ちゃんはみんなに敬遠されちゃうんだよ?」
「――オマエ、サラリと突き刺さることいいやがんな」
「ゴ、ゴメン……。でもでも、雪緒ちゃんの方から話しかけてあげれば、七夏ちゃんだってきっとうれしいと思うんだけどな」
「オレの方から?」
「それに雪緒ちゃんとしては、七夏ちゃんに謝る気はあるんでしょ?」
「……い、いや……それは……なきにしもあらず……だが……」
「ないわけじゃ無いんだよね?」
――ったく、コイツはボーッとしてんだか、しっかりしてんだか。時折、強烈にストレートな一撃をよこすから怖えんだよ。
おかげで言葉が深く胸に突き刺さって、七夏のことが気になっちまった。
「ね? 仲良くしようよ」
さらにトドメの一言。
もはや莉音の言葉は、オレの凍り付いた心を魔法みたいに全力で引っぺがそうとしてやがった。
「わ~ったよ。とにかく、ただ話をするだけだかんな?」
オレはそう言うと、放課後に七夏を校舎裏に呼び出して話をすることにした。
そして、放課後――。
オレは七夏と1メートル離れて、面と向き合っていた。
「なんです? こんなところに呼び出して」
もちろん、当人は未だ不機嫌そうな様子。
……んにゃろうめ、オレがどんな気持ちでここへ来たか、考えもしてねえな。とはいえ、オレから謝るなんてゼッテーありえないし。
「……莉音が仲直りしろっていうから呼んだ」
「そうですか。それで雪緒様ご自身はどうなんです?」
「なにがだよ」
「謝罪していただけるのかどうかと言うことです」
「そりゃあ、そっちが謝ったらな」
「なるほど。では、このお話をする意味はまったくありませんね」
「んだな」
「それでは、ご用がないと言うことですので、わたくしはこれにて失礼致します」
まあ、そうなるよな。
謝る気のねえヤツに呼ばれて、自分から謝るなんてできっこねえ。にもかかわらず、呼び出されたんじゃあ無意味もいいところだ。
オレは意味のない話から去ろうとする七夏を見送るほかなかった。
……そういえば、七夏ってなんでオレなんかに付き従ってんだろ?
不意にそんな考えが脳裏をよぎる。
いままで考えたこともねえ。
七夏がいるのが当たり前で、なにかあれば七夏が手伝ってくれて、七夏が後始末をしてくれる。
オレにとっちゃそれが普通だったってことか?
その答えが知りたくなり、気付けば遠ざかる七夏の後ろ姿を呼び止めていた。
「おい、七夏。ちょっと待て」
当然、七夏は20メートル歩いた先で振り返った。
小さくなった物影が秋風に吹かれ、七夏の長い髪をゆらす。そんな情景を見ていると、七夏はすぐにオレのところまで戻ってきた。
「まだなにか?」
「ずっと聞きたかったんだけどよ。オマエさ、なんでオレなんかの側付きになろうと思ったわけ?」
「なにを仰ってるのですか。わたくしと雪緒様は同い年である以上、学校に行くにも都合が良いという旦那様の計らいじゃございませんか」
「オレが聞きてえのはそういうことじゃねえんだよ」
「では、どのような事柄がお聞きになりたいのですか?」
「だからさぁ~」
あ~モヤモヤする。
コイツと話してると、時折イライラしてしょうがねえ。でもな、ここで怒ったってヤツから肝心の話を聞き出すことはできないのも事実。
我慢するっきゃねえのか?
「本音では、オレと一緒にいるのがイヤなんだろ? だったら、最初から断っておふくろか姉様たちの側付きにしてもらえばよかったじゃん」
「…………」
「あ、あれ? 七夏?」
ところが、その話をした途端に七夏は黙っちまった。
あれ? なんか地雷ふんだ?
いつもなら、サラリと答えを返すところなんだが……。オレは戸惑って、うつむく七夏を何度も呼び掛けた。
「おい、なんだよ。気持ちが悪いから返事してくれよ」
「…………」
「もしもし? お~い、七夏さん」
「……雪緒様はご存じですか?」
「は? なにが?」
「わたくしがどんな思いで、どんなことを考えて、雪緒様を見てらっしゃったかご存じなのですか?」
「だから、なにが言いてえんだ」
急になにを……?
ワケがわかんなくて、とっさに固まっちまったじゃねえか。けど、七夏も突然感情を高ぶらせてどうしちまったんだよ。
オレはどうしたらいいのかわからず、七夏がしゃべるのを待った。
「正直、莉音には嫉妬してます――でも、それ以上に許せないのは……」
しばらくして、七夏の口から出た妙な言葉。
コイツはいったいどういう意味だ?
