第二章 拳と鉛と出会い

 唯吾拳ゆいがけん。あいつは、栃木県の端っこで生まれた。


父親が音楽好きでさあ、幼稚園に通うときの車の中とか、ずううっとロックンロールが流れてた。そのせいで、四歳なのにギターがぎゃりぎゃり弾けるようになっちまった。


それが運の尽きだったのかねぇ、拳の両親は拳のことを天才だ天才だと持ち上げた。幼い拳は真に受けてさあ、いつの間にかロックミュージシャンが夢になって経ってわけだ。


「俺、ロックミュージシャンになるんだぜ!」


幼い拳がそう言って触れ回ったときに、バカにしなかったのは拳の両親と愛兎鉛だけさ。


 愛兎鉛あいうえん。こいつは栃木県の隅っこに生まれたばかやろぉだよ。


両親は早くに亡くして、孤児院で育った、たくましい、そりゃあもうたくましすぎて生命力がゴキブリみたいなやつだよ。


孤児院だってぇのに友達をつくるのが下手っぴだった鉛は、ずううっと本ばっかり読んで育ったのさ。


そんな鉛は小学生になる頃には夏目漱石を読むような天才少年さ。周りの子らにはそりゃあバカにされていじめられたもんだけどね、いつも決まって拳が助けた。


 二人の出会いはさっき言った小学校さ。すぐに仲良くなりやがったよ。そりゃあそうさ、だってあいつらあんなちびの頃から変人だって有名だったもんなあ。


今思い出しても笑えるよ。二人、下校途中の小さい公園でいつも夢の話をしてたさ。


「なあ、鉛。俺はもういっぱい曲持ってるんだぜ。どんな天才でもこんな早くから曲持ってるやつぁいなかったろうよ。」


「すごいなあ拳くんは。僕は本を読んでばかりで何も出来なくていじめられて…。」


「何いってんだバカタレ!この前読んだ鉛の書いた絵本すごい熱かったぜ。俺なんか、曲は作れても歌詞が書けないんだよ。馬鹿だからさ!」


おもしれえ話だよなあ。あんたも笑えるだろ?拳のやろお、鉛にバカタレ!って言って話し始めて最後は自分が馬鹿だからさ!だとよ。


ほんとに困ったやろうどもだよ。小学校を卒業してそのまま入った公立中学校で、変な夢を交わしやがるんだ。


ん?展開が早いだと?そう野暮をいうもんじゃあねえやい!急がないとこの話、延々おわんねぇぞ?


ンンン…今日は僕ちゃんもう眠くなっちまったよお。御仕舞いだ。また今度だな。


ほいじゃ。

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ペンは剣より強くはないけど、鉛と拳ならどこまでも @seikamorinaga3

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