第34話守られるもの

 石田は、スマホで各地の怪獣たちが倒されていくのを見ていた。

 プロジェクトzと青谷は、順調に怪獣たちを倒していく。だが、半分を倒したところでプロジェクトzは目に見えてバテはじめた。


「今までは、一回一体ずつだもんな」


 長期戦の経験がプロジェクトzにはない。


 そのため、ペース配分を間違ったらしい。しかも、足まで怪我している。このままでは、プロジェクトzは負ける。ごくり、と石田は唾を飲み込んだ。


「……るな」


 石田は、声を振り絞る。


「負けるな!プロジェクトz!!」


 彼女が負ければ、青谷が死ぬ。負ければ怪獣たちに街を破壊されて、自分たちの生活が成り立たなくなる。そんな考えは、何一つ浮かんでこなかった。


 ただ、勝って欲しかった。


「立て!!」


 この応援が届かないことは知っている。

 プロジェクトzたち戦っている場所は、今はあまりに遠い。


 それでも、叫ばずにはいられない。


「がっ、がんばれ!!がんばれ!」


 立ち上がってくれ、と願わずにはいられない。


 この世には、青谷が守ることで彼自身が傷つく人間も多くいる。


 それでも、今だけは祈るように叫ぶのだ。


「がんばれ!!」


 スマホの画面のなかで、少女yが現れる。


 彼女はプロジェクトzを捕らえて、宇宙へと旅立ったはずである。プロジェクトzが再び地球に逃げてきたから、それを追ってきたのだろうか。だが、それにしては少女yは怪獣の攻撃からプロジェクトzを庇ったように思われた。


「少女y……」


 彼女は、助けに来たのだろうか。


 もし、そうだとしたら彼女の立場になにか変化があったのだろうか。


 少女yは、プロジェクトzの代わりに戦う。


 さっきまで、バテていたプロジェクトzとはまったく違うキレのある動きであった。少女yは自らの体を傷つけて、自分の身長よりも長い棒を出現させる。


 少女yは、その棒を操る。


 先が尖っているわけでもなく、槍や長刀のように金属が付いているわけでもない。ただの棒である。それでも、少女yが扱えばそれは武器となった。


 少女yの使用する棒は、彼女の意のままに動く。


 怪獣の頭部を殴打し、そのまま怪獣の足をすくう。


 怪獣は横転し、少女yはそのまま怪獣の顔面を潰した。


 鮮やかな手腕であった。


「……この人って、前も出てきたピンクの人ですよね」


 甲高い声がして、石田は振り向く。


 そこには、美鈴がいた。

 彼女は後ろから、石田のスマホを覗き込んでいた。


「美鈴、どうしてここにいるんだ!」


「逃げてきたんです。でも、先輩はどうして……こんなところで画像なんて見ていたんですか。ここだって、さっきまで近くで怪獣が暴れてたのに」


「その怪獣は、プロジェクトzが倒した」


 石田の言葉に、美鈴は目を丸くする。


「なんですか、そのプロジェクトって?」


「青色の宇宙人の名前だ。あいつの名前は、プロジェクトz。俺たちを守ってくれた、俺たちの味方だ」


 美鈴は、可笑しなものを見るような目で石田を見ていた。


「まるで、知り合いみたいに話しますね……」


「アレは、青谷でもあるからな」


 石田の言葉に、美鈴は一瞬だけ恐怖に染まった表情をする。


「未来なの……死んだ未来が生き返ったの?」

 その驚きは、石田にとって想定外のものだった。だが、少し考えて理解する。美鈴にとって、石田といえば妹の未来のことなのだ。虐めたが相手が生きているかもしれない、というのはある種の恐怖なのかもしれない。それとも、やり直すチャンスがあるという希望なのか。


「違う。死人は生き返らない。生物っていうのは、ただ生まれるだけだ」


 石田は、空を見上げる。


 まるで、そこに巨大なプロジェクトzがいるかのように。


「あれは、未来の兄だ」


「え……」


 美鈴は、戸惑っていた。


「俺たちは、未来の兄に守られているんだ」


「……」


 美鈴は、なにも答えられない。


 答えることができないのだろう、と石田は思った


「これからは、守られても……守っても後悔しないような生き方をしてくれよ」


 石田は、美鈴から離れる。


「弱い奴らがいけないんですよ!!」


 美鈴は叫ぶ。

 まるで、石田を繋ぎ止めるように。


「ちょっと悪口で、死んじゃうような弱い奴らが悪いんです!だって、そんな弱い奴らに気を使って生きていたら、私たち普通の人間は何にもできないじゃないですか!!」


 そうかも知れない、と石田は思った。


 この世に弱い人間は、山のようにいる。彼ら全てに、心を砕くことはできないだろう。美鈴のように、他人を無意識に傷つけていることだろう。


 それでも、あえて石田は言う。


「怪獣やプロジェクトzそれに少女yから見たら、俺たちなんて全員が弱い虫みたいなものじゃないか。それでも……あいつらは俺たちを守ってくれる。俺たちを守って、何も出来ないって叫ぶこともなくな」


 だから変るべきだ、と石田は言った。


「俺たちは、守られることしかできないのだから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る