第36話一緒にいる理由
青谷が目覚めたとき、そこは病院だった。
あの後、少女yと共に近隣住民に発見された青谷は病院に運ばれたのであった。あの時は、今までにないぐらいに他人に感謝した。そして、連絡手段がいかに大切かということも実感した。もう二度とあんな思いはしたくない。
ベットとベットを区切る白いカーテンを見つめながら、青谷は自分の妹に呼びかける。
「プロジェクトz。ここにいるんだろう」
青谷の呼びかけに、脳内に甲高い声が響く。
「ええ、ここにいるわよ」
自信たっぷりな声。
その声に、プロジェクトzを感じる。
決して離れることはできない、青谷の妹。
「おまえ、大丈夫か。ぐー、すか、寝ていたけど」
「ちゃんと寝たからすっかり回復したわよ。それより、アオタニは?」
プロジェクトzは、少しばかり心配そうな声を出す。
地球人の肉体が思ったより軟弱だったために心配しているらしい。
「全く大丈夫じゃない。骨折がすぐに治ると思うなよ」
最低でも一ヶ月はかかるのである。
だが、プロジェクトzは不思議そうな顔をしていた。
「肉体や命って、意外と不便なのね」
「そうなんだ。以外と不便なんだよ。だから、怪我しないように戦ってくれ。おまえも痛いのは嫌だろ」
俺は嫌だからな、と青谷は言った。
「私は痛いのが好きよ。だって、生きてるって感じがするし」
プロジェクトzの言葉に、青谷はがっくりとする。
「おまえは、絶対に長生きできないタイプだな」
というか、骨折したときはプロジェクトzも割と痛がっていた。おそらく、のど元を過ぎたから熱いのも忘れてしまったのであろう。これから大丈夫だろうか、と青谷はため息をついた。
「えっ。こんなに努力して生まれたのよ。そう簡単には死なないわよ」
プロジェクトzはそういうが、残念ながら彼女のように怪我を恐れないような性格では長生きは望めないだろう。そういうことも少しずつ教えないといけない、と青谷は思った。
「青谷、意識は戻ったか?」
病室に、石田がやってくる。
その手には、ビニール袋があった。石田は、青谷の隣にあったパイプ椅子に座る。見舞客が自由に座れるようにいつも置いてあった椅子だった。そして、石田はおもむろにプリンをビニール袋から取り出して食べ始めた。その光景は、どこかで見たことがあるようなものであった。
「というか、今度も俺とプロジェクトzの分は買ってきてないんだろ」
「もちろん」
石田は、自信を持って答える。
何に自信を持っているかは不明である。
「ねぇ、前から思ってたんだけど石田って変人よね」
プロジェクトzが、ひっそりと呟く。
石田は何かを察したらしく、使い捨てのスプーンを青谷に投げつける。
「おい……」
まったく痛くはなかったが、投げつけられればいい気分ではない。
「今のは、プロジェクトzに投げつけようとしたんだ」
おまえらが一つなのが悪い、と石田は言った。
石田は、あいかわらずもぐもぐとプリンを食べ続けている。
「青谷……俺は少女yと協力してた。まだ、言ってなかったよな?」
石田は、そう呟く。
その言葉に、青谷もプロジェクトzも驚いた。そして、次に少女yと石田がいつごろ協力関係にあったのかと考えた。少女yは、長らくプロジェクトzとは敵対関係にあったのだ。
「俺は、青谷とプロジェクトzが引き離そうとしてたんだよ。だって、プロジェクトzと一緒にいたら、おまえなんてすぐに死ぬだろ」
だから、石田は少女yに協力していたのだという。
「協力って、どういうことなの?少女yには、あなたの助けなんていらないでしょう。石田って、戦力にならないのに」
プロジェクトzの言葉はあんまりだが、彼女の言い分も最もである。
少女yは、石田の協力がなくとも十分に強いはずである。
「姿をごまかすためだ。少女yは、顔が割れていたからな。俺の中に入って、それをごまかせるようにしてたんだ」
石田の言葉に「ズルイ!」とプロジェクトzは叫んだ。
「そんなことされたら、不意打ちとかやり放題じゃない!!あの人、ものすごくズルイ!!」
「いや、でも……実際には不意打ちはしなかったわけだし」
今は友好的な雰囲気になっているため、プロジェクトzが少女yを嫌う展開を青谷は避けたかった。
「むう、なんか釈然としないわね」
相変わらず、プロジェクトzはむくれていた。
こういうところが子供っぽい。一体化して大人の肉体に近づいたのだから、精神のほうも成長しても良さそうなものなのだがそういうわけにはいかないらしい。
「でも、プロジェクトz。おまえは、結局は青谷を助けてくれたよな」
怪獣の尻尾で、青谷は貫かれた。
それを助けてくれたのは、プロジェクトzである。
「思えば、おまえは最初から強盗に襲われた青谷を助けてくれたんだもんな。二回もおまえは、青谷を救った」
どうしてだ、と石田は尋ねる。
プロジェクトzは肉体の主導権を譲って欲しい、と言った。
「自分の言葉で石田に伝えてやりたいの」
「分かった。というか、今はおまえの体でもあるんだから断りを入れる必要はないんだぞ」
「親しきなかにも礼儀あり、っていうじゃない」
青谷は、プロジェクトzに肉体の主導権を譲り渡す。
青谷の肉体は、透明感のあるブルーに変化する。
プロジェクトzの肉体である。
一体化してから、主導権のあるほうに肉体が自然と変化するようになった。どうして、そうなったのかは分からないが青谷たちにはそれがとても自然なことのように思われた。
「だって、声が聞こえたんだもの。本当よ」
「声?」
プロジェクトzの言葉を石田は、不思議そうに繰り返す。
「ええ、そうよ。私は、その声を聞いてやってきたの。怪獣たちが地球を見つけたってこともあったけど、声がするほうにいくのは当然でしょう。だって、助けてって聞こえてきたのだから」
プロジェクトzは、わずかに首を傾げる。
その仕草が、石田には笑っているように思えた。
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