第9話 勇一郎
「勇一郎…頼みがあるんだけど、ちょっといいかしら…。」
貴子が、勇一郎の部屋に入ってきた。
勇一郎は母の姿を見て、「何か用?」と言いながら、見ていたDVDを一時停止した。
貴子は、勇一郎の隣に行くと彼の横に座った。
6畳の勇一郎の部屋は、整理整頓されており、真理絵の部屋とは違って、黒で統一されていた。
カーペットは白でカーテンは薄緑。
そのコントラストが、この部屋にマッチングしていた。
今日は日曜日という事もあり。
勇一郎は、溜まったDVDを片付けていた。
そこに、貴子が入ってきたのだ。
「…実は、真理絵の事なのよ。」
「真理姉が、どうかしたの?」
貴子の話はこうだった。
最近、真理絵の様子がどうもおかしい。
仕事が終わると、サッサと出かけてしまうし、帰ってくるのは深夜の24:00か1:00頃。
おまけにこの前、嫁いだ純子からも電話があって、池袋で真理絵に似た子がジーパンに、ブーツを履いた、ちょっと不良っぽい外人の男と歩いていたという話を聞いた事もあって、何かと心配で仕方がない。
そこで真理絵に、好きな人でも出来たのか?と聞いてみたが、そんなの居ないと言うだけだし、お父さんに話しても、そんな兆しは見えるが、あの子だってもう大人だ、責任という言葉だって知ってるだろう…と、言うだけなので、話にならないと言う具合だった。
「それで?俺に話と言うのは?」
「悪いとは思ったんだけど…一度、真理絵の後を付けて行って欲しいのよ。」
「えーっ!?」
勇一郎は、立ち上がって貴子に抗議をした。
「何で、俺がそんな事をしなきゃあならないのーっ!?お母さんがやればいいだろ!」
「私がやったら、変態に思われちゃうわよ!」
すると貴子は優しい顔になり、勇一郎を説得に掛かった。
「あんただったら、誰も怪しまないと思うし、黒いサングラスをかければ、まさか真理絵もあんただとは思わないでしょう?ねえ。お願いよ。今まで、好きな人が出来たって話す子だったのに…今回は何も話さないんだもの。それに、嫁入り前の娘でもあるし…お母さんちょっと心配でねー。やってくれないかしら…。」
「嫌だね!」
と、最初は猛烈に反発した勇一郎だったが、貴子が熱心に頼み込む事と、彼自身も姉が毎日どこに行くのか、ちょっと興味があった事から、渋々ながら承知する事にした。
休みが明けた月曜日の夜。
仕事が18:00に終わると、真理絵はまた、いそいそと支度をし始めた。
それを見た、勇一郎も彼女に気付かれない様に黒いジーパンを履き、茶色の革ジャンを羽織って、家の裏口からコッソリと出ると、表玄関から真理絵の姿を見付ける事が出来た。
今日の彼女の姿は、白のふわもこニットに、黒のスリットが入ったタイトスカート。
黒いタイツを履き、短めのブーツ。
そして、こげ茶の皮のコートを着て、おしゃれをしている。
「ありゃ、デートだな。」
サングラスをかけた、勇一郎は一言、小さく呟くと、帽子を被り、2mほど離れて姉を付けて行った。
しばらく歩いた真理絵は、地下鉄に乗り池袋に着くと、ある喫茶店に入って行った。
そして窓側の席に腰を下ろし、コーヒーを頼む。
姉に気付かれまいと、勇一郎は他人のフリをして、真理絵に背を向ける格好で後ろの席へと座り、ウエイトレスがやってくると、手早くコーヒーとピザパイを注文した。
そして、横目で、彼女の行動を観察した。
