第23話方針決定
「もしもプロジェクトzが地球を守りヒーローになったとしたら、青谷の妹を殺した奴を守ることに耐えられると思うか?」
石田は、そう尋ねた。
「貴方は、こう聞きたいんじゃない?アオタニは自分の妹を殺した相手を守れるか、どうか……。その答えは、私よりも貴方が知っているわ」
少女yは、ため息をついた。
聞くまでもないだろう、と呆れがあった。
「貴方はプロジェクトzに罪がなくとも、アオタニとプロジェクトzをただ引き離したいのね」
「そのために、おまえに協力した」
石田にとって、プロジェクトzが罪を犯したかどうかなど関係ないのだ。
ただ、青谷と引き離したいだけ。
「なるほど、君は私の娘の罪はどうでもいいわけだね」
石田の目の前に、男がいた。
その男は、穏やかに笑っている。季節はずれのコートを着込んだ怪しい男であった。
「隊長Z……」
少女yは、身構えた。
その緊張が石田にも伝わる。
「敵か?」
石田は尋ねる。
少女yの反応は、そうとしか思えなかった。だが、少女yの返答は予想外のものだった。
「聖女xの上司で、私たち組織のリーダーよ。つまり、ものすごく偉い人」
その偉い人間が、石田の目の前にいる。
そして、聞き捨てならない言葉があったような気がする。
「今、自分の娘って」
隊長Zは、たしかにそう言った。
「ああ、そうだよ」
隊長zは、にっこりと笑う。
「プロジェクトzは、私の娘だ。そして、私は自分の娘が母親を殺したとは考えていない。だが」
隊長zは、言葉を切った。
石田は、警戒する。
「プロジェクトzが、この星の生命体と友好的に接することが出来ているとも考えていない」
青谷の生命を狙うプロジェクトzは安全とはいえない。そう主張する石田に対して相変わらず、隊長Zは微笑んでいた。
「おまえは、何を考えているんだ?」
考えの読めない隊長zに対して、石田は尋ねる。
「プロジェクトzを普通のデータに戻して、ちゃんと管理する。そして、私は自分の娘を取り戻す」
石田には、隊長Zの言葉の意味が分からなかった。
だが、少女yには分かったらしい。
「普通のデータ……ごめんなさい、イシダ。肉体を貸して」
少女yの要請を受けて、石田は再び肉体の所有権を少女yへと受け渡す。石田の姿こそ変らないが、意識は少女yのものになった。
「最近の若者は、器用だね。私は恐くて他人と肉体を共有する気にはなれないよ」
隊長Zは少女yの様子を見て、そう言った。
そういうものなのか、と石田は少しばかり感心した。どうやら、少女yが行なったものは万人が行なうような手段ではなかったらしい。しかし、よく考えてみれば自分の肉体があるのだから、他人と肉体を共有するというのは嫌になるかもしれない。
「隊長、それよりプロジェクトzを普通のデータに戻すって……」
少女yが気になっていたことは、それらしい。
「ああ。今のプロジェクトzは青谷という脳に、半分データを移して徐々に彼の肉体を乗っ取ろうとしているからね。だが、元をたどればプロジェクトzはただのデータ。そのただのデータに戻すことは難しくはないだろう」
微笑む、隊長Z。
「可能か?」
と石田は少女yに尋ねる。
「たぶん、可能」と少女yは答えた。
「でも、あなたがプロジェクトzの父親だったなんて……」
少女yは、そちらのほうが信じられないようであった。
「あくまで、設定上のね」
隊長Zは、そう語る。
「それでも今となっては博士Bの忘れ形見だからね。出来る限りの保護はするつもりだよ」
隊長zは、本気のようである。石田としては、プロジェクトzを廃してくれるのならば誰でもいいので隊長Zの登場は喜ばしいものだった。
「でも、聖女xはプロジェクトzの捕縛を!」
しかし、少女yは聖女xのほうの命令を優先させたいようである。
「僕のほうが偉いよね?」
隊長Zは、少女yに尋ねる。
少女yは、黙り込むしかなかった。
「それに、プロジェクトzが博士Bを殺した証拠はない。調べなおしをするように部下に指令は出したし」
おそらくはプロジェクトzは、博士Bを殺してはいないだろうと隊長Zはいう。
「あの時の彼女はデータだった。直接的に博士Bを殺害できるわけがない」
隊長Zの言葉は、最もである。
データだけの存在に殺害は不可能だ。
「だから、隊長Zはプロジェクトzを保護するのですか?」
無罪のものを擁護するのは正しい。
けれども、それを手中で保護しようとするのは違うような気がした。プロジェクトzは、他の生命を踏み台にして自ら生まれ落ちようとしているのだ。危険生物であるのは間違いない。
「その前に、プロジェクトzを保護するんだよ。君は、この中にプロジェクトzを入れてくれればいいよ。プロジェクトzには、絶対にロックを外せなくなるパスワードが組み込まれている。博士Bは、それを使ってプロジェクトzを保存していたはずだから」
隊長Zの言葉に、少女yは戸惑った。
そんな少女yに、隊長Zはとある機械を持たせる。青谷の目には、それはスマホの機械にとても似ているように思われた。
「プロジェクトzは、このなかに入らないと思います。彼女は人間と機械に別れていますから」
少女yは石田から、青谷の脳とスマホに分かれてプロジェクトzが入っていることを聞いていた。
「知っているよ。だから、機械のほうを壊したらたぶんこっちに移ってくれるだろう。なにせ、その機械は地球上で最も高性能な機械だからね。たぶん、本能的にそれに入りたがると思うよ」
少女yは、少し考えていた。
そして、不安げに尋ねる。
「そんなに上手くいくでしょうか?」
「いくよ。地球の近いに、彼女は無理やり入っている。だから、広いところに入りたいものだろう」
隊長zの話を聞きながら、石田はありえるかもしれないと思った。
プロジェクトzは、スマホのデータを消している。逆に言えば、データを消さなければ入れなかったのだ。窮屈な場所は誰だっていやだろう。プロジェクトzが警戒すれば入らないかもしれないが、入るようにすればいい。
「……隊長Zは、聖女xが博士Bを殺したと考えているんですか?」
何かを恐れるように、少女yは尋ねる。
彼女にとって、一番恐れているところはソコのような気がした。
「他に考えられないだろう?」
少女yは、納得できないようだった。
聖女xは、少女yにとってはただの上司ではないようだった。憧れの人なのである。だから、聖女xが犯罪者であるかもしれないということに耐え切れないのである。
「聖女xは、私たち女性のことを考えてくれています」
「うん。それは知っているし、評価しているよ」
隊長Zは、微笑む。
「でも、許されないことは許されないだろう?」
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