第16話怪獣退治観戦

「プロジェクトzが、本来の姿に戻ったわ!」

 観覧車のなかで、少女yが叫ぶ。

 確かに、青谷が入ったと思われるフードコートから青いものが飛んでいった。

「私たちも行くわよ!」

「ここでは無理だ。観覧車のスタッフに顔を覚えられてる。いなくなったら、目立つぞ」

 なにせ、この観覧車に乗っている客は石田たちしかいないのだ。

「それに窓も開かないのに‥‥‥どうやって外にでるきだったんだ」

「こんなもの簡単に壊せるわ」

 観覧車を壊したら、それだけで目立ってしまう。

 どうやら、少女yには正体を隠す気というのが全くないらしい。思えば、石田への協力を仰ぐときも自分の正体を隠そうともしていなかった。

「あいつらが動くんなら、怪獣がでたんだろう。怪獣が出たんなら、ネットで映像が上がっているはずだ」

 石田がスマホで検索をすると、怪獣の映像が出てきた。さっそく青谷たちは現場に着いたようで、青い体で怪獣と戦う姿が確認できた。

「プロジェクトzが、戦ってるの?」

 少女yは、驚いたように声をあげた。

「ああ、知らなかったのか?」

 少女yは、頷く。

「だって……プロジェクトzは人を殺しているのよ。誰かを守るために戦うなんて、考えていなかったわ」

 たしかにそうか、と石田は思う。プロジェクトzが殺人を犯したと考えてみれば、彼女が怪獣退治をしているのは不思議に思えるかもしれない。

「どうして、戦うのかしら。彼女には、戦うメリットはないのに」

「さぁな。でも、あいつは最初から青谷を怪獣の前に連れてきた」

「守ろうと……しているのかしら?」

 なにを、とは石田は聞かなかった。

 プロジェクトzは、地球と言う星を守ろうとしているのかもしれないと石田にも分かったからだ。真っ当な生物であれば、プロジェクトzも悪い存在ではないような気はしていた。ただ、彼女の望みは誰かを犠牲にしてしまう。

 プロジェクトzは――青谷は、怪獣に勝利したようであった。

 怪獣は小さなビルほどの大きさだったが、あまり強くはなかったようだ。それとも、青谷がプロジェクトzの肉体を使うことに慣れてきたのか。

「彼女、随分と強いわね。知らされていたけれども、これは厄介かもね」

 石田を通して、少女yはスマホの画面を見つめる。

「知らされていたってどういうことだ?」

 石田は、少女yに尋ねた。

「プロジェクトzは、非常に優秀な個体として生れ落ちている可能性があると聞いているわ。男性が女性化して産んだ子供は、そういう傾向が高くなる確立が出ているそうよ」

 少女yの言葉に、石田は驚いた。

「男性が、女性化して?」

「ええ、私の星では男性のほうが多いの。だから、男性を女性にして子供を増やそうとしたの。プロジェクトzは、子供が生まれたらどういうふうに育つかのシュミレーションよ」

 もしも、女性化した子供が普通に生まれる未来がやってくるとしたらプロジェクトzのような優秀な子供が主流となるかもしれない。

「でも、今は私のほうがまだ強いわ。……もしも、彼女が成長するなら危なかったかもしれないけど」

「プロジェクトzは、成長しないのか?」

 石田には信じられなかった。

 石田はプロジェクトzが、青谷の肉体を完全に支配したときの様子も見ている。四つんばいになり、手足を動かすのすらやっとの状態であった。

 あれは、あのまま成長しない。

 ならば、青谷の肉体が乗っ取られることもないのではないだろうか。

「……そのデータは恐らくは間違いだ」

 成長できないのであれば、プロジェクトzは最初から青谷の肉体を奪おうとは考えないはずだ。

「プロジェクトzは、成長しているかもしれない」

 石田は、そう言った。

「だとしたら、プロジェクトzは早いうちに捕まえてしまいたいわ。でも……」

 少女yは、言いよどむ。

 彼女は悩んでいるようであった。

「プロジェクトzは、本当に博士Bを殺したのかしら。博士Bを殺すような人間が、星を守るとは思えないの」

 プロジェクトzを捕まえる。

 その理由が、少女yのなかで揺らいでいるかのようであった。

「イシダ、ちょっと肉体を貸して?」

「プロジェクトzと戦うのか?」

 石田の質問を、少女yは否定した。

「いいえ、ちょっと私の上司に相談するのよ」

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