それから、10分程経ち、真理絵のコーヒーがちょうど来た頃、けたたましくドアを開けて圓山あすながやってきた。
「遅くなってごめーん!」
モカ茶色のパンツスーツに、白いブラウス。
その上に白いロングコート、
黒のパンプスを履いたあすなは、満面の笑顔を湛えて、真理絵の向かいに座った。
「会社がさあ。今日は残業日じゃないのにやってけって、うるさくてさあ。撒くのに一苦労したわ。」
注文を取りに来たウエイトレスに、同じくコーヒーを頼むと暫くあすなの愚痴が続いた。
その話を、真剣に聞く真理絵。
やがて、あすなは一息つくと、真理絵の顔を繁々と見つめながら、例の話を切り出した。
その話を勇一郎は、頼んだピザパイを食べながら耳を傾けた。
「ねえねえ。今日例の人にはいつ会えるのよ!」
「しーっ!声が大きい!」
「いいじゃなーい。名前は言ってないんだからさ!」
「だからあ。あまりこういう所では…話さないでって言ったでしょう!?誰が聞いてるか分からないんだからさあ。」
「だって、気になるんだもの。それで?いつ頃会えるの?」
「うーん。夜のバイトが22:00頃に終わるから、…。大体22:30位ね。あすな。時間大丈夫?」
「平気よー!いつも終電なんてざらだもの。それよりか、早く見たいものね。彼を。」
「ヘビーメタルは嫌いだって言ってたくせに、現金なんだから。」
どう言う事だ?2人の会話を聞きながら、勇一郎は首を傾げた。
しかし、1つだけ分かる事は、やっぱり真理絵には、何かしら隠している秘密があるのではないか?という事だった。
それから、1時間程経った後、真理絵とあすなは席を立った。
その気配に気付き、慌てて気付かれないように席を立つ勇一郎。
コーヒーの代金を清算した二人は、喫茶店を出た後、西口のバス乗り場まで行き、乗客の長い行列の最後尾に並んだ。
しばらく2人の様子を、駅のロータリーで窺う勇一郎。
しかし、2,3分程でバスは来てしまい、彼は、そ知らぬフリで乗客の列に慌てて並んだ。
そうした事で、勇一郎と真理絵達に距離が出来、かえって尾行しやすくなった。
3人を乗せたバスはすぐに発車し、夜の池袋街へと走り出した。
途端にネオンの煌めきをあちらこちらに見ることが出来た。
綺麗だな…久しぶりに見る12月の東京の夜を彩る夜景は、色とりどりのクリスマスの夜景に変わっていた。
そうか、もう、そんな時期か。
勇一郎は思った。
そう言えば、ここのところ仕事と家で、池袋には来てなかったな。
しかし、真理絵達は外の風景になど興味がないのか、ひたすら喋り続けている。
一体、どれだけ喋れば気が済むんだ。
2人の方を見ながら、勇一郎は思わず溜息をついた。
時間が経過し、バス停を4停ほど過ぎた頃、彼女達はある地点でバスを降り、バスの進行方向に向かって歩き出した。
勇一郎も慌ててバスを降りたが、不思議な事に彼女達とは逆の方向へ歩き出した。
バスは、行ってしまった。
時間が刻む度、勇一郎と真理絵の距離が段々広がっていく…。
すると、急に勇一郎が足を止めた。
「もう、大丈夫かな?」
それから、クルっときびすを返し、小さな姿になった真理絵達を見る。
何も知らずに笑いながら、2人の姿を遠くに見た彼は、よしっ!!と思い、小走りに走って、再び彼女達の姿を追った。
右に曲がり、左に折れて、小さな商店街に出た。
そこの八百屋に2人は立ち寄り、何か言いながら買い物を始めた。
そういやあ、腹減ったな。
ピザパイだけじゃ、足りないよ。
