第27話戦えない理由
青谷と石田は、そろって顔を上げた。
遠くで、とても大きな物音が聞こえたのだ。その音は、どこか聞き覚えのあるものであった。だから、顔を上げた。
その物音の発生源は遠くだった。
とても遠くに、怪獣が落ちたのだ。
その巨大な怪獣は、街を歩く。ただ歩いているだけで、その怪獣は街を荒らしていく。青谷も石田も呆然としていた。今までは、彼らには戦う手段があった。
だが、今はそれがない。
そのことを石田も青田も無意識に歯がゆいと感じた。
「少女yは何をやってるんだ……」
石田は、自分のスマホを取り出す。
そして、驚きに目を見開いた。
青谷は、石田のスマホを覗き込む
石田は、リアルタイムで流れている動画を見ていた。その動画は、青谷たちが見ている怪獣と違った。そして、その動画は遠い場所でとられているようである。
「こんな動画がいくつも上がってる。……世界中で怪獣が同時に現れてる」
石田は、恐れで手が震えていた。
今まで、こんなことはなかった。
怪獣は、一度に一回のみ。だからこそ、少女yもプロジェクトzも単体で戦えていた。だが、今は彼女たちの力を借りたとしても――倒すのは酷く難しいだろう。もしかしたら、数の暴力で負けるかもしれない。
「何が起こっているんだ」
青谷は、呆然としている。
こんなことは、今までなかった。
「逃げるぞ、青谷」
石田は、青谷の腕を掴む。
今までとは、違うなにかが起こっている。それだけは、二人にも分かった。そして、その違うなにかに対抗するだけの力を石田も青谷も持っていなかった。
石田は、逃げながらも出来るだけ情報を集める。
スマホで見たネットの世界では、同時に出現した巨大な怪獣たちについての情報が錯綜していた。世界で同時に現れた怪獣の数は、恐らくは九体である。世界中に現れた総数だから数は少ないかもしれないが、それでも石田は追い詰められたような気がした。
まだ、石田の大切なものは何一つ壊されていない。
けれども、もう全てが怪獣によって壊されてしまったかのように思われた。
「石田!」
青谷に、石田は突き飛ばされる。
その瞬間に、石田は見た。
自分たちの前方にいたのは、小型の怪獣であった。小型といっても、人の背丈ぐらいの大きさはあった。尻尾が鋭く尖っている怪獣であり、その尻尾で青谷の肉体を貫いていた。
青谷に庇われたことに、石田は愕然とした。
石田は青谷を自殺させないために、プロジェクトzと引き離した。
だが、青田には石田を庇った。
庇って、怪獣の尻尾に貫かれてしまった。
血を流しながら、青谷は地面に倒れる。
「助けてくれ……」
石田は、ただ呟く。
「助けてくれ……y!!」
少女yに、石田は助けを求める。
だが、少女yは石田の前に現れなかった。
「助けてくれよ……怪獣なんて、俺たちがどうにかできることじゃないだろ」
自分たちの人生に今まで怪獣などなかった。
地球にはいない生物であった。
それらを対して、立ち向かうことはできない。少女yやプロジェクトzのような協力者を得て、初めて戦うことができていた。
だが、今は二人ともいない。
「どこかにいけ……」
石田は、青谷を刺した怪獣をにらみつける。
武器といった武器は無い。
それでも、今は彼以外は怪獣と戦える人間はいなかった。
石田は、持っていたスマホを投げつける。
だが、怪獣はそんなものでダメージを受けてはいなかった。だが、怪獣は石田が自分と敵対する生物であると認識したようである。獣のような吼えた怪獣は、石田に向って走ってくる。だが、怪獣は青谷からは離れた。
このまま石田は、怪獣を青谷から引き離そうと思っていた。
そのとき、空から何かが降ってきた。
それは、怪獣の脳天に当たる。巨大なものではなかった。だが、遠い空から落ちてきたソレは怪獣の頭をぐしゃりと潰した。
「なんだよ、これ……」
落ちてきたものは、プロジェクトzを入れたはずの機械だった。
宇宙でなにか起きているのか分からない。
だが、何かが起こっているのだ。
そうでなければ、プロジェクトzを入れていた機械が地上に落ちてくるはずがない。
「プロジェクトz……」
元はと言えば、彼女こそが全ての始まりであった。
元凶そのものだった。
だが、今は彼女しかいなかった。
「助けてくれ。青谷を助けくれ!!」
石田は、無慈悲な神に対するようにスマホの中にいる女の子に祈った。
きっとプロジェクトzに聞こえていないと知りながら。
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