第35話僕らの勝利
最後の怪獣が倒れたことを確認し、プロジェクトzは自身の肉体を小さくした。青谷と同じ背丈に縮み、そして姿を青谷のものに戻す。コッチの姿にも戻れたのか、と青谷は関心していた。
「なんだか、生まれ変った気分だ。っていででででぇぇ!!」
痛みが遅れてやってくる。
プロジェクトzが骨折したので、青谷の肉体でも骨折していた。どうやら完全に一体化したせいで、肉体の変化で傷を治すという裏ワザが使えなくなったらしい。
「それぐらいの痛みで大騒ぎしないでよ!」
プロジェクトzは、青谷の悲鳴に呆れていた。
「アドレナリン全快だったおまえとは違うんだよ!というか、おまえって痛みに強すぎないか!」
割と平然としていたよな、と青谷は叫ぶ。
「えー、地球人の神経が軟弱なのよ」
プロジェクトzは、頬を膨らませていた。
「……なぁ、プロジェクトz。おかえり」
青谷の言葉に、プロジェクトzは虚を突かれたような顔をしていた。
「それで、これからよろしくな」
「ええ……もう、絶対に離れられないんだからね」
軽やかなプロジェクトzの声が響く。
「ねぇ、私たちなんだか兄妹のようね。だって、どんなことがあっても私たちは離れることができないんだもの。まるで、同じ血が流れているようでしょう」
青谷は、プロジェクトzの言葉をぼんやりと考えた。
「そうだな……ああ、そうだな。プロジェクトz、おまえは俺の妹だ。……さてと、わが妹よ。どうやって、自宅まで帰ろうか」
「ていうか、ここはどこだ」と青谷は呟いた。
プロジェクトzが着地した土地は、まったく土地勘が無い場所だった。人気は無いので、わざと人目が付かない場所を選んで着地したのであろう。幸いにして日本で民家もあるのだが、どこなのかは検討も付かない。
「たぶん、隣街あたりね」
「その割には見覚えがないぞ……」
「数県ぐらいはズレてるかも」
それはもう隣町とは言わないのではないだろうか、と青谷は思った。
「どうやって、帰ればいいんだよ。そのまえに、病院にいかないとだけどな」
苦笑いを零す青谷に、手が差し伸べられる。
その手は、少女yのものだった。
地球人の少女の姿をした、少女yのものだった。
「助けはいる?」
少女yは、尋ねる。
その言葉を聞いたとき、青谷のなかにいるプロジェクトzはびっくりしていた。
「助けてくれるの?」
プロジェクトzは、ピンチのときに誰かが助けてくれるということを知らなかったようだった。思い返せば、彼女はずっと一人だった。存在することを同じ種族の人間に疎まれていたから、一人でいるしかなかった。
けれども、今は違う。
プロジェクトzにだって、彼女を助けてくれる存在が出来た。
青谷は、少女yに手を伸ばす。
「悪い。俺もプロジェクトzも動けそうにない」
「そう……悪いんだけど」
少女yは言葉を切った。
「それは、私も同じ」
少女yは倒れる。
あんまりな光景に、青谷は目を疑った。
「……なんで?」
驚く青谷に、少女yは答える。
「私もかなりの数の怪獣と戦ったのよ。疲れて動けなくなるのは当然よ」
「だったら、どうして他人を助けようとしたんだ!」
共倒れじゃないか、と青谷は叫ぶ。
「少女y。携帯を出せ。それで石田か救急車を呼ぶ」
「悪いわね。地球の通信機器なんて持ってないわよ」
ちなみに、青谷のスマホは壊れているので連絡手段はない。
本当にどうしよう、と途方に暮れるしかなかった。
「もうこのまま叫びまわっていたほうが、誰かが助けてくれようね」
青谷のなかで、プロジェクトzは欠伸をする。
どうやら、戦ったことで疲れたらしい。思えば、プロジェクトzが疲れたのはこれがはじめてである。自分と一体化したせいなのだろうか、と青谷は考える。
「じゃあ、あとはよろしく」
「ちょっと待て。おまえ、人に丸投げしたな!!」
青谷の怒声にも、プロジェクトzは答えない。
どうやら、眠ったらしい。
「……プロジェクトzは、休んでいるの?」
少女yの疑問に、青谷は頷く。
「こんな状態で、よくも休めるものだよな」
連絡手段もなく、道端で倒れるなどかつてないピンチである。
誰でもいいから助けてほしいのに、残念ながら誰も通りかからない。
「怪獣とアレだけ戦うのは、大人でも辛いわ。休むのは当然よ」
少女yは、プロジェクトzに寛容であった。
いや、それだけのことをプロジェクトzはしたのである。
「貴方たちは、これからどうするの?」
少女yは尋ねた。
青谷は、素直に答える。
「どうするって、怪獣がきたらまた戦う。それで、こなかったら普通に暮らす」
この地球には、貴方の妹を殺した同胞もいるのに。
と少女yは聞きそうになった。
だが、寸前のところで少女yは言葉を飲み込む。もう、青谷は決めてしまっているのだ。だから、恐れることはないだろう。選ぶことすら出来なかった少女yとは違って。
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