彼のお腹が急にグーっと鳴り出した。
「ありがとうございましたあー!!」
粋のいい、女性の声が小さく聞こえた後、真理絵達が店から出てきた。
大きな白いビニール袋を手に下げながら2人はまた、歩き出す。
今度こそは目的地に着いてくれよ。
勇一郎は祈るような気持ちで二人を尾行した。
それから5分程経った後、真理絵が足を止めてあすなに言った。
「着いたよ。」
そこは、人気のない住宅街だった。
一戸建て住宅が軒を連ねており、その間に挟まれるようにして、そのアパートはあった。
どうやら、そこが2人の目的地のようである。
それが証拠に、真理絵はあすなの腕を引っ張ると、隅にあった階段を一歩一歩昇り始めた。
勇一郎は2人に気付かれまいと、アパートの近くの電信柱に隠れて、様子を伺った。
2階に上った2人は、それからある部屋の前でピタッと止まり、チャイムを鳴らした。
途端に、はーい!と、哲太の声が聞こえ、ガチャッとドアを開ける音が聞こえた。
初めて見る若い男だった。
勇一郎は、橋本哲太の顔を知らなかった。
「こんばんは。哲ちゃん。こちらが、電話で話をした『圓山あすな』さん。」
真理絵が、あすなを紹介した。
すると後ろの方に居た、あすなが自己紹介を始めた。
「こんばんは。今日は招待して下さって、ありがとうございます。」
別に招待したわけじゃないんだけどな…。
若干の不安な気持ちを真理絵は抱きながら、3人は部屋へと入って行った。
真理絵達が、中に入ってしまった後、勇一郎は人気のない道路の電信柱の横で、ジッっと真理絵が話していた、『例の彼』を待ち続けて居た。
腕時計を見ると、21:10を指していた。
一段と冷え込む夜の帳の中。
勇一郎はジッっと耐えて居た。
時折冷たい風が『ピュー』と吹き、彼の体を容赦なく打ち付けた。
その度に革ジャンの襟を立て、手袋をきつくはめなおし、マフラーをギュッと掴む。
あまりの寒さに、息をハーッとすると白い息が見えた。
こんな事なら、車でくれば良かったかなあ。
と、勇一郎は思ったが、それでは尾行にならない。
目的地が分かったから、そんな考えが浮かぶんだな、そう思い、クスッと笑う。
しかしこのままでは、とても寒くてかなわない。
そう思った勇一郎は、せめて、お腹だけでも暖かくしようと近くの自動販売機まで行き、暖かいコーヒーを買った。
一口『コクッ』とコーヒーを飲むと、フーッと溜息が出た。
これで何とか凌げるかな。
ふいにそう思った時、人気のない道路を歩く足音が聞こえた。
その音は、だんだんと勇一郎の居る方向へと近づいて来る。
例の彼だろうか?でも、まだ、22:30になってないぞ。
勇一郎は、飲みかけのコーヒーを持って、足音のする方へと走っていた。
暗闇なので顔を見る事が出来ない。
男は暫く歩いて、あのアパートの前で止まった。
アパートの2階の蛍光灯に照らされ、男の後ろ姿だけは見る事が出来た。
黒いGジャンにジーパン姿の若い男は、暫しの間アパートの2階の部屋を眺めた後、隅の階段に向かって歩いて行った。
男が階段を上り始めた時、一瞬その顔を蛍光灯が煌々と照らした。
…何処かで見た顔だ…でも何処で!?勇一郎は低く唸り、急いで彼の後を追いかけた。
男は足早に階段を上ると、フーッと溜息をついた。
その時、ハッキリと男の顔が見えたのだ。
形の整った張りのある丸顔。
スッと高く伸びた鼻、そして何よりも、ドイツ人特有の澄んだ瞳のダークブラウン!
