第2話 女

「あの。」

誰も、いないはずだった。

誰にも見られず、誰にも知られずに死ぬはずだった。

まさか声をかけられるなど、夢にも思っていなかった。

死ぬのを止められるのかと思ったが、青年の表情を見る限りそうではないらしい。

何の感情も映していない瞳だった。

だからだろうか。

「何かしら。」

親近感が湧き返事をしてしまった。

「特に用はない。ただあんまりにも瞳が綺麗だったもので少し話をしてみたくなったんだ。」

淡々と答える私に淡々と返す彼。

彼は続けた。

「どうか入水自殺する前に、今何を考えてるとか、なんてことはない話をしないか。少しの間その瞳を見させてはくれないか。」

すぐ、死ぬはずだった。

「いいわよ。」

何故だか口は勝手に動きそう返していた。

「あなたは私の何が知りたいの」

男は何の躊躇いもなく真っ直ぐにこう言った。

「あなたの全てさ。」

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サンドリヨンの夢 雨宮 千流(ちる) @akineko3chiruammy

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