際目

のきすけ

第1話 聞こえるはずのない雑踏

 私は今、人を待っている。駅のホームで、一人手を揉みしだいて。まだ2月だというのにやけに暖かく、雲一つない日だ。平日の昼間なのにやけに人が多いように感じた。待ち合わせの時間まであと15分。少し早く来すぎた。今日、私は人生で初めて告白をしようと考えている。


 相手は大学の同じ学部の佐藤香織さん。黒髪で、目の大きな乙女である。この4月から同じ研究室に配属されることになっている。

 香織さんとの出会いは入学当初の授業の中で松山城に登ったときの事だった。皆が城の中に入っていくのを横目に、彼女は売店のアイスを眺めていた。その横顔がとても美しかったのを、はっきり覚えている。私は完全に一目惚れしてしまったのだ。気づくと私は話しかけていた。

 「みんなもう城の中入ってるよ」

彼女にはアイスしか見えていないのか、私の方も振り向かず無視された。その凛とした態度にまで惚れてしまう私は恐らく阿保であろう。売店で売られているのは、愛媛の蜜柑アイス。こっちに引っ越してきたばかりの者には、とても魅力的な商品だ。私はアイスを2つ買い1つを、彼女に渡した。

 「俺の奢り。一緒に食べよ。」

彼女は猫のような表情で微笑み、うなずいた。アイスを食べている間、彼女はいろんな事を喋ってくれたが、私はその美しさに見惚れてしまい、話の内容とアイスの味などほとんど覚えていない。食べ終えると、彼女は両手を合わせて、拝むようにし「なむなむ」と呟いて去っていった。なぜだかその不思議な行動にさえ私は心を奪われてしまっていた。


あれから2年が経った。2人きりで会うのは初めてだ。今日、一緒に食事をした後、松山城にて告白をもくろんでいる。大丈夫。セリフはバッチリ考えてきた。


あと5分。待ち合わせの時間までもう少し。

駅のざわめきが一層強くなったように感じた。

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際目 のきすけ @aioyumekui

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