第14話観覧車のなかのストーカー
観覧車のなかで、少女yは遊園地を見下ろしていた。
いや、実際には石田のなかにいる少女yと言うべきであろう。他人には、石田が一人で観覧車に乗っているように見える。
「人がいないわね」
石田のなかで、少女yは呟く。現在、石田のなかに少女yが同居している状態である。石田が許可すれば、少女yは本来の姿に戻れるらしい。
「ここらへんは、あまり人がいないからな」
石田は、ジュースを一口飲む。
安っぽい味がした。
地方の遊園地らしい味のような気がする。個性ある場所を目指しているくせに、なぜだか画一的である。観覧車に乗ったのは、青谷を探すためである。本人から遊園地に行くとは聞いていたが、待ち合わせもしていないので探しようがなかったのだ。
石田は一緒に行ってもよかったのだが、少女yはプロジェクトzを観察したいからという理由で石田と青谷の接触を嫌がった。ということで、石田はストーカーのように観覧車から青谷を探していたのである。非効率的だと思ったが、これぐらいしか石田には思いつかなかったのだ。自分にはストーカーの才能はないらしい、と石田は思う。青谷が見つかったから良かったが。
「でも、スタッフはそれなりにいるし……ここでプロジェクトzを捕まえるのは難しそうね」
「そうだな」
青谷が遊園地に行くと聞いたとき、少女yはそこでプロジェクトzを捕まえる作戦を考えていたらしい。だが、予想外に遊園地は戦うのに向かない場所だったらしい。
「地球人は、あまり遊ばない種族なのかしら?働いている人ばかりで、遊んでいる人はいないわ」
「ここに人気がないだけだ。それにしても、なんでこんなところに来たがったんだ?」
プロジェクトzが、遊園地に来たがる理由が分からない。
「遊びたかったんでしょう」
少女yは答えた。
「プロジェクトzは、赤ん坊と同じよ。生まれて、一年も経っていないから」
だから、好奇心で動いているのと少女yは答える。
「なぁ、プロジェクトzはどういうふうに殺人を犯したんだ。あいつは青谷の体を借りないと実態化できないだろう」
石田の知る限り、プロジェクトzは青谷の肉体を使って実態化している。恐らくだが、青谷以外の肉体では実態化はできないのだろう。そうでなければ、もう少し扱いやすい人間の取り付いているはずだ。意識不明の人間など、プロジェクトzが扱うのに都合がいい存在などいくらでもいる。
だが、彼らを選ばなかったことを考えるとプロジェクトzは青谷以外に取り付いても実態化はできないのだろう。
「……そこまでは知らされていないわ。私はただプロジェクトzを捕まえて来いって言われただけだから」
「上司にか?」
石田がそう尋ねると「そうよ」と少女yは答えた。
「私の上司である聖女xが、プロジェクトzが博士B殺しの犯人だと確定したの。私は、聖女xの元にプロジェクトzを連れて行くだけよ」
聖女xというのが、少女yの上司の名前らしい。
「聖女とは、随分と上司らしくない名前だな」
「彼女は、私たち女性の権利を守っているの。だから、聖女って言われてるわ」
「ああ、そこらへんはあだ名みたいなものなのか」
異星人の命名のセンスは謎である。
「元々の名前はxだけど、立派な女性だから聖女と呼ばれているのよ」
「女性の人権活動家みたいなものか」
石田は納得する。
地球にも似たような人間は存在する。それにしても、宇宙人が地球人と同じような問題を抱えているのは面白かった。少女yたちは、地球よりもはるかに進んだ技術力を持っている。そんな彼らであっても、地球人と同じところでつまずくなんてと思ってしまう。
少女yの話しによれば、聖女xは立派な人物のようである。
少女yたちの星の女性たちは、石田が想像するよりも窮屈な人生を送っているようであった。
「私たちの種族は女性が少ないから、ちょっと前までは女性は星を出ることはできなかったのよ。でも、聖女xが色々と活動をしてくれたから、私は星の外で働けるようになったの」
別の星でも、色々な問題があるようである。
日本なら、女性の国外旅行が制限されているような話であろうか。現代だったら、問題視されていたことがまかり通っていたことを考えれば少女yたちの種族が置かれた状況がのっぴきならないものだった予想が付く。
「聖女xは、博士Bと一緒に人口問題を解決するために研究を進めていたの。研究結果は無事だったけど、プロジェクトzは博士を殺した逃亡した。これが、私が知らされていることね」
少女yの話を聞きながら、石田は飲み終わったジュースのカップを弄んでいた。
だが、そのときはっとした。石田は、青谷がジェットコースターに乗ろうとしているのを見つけたのだ。そして、彼がチケットを渡そうとしている相手には見覚えがあった。忘れられるはずがなかった。なぜならば、それは恋人を死に貶めた女性の姿だったからである。
「清田美鈴?なんでこんなところに……バイトか」
石田は、舌打ちする。
飄々としている彼がここまで感情を露にするのは、珍しいことのように少女yは思った。短い付き合いだが、石田が変わりものだということを少女yは悟っていた。
「誰なのミスズというのは?」
「青谷の妹を苛めてた、クラスメイトの一人。たぶん、本人に苛めたっていう自覚はないだろうけどな」
葬式にいたし、と石田は呟く。
石田は、唇をかみ締めた。まるで、悔しさを思い出すかのような表情であった。
「あいつら、SNSで青谷の妹の悪口を言ってたんだ。青谷の妹が、なんか先輩に告白されて断ったのが原因みたいだな。下らない嫉妬だ」
少女yは「どこも一緒ね」と呟いた。
どうやら、少女yの惑星でも似たような話はあるらしい。生物というのは成長しないのだろうか、と石田は嘆いた。
「ただあいつらは、隠すのが下手だったんだ。青谷の妹は、そのSNSをずっと見てた。裏では自分のことを悪く言っている人間が、学校では友達面してる。耐え切れるわけがない。青谷の妹は誰も信用できなくなった。だから、家に引きこもったんだ。引きこもっても、SNSではずっと悪意ある言葉を見ていたらしい」
とうとう、耐え切れなくなって死んだんだと石田は言った。
「自分の悪口なんて、見なければいいのに」
少女yは、そう言った。
それは、強いからこそ言える言葉であった。生身で怪獣と戦える彼女だからこそ、強い言葉を発することができた。
石田は、目をそらすほどの強さがなかったのだろうと思う。
自分の悪口を言っている人間から目をそらすことも強さである。自分の悪口を無視するというのは、意外なほどに難しいことだ。しかも、それはいつでも見られるときている。
「なんで、貴方は知っているの?苛めていた子が自殺の理由を知らないのに」
少女yの言葉に、石田は答える。
「俺宛の遺書に書いてあった。青谷宛の遺書にも書いてあった。……たぶん、青谷の妹の自殺の理由を知っているのは世界で俺たちだけだ」
青谷は、ジェットコースターに乗ったようだった。
「どうする。俺たちは、もう一周するか?」
冗談のつもりだったのだが、少女yは思いのほか乗り気であった。
「ええ、高いところから観察するのは便利だわ。この星って、飛ぶと目立つから嫌なのよ」
「おまえが映った動画の回覧数は凄いことになっているもんな」
飛んでるところを見つかったら、間違いなく騒ぎになるであろう。
だが、もういっそそれでもいいのかもしれないと思った。
どんなに技術が進歩しても、生物そのものが進化しないのであれば少女yに全て絵が滅ぼされてしまえばいいと思ったのだ。
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