「…マルセル…?マルセルキスク!?」
勇一郎が階段の下で思わず大きな声で叫んだ。
その拍子に、ハッ!と勇一郎が居る事に気付き、マルセルは思わずドイツ語で叫んだ。
「誰だ!?」
マルセルが怒鳴る。
しかし、その言葉を無視し、勇一郎が夢中になって階段を駆け上り、彼の手を信じられないといった形相で強く掴んだ。
「何で!?何であんたがここに居るんだよ!?」
彼の体を揺らしながら、動揺する勇一郎にマルセルはどう対処すればよいのか分からなかった。
すると、表の騒ぎを聞きつけたのか、哲太が部屋のドアを『バン!!』と開けて、そこに居た勇一郎に向かって怒鳴った。
「誰だお前は!?何してるんだ!?」
それにつられて、外へと出た真理絵は、その現実に悲鳴にも似た声で叫んだ。
「勇一郎!?」
「はい、勇一郎…」
コトッと彼の前に出された物は、出来立てのパンプキンスープであった。
彼が所属しているバンドの名前が、サベージパンプキンだったので、ジョークのつもりで作ったあすなと、真理絵の手作りスープであった。
真理絵は勇一郎にスープを渡した後、次々とスープをテーブルの上に置いて行った。
それから、覚悟を決めた様にユックリと席に着いた。
部屋は、シーンと静まり返っている。
あすなが、気を紛らわすかの様に「スープが冷めちゃうわ」と笑いながら言った。
しかし、勇一郎は真理絵の目を見て徐に話し始めた。
「何故、こんな事を?こんな事が知れたら、俺達みんなマルセルを監禁した罪で、逮捕されるよ。…第一、マスコミだってほっとかないぜ?こんな面白いネタ…」
とまどい、怯える様に勇一郎は言った。
マルセルは、仕事の時何故、バレなかったのか?それは彼が、カラーコンタクトとマスクで誤魔化して居たからだ、ラーメン屋に来た何人かの客にはマルセルキスクに似ている。
と、言われてはいた。
しかし、黒いカラーコンタクトとマスクをして、日本語を喋って居れば、彼が外国人だと誰が思うだろうか?なので彼は今まで、マルセルキスクだとはバレなかったのである。
しかし勇一郎が見た時、彼はカラーコンタクトをしていなかった。
道の途中で、目の中に長いまつ毛が入ってしまった為、慌てて取ってしまったからだ。
だから、勇一郎にバレたのである。
勇一郎は、尚も続けた。
「一体、誰が!?誰がこんな途方も無い事を思いついたんだ!?」
「私よ。」
冷静に真理絵が答えた。
その顔には、一点の曇りもなかった。
「…正気か!?真理姉?真理姉がマルセルのファンだって事は知っていたけど…ちょっとこれは、やり過ぎだぜ?真理姉は今、世間に、いや、バンドのメンバーに顔向けが出来ない事をしているんだぞ!!」
「知ってるわ…でも、私はマルセルを監禁なんかしていない。これには訳があるのよ。」
「どんな訳だ!?言い訳があるんだったら聞いてやるよ!!」
勇一郎は、彼女を攻め続けた。
それでも真理絵は耐えて話を続けた。
マルセルの存在を知られてしまった以上、誤解を解いて勇一郎に分かってもらうしかない、そう彼女は思い全てを話すしかないと覚悟を決めた。
「マルセルは、高い声が出なくなってしまったのよ。歌えなくなってしまったの。」
「えっ!?」
勇一郎の怒鳴る声がやんだ。
それから、彼女の顔をマジマジと見つめ・・・
「声が出なくなったって?マルセルが歌えないって…?」
彼は、マルセルの方を見た。
彼の目は虚ろで悲しげだった。
「本当かよ!?それ!?」
勇一郎が、真理絵に聞いた。
「本当よ。」
真理絵の言葉は穏やかであった。
「どうして、嫌、ちょっと待って…」
勇一郎は考えた。
今自分が何を聞きたいのか考え、黙っていたが、やがてユックリとした口調で真理絵に聞いた。
「それでは聞くが、真理姉は何故マスコミも知らない事を知って居るんだ?それにマルセルが何故、ここに居るわけ?」
勇一郎の問いに、真理絵が事の経緯を話そうとすると、不意に今まで話さなかったマルセルが、「ここからは、俺に話させて欲しい。」と真理絵の言葉を遮った。