「なんでオマエが莉音に嫉妬してるんだよ――意味わかんねえし」
「……もういい……」
「は? だから、なにを言って」
「もうこうなった以上、実力行使に出るしかありませんね」
「実力行使って、オマエ――」
と言い切ろうとした直後だった。
「フゴッ」
突然、息が苦しくなった――。
正確に言えば、七夏の唇に塞がれたのだ。そして、抵抗する間もなく、七夏の舌がオレの舌に絡んできた。
ねっとりとした唾液が妙に甘くイヤらしく感じる。
寸刻して、その唇は離れた。
代わりに失ったのは、オレという人間の冷静さ。
なにがどうなったのかハッキリとわからず、ただ七夏に翻弄されるがまま時間を浪費している。
――そんなことを感じるだけだった。
「な、な、なんだよ……。オマエ、なにをして――」
「雪緒様も案外脆い者ですね」
「だから、なにを言って……」
ビリッとした電気に全身がしびれさせられる。
なにが起きたかを単刀直入に言おう――七夏がオレの乳房を揉みしだき、そこにある突起を制服越しにつねったのだ。
「テ、テメエ……やめ……ひあっ……そんな……とこ……さわって……んじゃね……あん……」
「フフッ……。イヤらしい声が漏れてますね?」
「ふざけんな! こ、これ以上やるなら、ただじゃおかねえからな?」
「無理です。さしずめ大貧民の革命というヤツですか?」
「七夏ぁ~あとで覚えてろよ」
悔しいが、オレはこの快楽に勝てそうにねえ……。
七夏のヤツ、いったいどこでこんなこと教わったんだよ? まさか男ができて、それで最初から知ってたんじゃねえだろうな。
だけどよ、どんなに考えようともオレの憶測の範疇だ。
七夏に聞こうにも、ヤツは次々と翻弄しようとしやがる。
「くっ……。や、やめろ!」
どんなに言っても、七夏は辞める気はねえみてえだ。
このままじゃマズいぜ。
徐々に押し寄せる言い知れぬモノに俺自身が飲み込まれちまいそうだ。どうにかして反撃しねえとヤツの思うがまま。
しゃーねえが、ここは七夏を騙すしかない。
「あ! 誰か来た!」
とっさにオレは叫んだ。
もちろん、こんな静かな場所で叫べば、ちっとばかし響くし、七夏も驚いて振り返ることだろう。
そして、予想通り七夏は背後を振り返った。
――チャンスだ。
オレはその一瞬を見逃さず、七夏の顔が見返ると同時に唇を塞いだ。
「んんっ!?」
くぐもった声が耳をちらつく。
きっとコイツも目を見開いて物凄く驚いてんだろうな。そして、自分が反撃されるとは予想だにしてなかっただろうに。
オレはそれだけがうれしかった。
舌を這わせ、七夏の舌に絡みつける。
同時に喉の奥の奥の方を目掛けて唾液を流し込み、無理矢理服従させようと試みる。
ねっとりと、
ゆったりと、
ぐったりとするまで七夏にキスをする。
どのぐらい時間が経っただろうか……?
俺が唇を話して七夏の顔を見たとき、ヤツは溶けたアイスクリームみたいにだらしない顔をしていた。
「今度はオレの番だな」
「ゆ、雪緒様……」
「もう好き勝手はやらせねえぜ」
「こんなことをしても、わたくしの方が上手……ヒィャン!」
「フハハッ! なんだよ、その声は?」
お返しとばかりに乳首をつねる。
どうやら、七夏もここは弱いらしいな。同じってのは釈然としねえが、反撃の一手としちゃ使わないわけにはいかねえ。
「革命失敗だなぁ? あ、これって革命返しってヤツ?」
「……くっ……こんな……わたくしが……どうして、こんな目に……」
「オマエが先に手を上げたんだろ? だから、コイツはオレなりの意趣返しってワケだ」
どうにか成功したらしい。
っていうか、弱々しい顔を見せる七夏は初めて見るな。コイツ、病気以外で弱ってるときってこんな顔するんだな。
……なんかちょっとそそるかもしれん。
オレはさらに七夏を責め立てた。
「んあっ……やめ……て……」
「もうしないって誓え。今回はそれで許してやる」
「……ち、誓います……だ……だから……ひゃんっ……」
あ~なんかスッキリする。
こういうのを征服欲に満たされるっていうんだろうな。
一通り七夏の体中をくまなくを触ってみると、あちこちでいろんな反応があって面白かったけどな。
すべてが終わった頃には、七夏は疲れ切った表情を見せていた。
肩を上気させ、唇からだらしなく唾液を溢れさせている。そんな光景を見て、なぜだか自然と顔がニヤけてしまう。
「革命ならずだなぁ~七夏」
オレの中で、どす黒いなにかが沸き立った気がした。
落書き#弐「俺様令嬢とツンクールメイド」 丸尾累児 @uha_ok
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます