第21話 少年と幼馴染と婚約者の関係

「――って、具合に色々あって。 オイラ、苦労したよ……」


 伊織は久那神社に敷地に在る自宅の自室にてユティーファを交えて、幼馴染である一番・ひとつがい・りんにこれまでの経緯を説明した。


 そこでユティーファが疑問に思っていたことを鈴と伊織に問う。


「……二人は随分と仲が良いが、もしかして――二人は恋人同士なのか?」


 ユティーファのその問いに、一瞬の間の後、二人は爆笑した。


「オイラと鈴が? あはははっ! ないない! それはないよ!」


「うふふふっ! そうね。 伊織ちゃんとはどちらかと言うと、家族って感覚だね」


「そうだね。 それに、鈴には好きな人がいるし」


「はわわわっ!? な、何言うのよ!」


 鈴は慌てて伊織の口を塞ごうとする。

 

 耳ざといユティーファは、狐耳を傾げて自分の予想したことを鈴に尋ねた。


「もしかして、リンには他に好きな人がいるのか?」


「……うん」


 顔を真赤にして俯き、小さな声で是と答える鈴。

 それ以上は何も答えず沈黙する。

 それに見かねた伊織が代わりに答える。


「鈴の好きな人は、この国――日本帝国軍に在籍してる、鈴の伯父さんの部下で、神薙・総一朗かんなぎ・そういちろうって人なんだ。 以前、中国っていう外国が、日本に向けて核兵器――一発で都市を焼け野原にする武器なんだけど――それを日本帝国に向けて発射する直前、単身中国に乗り込んで、中国全土に全ての核ミサイル施設を全て破壊したんだよ! 凄い人なんだ!」


「……そうだね。 でも、その時の無理が祟って、身体に障害を負ってしまって。 それで軍を引退する事になったんだ……」


「で、その人――神薙さんを伯父さんが鈴の家に連れて来て。 その時、一目惚れしたんだって」


「も、もう! 伊織ちゃん! そういう恥ずかし話、簡単に人にバラさないでよっ!」


「あははっ! ゴメンゴメン!」


「リンはその人に自分の気持を伝えたのか?」


「ウウン、まだ……。 だって私、まだ子供だし。 それに神薙さんは二十七歳だから、全然釣り合わないよ……」


「ワルプルギスではその程度の年齢差は問題にならないぞ?」


「に、日本では問題あるのっ!」


「そうなのか、伊織?」


「まぁ、ね。 日本帝国では成人年齢は十五歳だけど、外国では大体十八歳なんだ。 それで、日本でも年齢を引き上げようって話が持ち上がっているんだよ。 理由は、十五歳じゃ成人に成り立てで経済的に独立は難しいし。 それに女性は体がまだ未成熟の場合、出産は母子共に危険があるからね」


「そうなのか……だが、私はもう十分成人だ。 だから問題ない。 いつでも伊織の求めに応じるぞ!」


 ユティーファが笑顔でとんでもない事をぶっ込んできた。


「い、伊織ちゃん、ユティーファとそういう関係なの!? 二人も婚約者がいるのに!!」


「いやいやいや!! ユティーファとはまだそんな関係じゃないからっ!!」


「”まだ”!? ”まだ”という事はそういうつもりあるんだ! 伊織ちゃんのドスケベ! 淫乱! 女の敵!」


「ヒドイッ! なんでオイラ、ここまでボロクソに言われなきゃいけないんだっ!?」


 ”理不尽だ!”と心の中で叫ぶ伊織であった。




☆☆☆☆☆☆




 金髪・翡翠色の瞳と銀髪・琥珀色の瞳の二人の女性が会議の場で報告を行う。

 それを驚きを持って聞いていた会場の人物達――特に上座に座る老境に入る老人が複雑な感情を吐き出すように溜息を吐いた。


 老人は報告を終えた女性達に労いの言葉を掛ける。


「ハァ……そうか。 二人共、大義であった。 引き続き、頼む」


「「はっ!」」


「……このような重大な役目――適任というだけで二人に押し付けること、申し訳なく思う」


 今、二人の目の前に座る今上きんじょ天皇・玄妙げんみょうと異世界の王であり、神であるヴェデルの話し合い結果――姉妹二人の内、どちらか相性が良い方が伊織の下に嫁ぐ――事前にそう決められていた。


 だが結局は姉妹揃って嫁ぐことに決まった。


「いえいえ。 これはわたくし達の望みでありますわ」


「むしろ、他の方達に譲るつもりは毛頭ありませんの」


 二人は決然とした態度でハッキリと言い切る。





 瞼を閉じれば思い出す。


 二人が初めて伊織と会った時の事を。


 神官服に身を包んだ伊織が二人を出迎えるため、久那神社の御神木の前で佇む幻想的な光景。


 まるで世界と一体と化した透明感のある美しい少年の姿。


 触れれば壊れてしまいそうな脆さと繊細さと儚さとを併せ持つその少年に、二人は一目見て心奪われ虜となった。


 見合いの結果、二人は自分が伊織の婚約者になる事を心に堅く誓った。


 そして――


「「この話」」


「わたくしが!」


「あたくしが!」


「「お受け致します!!」」


「「……」」


 互いに向き合い、微笑みながらも目が笑っていない姉妹。


 この後、人生で初めて行われた姉妹喧嘩は壮絶であったと玄妙とヴェデルは語る。


 一歩も譲らぬ姉妹。


 二人の決意と熱意に心打たれた(実際には喧嘩を止めるため、困り果てた)玄妙天皇とヴェデルは二人を伊織の正式な婚約者になることを認めた。





 回想が終わると姉妹は閉じていた瞼を同時に開き、足元の床にそれぞれ魔法陣が展開――二人を包むように徐々に上昇し、姿を変えてゆく。


 姉は金髪翡翠色の瞳の女性は黒髪碧眼で紅いつむぎを纏った少女に。


 妹は銀髪琥珀色の瞳の女性は白髪紅眼の蒼い紬を着た少女に。


「「それでは、失礼致します」」


 二人はそう言うと玄妙に頭を下げ、会議室から退出した。


 二人が部屋からいなくなった後、玄妙天皇はポツリと呟く。





「……断ってくれたら――もっと良い相手に交代できたのに……」




☆☆☆☆☆☆




「伊織様~~~、遊びに来ましたわ!!」


「お相手して下さいましなの~~~!!」


 伊織の部屋ではユティーファに服を剥かれている最中の伊織。


「だっ、ダメだって!! ユティーファ!!」


 鈴は目を押さえながらユティーファを静止する。

 二人が部屋に入ってきたのに気づいた鈴は懇願する。


「あっ! 真理様、美七様! 丁度いい所に! ユティーファを止めて下さい!!」


「「仲間ハズレは嫌です」」


「あれ?」


「わたくし達もっ!!」


「混ざるですのっ!!」


「さらなる混沌がやって来た!?」


 久那家は今日も平和だった。

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ブロック万能説 真田 貴弘 @soresto

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