第9話男の子も人の話を聞かない
青谷が目覚めたとき、少女yは驚いたような顔をしていた。
青谷の姿は、プロジェクトzの本来の姿に戻っているはずである。少女yは、その姿に驚いていたのだ。
「その姿……その姿はまるで――B」
青谷は、地面を蹴る。
飛べば逃げられる、とプロジェクトyは言った。だから、青谷は飛ぶつもりだった。だが、体は浮き上がらない。
「力を抜いて、飛ぼうとしないで!!」
プロジェクトzは、叫んだ。その声の通りに、体の力を抜く。青谷の肉体は浮かび上がり、青谷は驚いた。
「こんなに簡単ならば、最初から使えよ」
「飛ぶだなんて、貴方は信じてくれないでしょう」
プロジェクトzの言葉通りだった。
最初に言われても、青谷はプロジェクトzはその話を信じなかっただろう。少女yは、呆然としている。だが、我に返って青谷を追ってこようとしていた。
「降りるぞ、プロジェクトz」
「なら、体に力を入れて」
青谷は、地面に着地する。
少女yが、その頭上を通過していったのを青谷は確認した。
「どうして、私たちが降りたことが分からなかったの?」
プロジェクトzは、不思議そうだった。
「俺たちを一瞬見失ったからだ。だから、ずっと飛んでると勘違いした。飛ぶほうが早いなら、逃げるほうは早い方法を選択しがちだからな。逆の行動をとれば、見失うんだ。……この姿は、目立つ。俺の姿に戻るぞ」
青谷の言葉に「わかったわ」とプロジェクトzは、答える。
一瞬だけ、青谷は眩暈を覚えた。
だが、それだけで青谷は自分の元の姿に戻る。
「今度は、気絶しなかったな」
「慣れたのでしょうね」
プロジェクトzの言葉に、青谷は頷く。
「それにしても、Bってなんだ?」
青谷の質問に、プロジェクトzは少しばかり呆れたようだった。
「気になるところは、そこなる?まぁ、いいわ。Bは科学者よ。私を設定した親でもあるし、私は彼が私を産んだらという設定を元に作られたの」
プロジェクトzの言葉に、青谷は引っかかるものを感じる。
「彼が産んだ、ってどういうことだ?」
「私は、そもそも男性も子供を産むことができたらという仮定で作られたモデルなの」
プロジェクトzの言葉に、青谷は唖然とする。
「私たちは、男女の比率が狂っていて子供の数がとても少なかったわ。だから、男性が女性化して子供を産めるようにする方法が開発された。でも、どんな未来が待っているかは誰にも分からなかった。だから、私という演算モデルを作って、私以降の世代がどうなるかを計算しようとしたのよ」
だが、結果は芳しくなかった。
だから、プロジェクトzは凍結されそうになったのだ。
「じゃあ。Bっていうのは男だけど、おまえの母親なんだな」
「データ上はね。会ったことは、一度しかないわ」
プロジェクトzは「それより」と話題を変える。
「よくyが、左遷だって分かったわね」
「ああ、それか。地球なんて、ちっぽけな星だってことはおまえの話しぶりで分かっていたからな。そういうところに一人で出向させられる奴は、大抵の場合は左遷だ」
そういうものなの?とプロジェクトzは納得できないようだった。
「今は、身を隠すのが先決だろ」
青谷の言葉に、プロジェクトzは一応は納得したようだった。だが、納得していないところもあったようである。プロジェクトzは、青谷に尋ねる。
「ねぇ、貴方は本当に分かっていたの?私が、貴方のなかにいる意味を」
プロジェクトzは、自分の命を欲している。
その欲望を満たすために、いつかは青谷の命を奪うであろう。
「分かってる」
「じゃあ、どうして私をyに引き渡さなかったの?生命ならば、自分の命は大切なんでしょう」
どうやら、プロジェクトzも青谷の態度に不安を抱いたらしい。
「自分がやらないといけないって、最初は思ったかもしれないけれども……今はyも地球に着たわ。貴方に、私は必要なくなったんじゃいの?」
青谷は、ため息をつく。
たしかに、自分のやっていることは怪しいであろうと青谷は考える。自分を殺す殺人鬼を自分の体に飼っているようなものである。しかも、その殺人鬼は切除可能なのに、切除しようともしていない。
「ねぇ、どうして」
プロジェクトzは、尋ねる。
話すべきなのか、と青谷は悩んだ。だが、喋らなければプロジェクトzは納得しないであろう。
「ちょっと、付いて来い」
青谷は歩き出す。
その言葉に、プロジェクトzは少しだけ笑ったような気がした。
「付いてこいだなんて。私たち離れることができないでしょう」
その通りだった。
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