「ど、どうなっているんだ!?マルセルは、日本語喋れるのか!?」
驚きを隠せない勇一郎。
その彼の態度に、マルセルはクスッと笑うと、「君のお姉さんと知り合えたのも、俺が日本語を話せたからなのさ。」と、全てを語り始めた。
母親の事、バンドの事、母の死があまりにも重くのしかかってしまった為に、ある日声が出なくなってしまった事。
そして…真理絵との出会い…など事細かに話した。
それを、真剣な面持ちで聞く勇一郎。
その2人の光景を見ていた真理絵は、ふと、ある事を思い出していた。
それは10日程前、マルセルが真理絵に暖かいコーヒーを飲みながら、ことのいきさつを話してくれた情景であった。
今の、2人の姿があの時と非常に似ていたからだ。
30分程の延々と続いた話がついに、終わった頃、マルセルは勇一郎の目をジッと見つめた。
勇一郎は、堪らなくなって目を反らした。
しかし、横目で彼をコッソリと見ると、「大体の事は分かったよ…。」と呟いた。
それから少し間をおいて、「声が出ないんじゃ、仕方ないもんな…。俺も…共犯者になっちまったぜい!」と、少しユーモアを交えて、バツが悪そうにクスッと笑った。
それから5人は真理絵とあすなが作った、キムチ鍋を食べた後、色々な会話で話が弾み、楽しいひと時を過ごした。
だが、夜の23:00も過ぎると、終電がなくなるとの事でアパートを後にした。
途中まで、あすなも一緒だったが、彼女と池袋で別れると、待っていたかのように勇一郎が真理絵に話しかけた。
「真理姉。マルセルの事は、母さんには黙っていてあげるよ。」
「うん。ありがと。勇一郎。」
ニコッと真理絵は笑って答えた。
しかし、心から笑って居ない様に、勇一郎には思えた。
「でも、本当にどうするつもりだ、真理姉?いつまでもこのままってわけにはいかないだろう?日本のマスコミだって、やっきになって探しているし、第一マルセルは、ワールドツアーの最中に行方不明になっているんだもんな。そうなると、レコード会社側も放っとかないと思うし、まず、サベージパンプキンが活動停止状態だろう?問題は、山積みだぜ?」
しかし、弟の言葉を聞いていた真理絵は、「そうね…でも…」と、彼に向かって、俯き加減で話し始めた。
「私だって、その位の事分かって居た。いつまでもこのままではないと思うし、彼には恋人も居るし、いずれマルセルは故国に帰らなければならないでしょう。その時が来たら、私は笑って見送るつもり、でも…でもね、勇一郎。私が何よりも嬉しかったのは、あの人が初めて出会った時、私を頼ってくれた事だったのよ。いくら、自分の生まれた国だからって、マルセルはもう何十年も日本という国を知らないでいる。その、見知らぬ国で、バンドのメンバーでもなく、恋人でもなく、両親でもない、たった1ファンという存在だけの、私の言葉を信じて付いて来てくれた事だったの。あの時は、涙が出るほど嬉しかった…。だから、それだから、私はマルセルを匿ってあげようと思ったの。一時でもいいから、あの人と一緒に同じ事を感じ、考え、そして苦しみたかったのよ。それだけで良かった。私はそれだけで…十分幸せを感じる事が出来たわ。きっと、私と同じマルセルキスクのファンも、私の立場だったら同じ事を言うと思う…。」
勇一郎は、真理絵の言葉を聞きながら、今まで思っていた疑惑が嘘の様に溶けていくのを感じて居た。
そして、代わりに真理絵がただのファン根性でマルセルを好きなのではなく、一人の女性としてマルセルキスクを愛して居る事に気が付いた。
「本気なんだね…。」
勇一郎がポツリと言った。
しかし、その言葉は地下鉄の轟音にかき消され、真理絵の耳には届かなかった。
終電車の地下鉄は、滑るように、何事もなく2人を乗せて走っていった…。
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