第7話ファミレス四方山話

 青谷が近所のファミレスに行くと、すでに石田は席に座っていた。アイスを注文して、すでに食べている。

「青谷、とりあえずスマホだせ」

 石田は、青谷からスマホを受け取る。

「これ、壊すのは反対なんだよな?」

 石田の言葉に、青谷は頷く。

「それ、俺の個人情報はいっているんだからな」

「もう、役にたたないだろ。それどころか、コレには危険物が入ってる」

 石田がいう危険物とは、プロジェクトzのことだろう。

「あいつは、青谷と入れ替わろうとしているんだよな」

 石田は、青谷に確認する。

 青谷は、頷いた。

「ああ、あいつには肉体がないから本来の姿に戻るには俺の体が必要らしい。でもって、スペース・モンスター……怪獣と戦ってくれるって」

「戦っているのは、青谷だ。そして、代償はおまえの肉体だ」

 石田は、青谷を指差す。

 そして、青谷のスマホを強く握った。

「青谷、コレは危険だ。法螺話だったらまだいいが、プロジェクトzは本物だった。いつか、本当におまえの肉体を乗っ取るはずだ。今は、プロジェクトz自体が本物の肉体に慣れていないみたいだけどな」

 石田の言いたいことが、青谷には分かった。

 つまり、石田はプロジェクトzを手放せと青谷に言いたいのだ。

「プロジェクトzがいないと、怪獣と戦えない。お前もネットの映像を見ただろ。あんなのが現れたら、警察や自衛隊が来る前に被害が拡大する」

 石田が、首を振った。

「でも、プロジェクトzの敵っていうピンクの奴が怪獣を倒しただろ。あいつに全部任せればいいんじゃないのか。それこそ、プロジェクトzの排除も一緒に」

 石田は、アイスを食べる。

 その姿は、冷静そのものであった。

 青谷は注文もせずに、石田に言い返す。

「ピンク色のが、怪獣をずっと倒し続けてくれる保障はないだろ」

「プロジェクトzもそうだ。おまえの肉体を得たら、宇宙に帰っていくかもしれない」

 石田の言葉は、もっともだった。

 だが、青谷は心のどこかでプロジェクトzのことを信頼していた。肉体を差し出す代わりに、怪獣と戦うといってくれた少女の言葉を信じたいと思っていたのだ。

「今すぐ、プロジェクトzを手放せ」

 石田は、言う。

「……まだ、手放せない」

 青谷は言った。

「……それに、プロジェクトzはまだ肉体を動かせてない。俺の肉体を乗っ取るのは、そうとう先になる。だから、まだ……」

 石田は、青谷をにらんだ。

 その瞳に、青谷はぞっとする。

「おまえは、また繰返すのか?」

 石田の言葉に、青谷は言葉を失った。

 何にも言い返すことができなかった。

「そうやって、未来のことも後回しにして……」

「うるさい!」

 青谷は、立ち上がった。

 ファミレスの客たちが、青谷に注目したのが分かった。けれども、青谷にはそんなことはどうでもよかった。ただ、石田を黙らせたかった。

「プロジェクトzは、まだ安全に利用できる。それと……未来のことは引き合いにだすな。今は関係ないだろ」

 青谷の言葉を石田は否定する。

「関係ある。俺は、未来からおまえの事を託された」

 青谷は、石田に背を向ける。

 ファミレスから出ると、スマホの電源を入れた。

「おい、本当に話を聞いていないんだな?」

 青谷は、プロジェクトzに確認する。

 プロジェクトzは、頷いた。

「ええ、聞いていないわよ」

 その声は、嘘をついてはいないように思われた。ちょっと一緒に過ごすだけで、プロジェクトzの性格は分かっている。彼女は嘘がつけない。嘘がつけたら、もっと甘言を使って青谷を誘惑するだろう。だが、彼女は一度もそれをしなかった。だた、ひたすらに自分の欲望を叫んでいた。

 青谷は「なら、いい」と呟いた。

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